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元・天才子役は一般人になりたい  作者: 宵月しらせ


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13/20

第13話 告白の計画

 中間試験が終わり、俺の成績は中の上というところだった。

 平均を超えたことにとりあえず満足していたある日のホームルームにて、担任が次の行事の話を始めた。


「来週、遠足があります」


 遠足……。

 遠足!


 その響きに俺の胸は高鳴った。

 まさか高校に遠足なんて行事があるとは思っていなかったが、あって悪いものじゃない。

 いや、むしろ嬉しいことこの上ない。


「ということで、四人組の班を作ってください」


 担任のその言葉を合図にクラスメイトたちはそれぞれ席を立って、友達と集まり始めた。

 俺は誰と組もうか……と考えるまでもない。

 誰から提案するまでもなく、自然な形で、愛遊、須賀、桜井さんと集まり班を作った。


「遠足楽しみだなぁ」


「梨野、お前高校生にもなってそんなわくわくを顔に出して……ちょっと恥ずかしいぞ?」


「そんなこと言っても、山に登ってバーベキューするんだろ? これが楽しみでなくてなんだって言うんだ?」


 遠足の日程は、朝学校に集合、バスで県内の山に行き、数時間の登山をしながら頂上付近にあるキャンプ場を目指す。

 そこでバーベキューをした後、バスで帰る――というものだ。


「そんなに遠足が好きなのか?」


「むしろ憧れてると言っていい」


「憧れって……小学校の頃は毎年あっただろ?」


「あったが、ほとんど行けてない」


「なんで?」


「当時は体が弱くてな」


 今の俺の話は半分くらいウソだ。

 病弱だったわけがない。そんなやつが人気子役として分刻みのスケジュールで働いたりはしない。


 忙しすぎて、遠足に行かせてもらえなかったのだ。

 学業を大事にするということで授業にはちゃんと出席させてもらえていたが、遠足や運動会みたいな課外授業の日は、ここぞとばかりに仕事を入れられて出席したことがない。

 だから、遠足に憧れがあるって部分は本当だ。


「バーベキューも楽しみだ」


「それもやったことないのか?」


「あるにはあるが、友達とやるってのは初めてだ」


 海や山でのロケの後、バーベキューが用意されていたということは何度もある。

 それはそれで楽しいのだが、必ずカメラが回っていて、仕事の一部という感じだった。


「この遠足、俺はすごい気合入ってるぞ。絶対に最高のものにする」


「そうか、がんばれよ……いや、がんばるのはオレもか」


 須賀が思い詰めたような顔でつぶやいたが、浮かれていた俺はそれほど気にしなかった。


★★★


「バーベキューを最高に楽しむために、これから遠足まで肉は減らそうと思うだがどうだ?」


 その日の夕方、俺がそう提案すると、愛遊は首を傾げた。


「ずっとお魚ってこと?」


「そうなる。肉を断つことによって、肉を食べたい欲を高め、バーベキューをさらに楽しもうという作戦だ」


「別にいいけど……そこまでする?」


「遠足があるのは一年だけらしい。つまり、これは俺にとって、人生で最初で最後の遠足だ。最大限に楽しむためなら、できることはなんでもやる」


「なんて執念……まぁ私も遠足は初めてだから、それに乗ってあげるよ。これまで遠足に不参加だった分も全力で楽しもう。おーっ!」


 ということになり、その日から遠足に向けて調整の日々が始まった。


 クラスメイトの中には「高校生にもなって遠足なんて……」と言っている人も少なくない。そんな中、俺たちはちょっと異色かもしれない。

 きっと俺たちが一番遠足に前向きで、一番楽しめるってことだろう。


「早く遠足の日にならないかなぁ」


「そうだねぇ」


 なんて言いながら、二人でキャンプ動画を観て気分を高めている時だった。

 俺のスマホに、須賀からのメッセージが届いた。


 須賀:今時間あるか? なんならお前んちに行ってもいいか?


 どこがとは具体的に言えないが、いつもとは違う雰囲気がそのメッセージにはあるような気がした。

 愛遊にそのメッセージを見せた後、返信した。


 圭介:別にいいが、愛遊もいるけどいいか? それとも愛遊は帰らせるか?

