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元・天才子役は一般人になりたい  作者: 宵月しらせ


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第17話 勉強会

 一学期の期末テストが近づいて来た。

 前回の中間テストではほどほどの成績だったが、今度は上位に食い込みたい。


 気合いを入れて勉強しようと思っていると、いつものように須賀から話しかけられた。


「お前んちで勉強会やらないか?」


「別にいいけど」


 とこれまたいつものように、俺は普通の高校生としての対応を演じていたが、内心は大喜びだった。やったー! って感じで。


 勉強会。

 友達と一緒にテスト……どれほど憧れたことか。

 ドラマの中でしかやったことがない。リアルで経験できる日が来るとは。


「メンバーはいつもの? 俺らの他は愛遊と桜井さん?」


「いや、今日は野郎たちでやろうって考えてるんだけど」


 ダジャレになっているような気がしたが、あまり面白くなかったのでスルーさせてもらう。


「他にこいつら連れて行きたいんだが」


 須賀が連れて来たのは、クラスの男子たち四人。

 俺と須賀を合わせれば六人。大所帯だ。


「六人だと狭いぞ」


「大丈夫だろ。みんな一人暮らしの家に憧れてるんだよ。見学したみたいんだって」


 俺の家がたまり場みたいにされるのはイヤだが……まぁ今回は特例。普段は愛遊がいるから、男の入場は制限してるってことにすればいいか。

 いやぁ、(偽装)カップルの設定は結構便利だな。


「……わかった。じゃあいいよ」


「よし。ってことで……ごめ~ん、皆川さん、今日は梨野のこと貸切にしたいんだけどいいかな?」


 須賀から今の話を聞いた愛遊は、「ああ、そうなの」と頷いていた。

 それはいいが……話を通す以外にもやるべきことがある。


 愛遊が俺の隣に住んでいることは、まだ誰も知らない。

 知られて悪いことではないが、特によさそうなこともない。からかわれるだけになりそうなので、なるべく隠していたい。

 同じタイミングで教室を出て、同じ場所に向かうのは避けたいところだ。


「…………」


 無言で愛遊に視線を送る。


「…………」


 愛遊も無言で俺を見てくる。同時に、右手で拳を握り、ひらひらと振るジェスチャーを見せた。

 怒っている――というわけではない。

 昔使っていたハンドシグナルだ。


 バラエティーに出た時は、息ピッタリのリアクションを常に期待されていた。

 しかし、それは簡単なことではない。普通にバラバラのことをしてしまうことは珍しくなかった。


 それを克服するためのハンドシグナルがいくつかあり、カメラに映らないように合図を出してタイミングを揃えていた。

 右手の拳はその一つ。“10”を表すサインだ。

 たとえば、「十数えたら」「十秒後に」という感じで使っていた。今回の場合は、「十分ずらせ」って意味だろう。


「うちお菓子とかジュースとかないからさ、どっかで調達しようぜ」


 俺はそう提案し、寄り道してからうちに連れて行くことにした。


★★★


 放課後、ドラッグストアを経由して俺の家に行ったのだが、買った食べ物の量が多すぎる。

 山のようなお菓子に、人数分の本数以上ある二リットルのペットボトル。

 さらにピザ。結構な量のピザ。

 本当に勉強会なのだろうか? と疑いたくなるほどの量だ。こんなにたくさん食べたら、逆に頭がぼーっとするのでは?


 いや、しかし、これはこれでアリだ。

 ピザとお菓子とジュース……こんな怠惰な食事、働いていた頃は絶対にできなかった。


 こんなものを食べていたら、たとえ小学生であっても翌日の肌のコンディションはがた落ちになる。

 ジャンクフードを全然食べなかったわけではないが、体調管理も仕事のうちなので量は厳しく制限されていた。

 こんな無制限に食べられるのも、“普通”だからできることだ。


★★★


 クラスメイトたちをうちに連れて行くと、みんな「これが一人暮らしの家か~!」と感動したように言いながらルームツアーを始めた。


「思ったより整理整頓されてるな」


「男の一人暮らしなんてゴミ屋敷だろうと思っていたのに」


「そりゃ綺麗で当然だろ。皆川さんがいつも来てるんだぜ」


 なぜか俺ではなく、須賀が自慢気に胸を張った。


「皆川さんに掃除してもらってるってことか? あんな美人の彼女持ちってだけでなく、身の回りの世話までしてもらえるなんて……羨まし過ぎるぞ!」


「部屋の掃除は俺が全部自分でやってる」


「マジかよ……じゃあ料理は? いつも同じ弁当だけど、毎日作ってもらってるってことか?」


「交代で作ってるが」


「お前なんなんだよ! 完璧野郎か!」


「なぜそんなにキレられるのかわからないんだが……」


「嫉妬だよ!」


 こうも堂々と嫉妬と言われたんじゃ、なにも言い返すことはできないな。

 しかし、嫉妬の目を向けられることには慣れていたつもりだったが……引退してまでそんなこと言われるとは思わなかった。


「そんな羨ましい生活を送っているなら、土産を持って来る必要はなかったな」


「土産?」


「よく考えたら一人クラスの彼女持ちには不要なブツだったかもしれないが……今日はここを使わせてもらうわけだから、土産は渡しておく。オレは筋を通す男だからな。嫉妬してるからってケチなことはしない」