 須賀:いてくれた方がいい。じゃあすぐに行くから。二分くらい。


 かなり近いところにいるんだな。

 思い付きで来ようと思ったのではなく、もっと前から近所まで来ていて、俺に連絡するかどうか迷っていたのかもしれない。

 須賀の目的はわからないが、なにか悩みがあるようなら相談に乗ってやらないと。

 友達の悩みを解決するのは、きっとかなり普通のことだ。


★★★


 連絡があってから、二分も経たないで須賀がやってきた。

 お茶を淹れるためにお湯を沸かし始めたのに、まだ湯気も出ないほどすぐの来訪。

 よほど重要な話なんだな……と否応にも察せられる。


「私はお茶を淹れてるから、圭介くんは須賀くんと話してて」


 と愛遊が言うのでキッチンは任せ、俺は須賀をリビングに通した。

 須賀は前にここに来たことがあるのだが、今日はその時よりも落ち着きがない感じだ。

 イスに座ってもそわそわとして、じっとしていられない様子。


「なにか悩み事か?」


 と、俺の方から口火を切ってやる。


「悩みっていうか……相談っていうか」


 そこでまた須賀の言葉が止まった。

 今度はじっくり待ってやろうと思っていても、なかなか須賀は話し出さない。

 そのうちお茶を淹れた愛遊がやって来て、俺たちの前にカップを置いた。


「ありがとうございます……」


 須賀はお礼を言ってから、ゆっくりとお茶に口をつける。


「うまい……皆川さんは料理が上手だね」


「そう?ありがとう」


「お茶がうまい場合、淹れ方よりも茶葉の良し悪しが重要だと思うが……痛っ」


 須賀のお世辞を真に受けたような笑みを浮かべた愛遊を見て、思ったことを言ったら、テーブルの下で足を叩かれた。


「淹れ方が悪かったら高い茶葉も台無しよ。ある程度の腕があってこそ茶葉の品質が生きるの。わかった?」


「あっ、はい。すみません」


 すぐに謝るのは共同生活を送る上で非常に重要なことだ。

 意地を張って良いことなど一つもない。


「……まるで長年連れ添った夫婦みたいな感じだ。高校に入ってから出会ったのに、どうやってその距離まで縮めたか教えてほしい。今日はそのために来たんだ」


 と、須賀が俺たちの軽いケンカを見て、そう言った。


「どうやってと言われてもなぁ」


「出会った二日目にはもう付き合ってただろ? なにがきっかけだったんだ? どっちが、どんな風に告白したんだ? それを教えてほしい、参考にしたい」

 

「参考って、なんの?」


「自分の告白の」


 ほう……自分の告白。


「それって、実里ちゃんに告白するってこと?」


 愛遊は目をキラキラさせてそう訊く。

 女子ってのは恋バナが好きだというが、愛遊もご多分に漏れていないらしい。


「うん」


 須賀は首を縦に振った。


「遠足で行く山には、縁結びの神様を祀ってる神社があるんだ。せっかくだから、そこで告白しようかと」


「いいじゃない! ぜひともやろうよ!」


「でも、どうやって告白したらいいのかわからなくて……だから、即日で皆川さんを落とした恋愛マスターに話を聞こうかと」


「いや、恋愛マスターって……」


 そう思われてもムリはないけど、俺たちは偽装カップルだから質問するには不適当な相手なのだが……。

 なのにこんな信用してもらって、なんか心苦しい。


 普通の人なら、頼られたことで罪悪感に目覚め、自白していたかもしれない。

 しかし……遺憾ながら、誠に遺憾ながら、俺はまだそれほど普通ではない。


 恋人がいるのにいないと宣言したり、結婚してるどころか子どもさえいるのに独身を装ったりする魔物が大勢いる“芸能界”という魔界だか異世界だかわからない世界で育ったのだ。

 このくらいで自白するような雑魚メンタルではない。


 要は須賀が求めるアドバイスを送ることができるなら、俺たちが本物だろうが、偽装だろうが、それはどうでもいいわけだ。


「俺が恋愛マスターかはさておくとして、俺から言えることは一つ。告白の方法は全然重要じゃない、ってことだ」


「そうなのか? ロマンチックで情熱的な告白の方が成功率が上がるような気がするけど。その台本を梨野と皆川さんと一緒に考えようと思ってたんだけど」


「たしかにただ単に『好きです』よりも、成功率は多少上がるかもしれない。でも、それで結果をひっくり返せても、どうせすぐに別れるぞ。その告白の熱が冷めると同時に……もしかしたら、数日以内に」


「そ、それじゃ意味がない」


「だろ? 逆にもっと長く続く相手なら『好きです』で十分なわけだよ。映画とかでは、ドラマチックなシチュエーションで告白することが多いが、あれはリアリティの追及じゃない。観ている人を楽しませるための演出だよ。真に受けちゃダメだ」


 って、前に一緒に仕事した演出家さんが言ってた。


 ああ、はいはい、これ以上踏み込んだことは言わないので、心配しないでください。

 俺の背中にそっと手を回して、爪を立てて警告しなくてもわかってますから落ち着いてください、愛遊さん。


「なるほどな……じゃあ、梨野が皆川さんに告白する時に言ったのも?」


「かなり簡素だったな。『まだ出会ったばかりでよく知らないけど、好きになっちゃったから付き合って』みたいな感じで」


「そんな軽い言い方で……皆川さんもよくそれでオッケーしたね?」


「断る理由もなかったから」


 淡々と説明する。

 告白のセリフも、それに対して愛遊がどう考えたかも、以前に打ち合わせをして決めている。

 台本通りなので、俺たちがその辺で失敗することはない。


「ってことで、告白でなにを言うかなんて別に大事じゃない。気負わずにいけ」


「ああ……ひねったことは言わず、ストレートに言うよ」


「それがいい。ところで……告白は遠足の日じゃないとダメなのか?」


「さっきも言ったけど、縁結びの神社があるんだって。キャンプ場に行く途中の登山道の真ん中くらいだな。休憩するのにちょうどいいところだし、ペースを調整すれば、他の班とかぶらずに俺たちだけになるチャンスがあるかもしれない。あっ、その時は、オレたちだけにしてもらえるかな? 悪いけど、梨野たちは席を外してもらって」


「席を外すのはいいんだが……そうか、遠足の日にするって意志は固いのか」


 これは困ったぞ。

 告白が成功したらいいのだが、もし失敗したら、俺たちの班の雰囲気が最悪になる。

 人生最初で最後の遠足。そのハイライトであるバーベキューが葬式会場になってしまう。

 それだけは避けなければ。


 須賀が帰った後、俺は愛遊にこんな提案をした。


「今度は桜井さんを呼んで、須賀の告白を受ける意志があるか訊いてみないか?」

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