 そう言ってそいつは、自分のバッグから紙袋を取り出した。

 中には黒いビニール袋が入っていて、本当の中身がなんなのかパッと見ではわからない。


「これなんだ?」


「今は開けるな。それを開けたらテスト勉強どころじゃなくなるからな。自慢じゃないが、オレはテストには結構自信があるんだ……赤点を取る自信がな!」


 噂では、こいつは前回のテストで、半分以上の教科で赤点を取ったらしい。


「ってことで、それはどっか見えない場所に置いといてくれ。袋越しでも見えると気が散るからな」


「どんな魔力を放ってんだよ」


「そりゃすごい魔力さ。お前も開ければわかる」


「ふぅん……キッチンにでも置いておくか」


 袋を置いて戻って来ると、クラスメイトたちはすでに勉強だか食事だかわからない状態になっていた。

 参考書の横にコーラ、ノートの横にピザ。向かいのやつとの間にチョコ……。

 う~ん……見ているだけでニキビができそうだ。


「そう言えばさっきのブツ、返却期限は三日か四日後ってことで頼む」


「土産っていうからくれると思ったら、レンタルなのか?」


「うちの部で先輩から代々受け継がれてるコレクションの一部だからな。返さないといけないんだ」


「ふぅん」


「さ、そんなことよりテスト勉強だ。目指せ赤点回避!」


 それから勉強会が始まり、だらだらと食べたり、問題を解いたり、須賀からのろけ話を聞かされたり、普段はうちで愛遊となにをしているのかと詰問されたり……。

 なんか普通の高校生っぽいことがたくさんできて楽しかったなぁ。


 ――なんて思っていたが、彼らが帰り、愛遊がうちに来た後、状況が一変した。


★★★


「なんか食べ物のにおいが混ざって気持ち悪い。それになんか汗臭い気がする。……男六人も集まるとこうなるわけ?」


 窓を開け換気をしながら、愛遊は部屋の中に視線を向ける。

 無造作にゴミ箱に突っ込まれたお菓子の袋や、転がった空のペットボトル。積み重なったピザの箱。


 普段の俺の家では見られない光景だ。

 冷静になって見ると、ずいぶんと散らかっている。


「がっつり掃除した方がよさそうだな」

「その方がいいよ。食べ物が残ってると、こわ~いあの虫が出ちゃうから」


 アイツか……アイツはイヤだ。一人暮らしでアイツが出たら、眠れなくなってしまう。


 困ったことがあれば愛遊と助け合うことになっているが、アイツに関してだけは頼れない。

 自分で対処しなければいけないが……はたしてできるだろうか? ちょっと自信がない。

 出ないように最善を尽くす。それに勝る道はない。


「勉強で疲れてるけど、さっさと掃除しちゃうか」


「私も手伝うよ」


「ありがとう」


「ううん、いいよ」



 ゴミをまとめて袋に入れ、その口を縛っていつでも収拾所に持っていけるようにして……ここまでは順調だった。

 綺麗になったので、お茶でも飲もうかと愛遊がカップを取りにキッチンに行った時、流れが変わった。


「ねぇ、この袋なに?」


「袋?」


 今日は全然キッチンを使っていなかったので、掃除も特に必要なかった。

 だから忘れていたが、そういえば土産を置いていたっけ。

 あれはなんなんだろう? とぼんやり考えながら、


「開けていいよ」


 と言ってしまった。

 それがどんな意味を持つかも理解せずに。


 少しして愛遊がキッチンからリビングに歩いて来たが……あれ、なんか足音がいつもより重い気がする。

 ずいぶん力が入っているような?

 もしかして、怒ってる?


「圭介くん、これはなに?」


 愛遊が手に持った紙袋を突き出す。

 中身は見えない。


「いや、それは――」


「どういう意図でこんなの持ってるの? なんでこれを私に見せたの?」


 え、な、なに?

 なんで? なんでそんなに怒ってるの?


「どういうことかって聞いてるんだけど!」


 紙袋を投げつけられた。

 訳もわからず、とにかく中を調べてみる。


 入っていたのはDVDのパッケージが数個。

 今時DVDって……まぁ先輩から受け継がれてきたブツらしいので、こういう物になるか。


 で、パッケージのデザインはというと……あらまぁ、おっぱいどころか全部見えているお姉さんが映っているではありませんか。

 これはアレですね。AVというやつですね。

 なるほど、一人暮らしの男に喜ばれそうだが、彼女持ちだといらないかもしれない……と思われた理由が理解できた。


 しかし、まだわからないのは、なぜ愛遊がこんなに怒っているのかという点だ。

 こんなのをいきなり見せられたら、不快に思うのもしかたないかもしれない。

 それにしても、ちょっと怒りすぎじゃないか?


 別に「わぁ面白そう、一緒に観よう!」と言ってほしいわけではない。

 しかし愛遊なら、「男の子だねぇ」と流してくれそうなものなのに。

 ……怒っている理由は、一番上にあったDVDではないのだろうか?


「………………あっ」


 複数個あったパッケージを順に見ていった俺は、一番後ろにあった物を見た瞬間、血の気が引いた。


 背の低い……百四十センチ台と思われる女優が、妙に見覚えのある衣装を着ているパッケージだった。

 否。見覚えがあるどころか、着た覚えさえある。


 パッケージにはこう書かれていた。


【〇海〇々激似! 実は三つ子だった⁉】


 これは…………。

 愛遊の怒りも当然だろう。

 よりにもよって俺がこんなの持ってたら、気持ち悪いどころじゃない。

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