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元・天才子役は一般人になりたい  作者: 宵月しらせ


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第10話 ドキドキ

「ここが梨野の家か。結構広いんだな。一人暮らしの家ってもっと狭いのかと思ってた」

「うん……風呂トイレ共同、四畳半一間かと思ってた」


 須賀と桜井さんは、俺の部屋に入り、少し見て回るとそう言った。


「そんな物件はなかなかないと思うけど。いや、不動産屋のリストの中に一つくらいあったかな?」

「なんでそこにしなかったんだ? 学生の一人暮らしだと、ひどい環境の方がむしろ青春感が出て面白いような気もするが」

「いや、普通にイヤだろ、そういう家は。……虫とか出そうだし」

「まぁな。でも、だからってこんな立派なマンションに住むなんて。2DKってやつだよな。それでロフトまで付いてて……学生の一人暮らしにはちょっと立派過ぎるだろ。さては最初から彼女を作って連れ込む気で選んだな?」

「俺をどんなチャラ男だと……」


 とはいえ、須賀の言うことも一理ある。

 どうやらこのフロアの住民で、学生は俺と愛遊(あゆ)だけらしい。高校生どころか大学生もいないようなので、少し贅沢なのは事実だろう。


 須賀は階段を昇ってロフト部分を確認しようとしている。

 とはいえ、そこはベッドとして使用しているだけなので、特に面白い物などはない。


「家具もしっかりしてるし……彼女を入り浸らせる気満々にしか思えないね」


 桜井さんまで……。

 二人とも、どうしてもそういう方向に持っていきたいらしい。

 俺ってそんなに恋愛に積極的に見えるのだろうか……そういえば、入学初日に彼女作った設定だった。

 そういうことしか考えてないやつ、と見做されてもおかしくないか。


 こういう流れだと、予想通り来るだろうな。「普段家ではどんなことしてイチャついているんだ?」という質問が。

 いつされても問題ないくらいに仕上げてあるから、むしろ楽しみなくらいだ。


「ねぇ愛遊ちゃん、どれくらいの頻度でここに来てるの?」

「二日に一回くらいかな」

「頻繁だねぇ。じゃあ……お泊りとかは?」

「えっ⁉ いや、さすがにそれはしたことないよ」

「そうなの? でも、どっちも一人暮らしでしょ? 週末は別に自分の家に帰らないで、ここに泊まっちゃう方が自然じゃない?」

「枕変わると眠れなくなる人だから」


 桜井さんの攻めた質問を、愛遊はさらっと流していく。

 想定していなかった質問ではあるが、咄嗟(とっさ)の受け答えでもボロは出ていない。

 さすが愛遊だ。


「お泊りはまだなしか……年頃の男女が一人暮らしをしてて、そんなことあるのかなぁ」


 ぶつぶつとつぶやきながら、桜井さんは室内をうろうろする。

 部屋全体ではなく、棚の上などの細かい部分に視線を向けている。なにか探しているような気配だ。


「……あった! やっぱりお泊りしてるじゃん」


 そして桜井さんが洗面所に入った後、はニヤニヤとした笑い混じりの声が聞こえて来た。


「なんだなんだ、何を見つけたんだ?」


 須賀も駆け寄る。

 俺と愛遊も洗面所に向かう。


「これだよこれ。もう女子の生活感が出まくり。ダメだよ、ごまかしたいならもっと気をつけないと」


 そう言って、桜井が指差したのは、化粧水と乳液、顔パック――美容用品だった。


「あー……これは言い訳できねぇな」


 須賀もうんうんと頷く。そして、俺の肩に手を置く。

 羨ましがられているような、決定的証拠を押さえられたことを同情されているような……。


「えっと……?」


 しかし、俺には二人の言っていることの意味がよくわからない。

 肌の手入れ道具があって、どうしてそれが愛遊が泊まっているという証拠になるのか?


「へぇ、愛遊ちゃんってここの化粧水使ってるんだぁ。結構高いやつだよね、これ。その綺麗なお肌はこれのおかげかぁ、いいなぁ、あたしもこれにしようかなぁ」

「あの……実里ちゃん? それ、私のじゃないんだけど」

「えっ、違うの⁉ じゃあ誰の……まさか……」


 桜井さんが俺から二歩距離を開ける。

 須賀も俺から手を離し、一歩後退る。

 なんで突然距離を取られた?


「梨野、お前……皆川さんって誰もが羨む美人の彼女がいながら、浮気を? 手を出すのも早いなら、浮気まで早いのか?」

「いや、待て待て待て! なんでそうなるんだ?」

「だってそうだろ、彼女以外の女性の物が家にあれば――」

「俺のだよ」

「…………え?」

「俺のだよ、それ全部」


 須賀と桜井さんがその場に固まり、首を傾げながら俺を見る。


「梨野くんの?」

「うん」

「……まぁ男子でもお肌の手入れに気を遣う人はいるけど。でも、これって女性向けブランドだよ?」

「昔からそれ使ってて、慣れてるから」

「昔から? それっていつ?」

「七才か八才……」

「なにもしなくてもお肌とぅるんとぅるんの年齢じゃん⁉ お金のムダでしょ!」

「いや、それでもケアしといた方がいいって先生が……」

「先生⁉ 意識高すぎ、どんな学校よ」


 学校の先生じゃなくて、事務所と契約してる美容の先生のことなんだけど……。

 あれ、もしかして……。


「桜井さん、こっちこっち! ここにメイク道具あるよ。しかもすげぇ数!」


 須賀が室内に戻り、引き出しの中にしまっていたメイク道具を見つけた。

 なんで勝手に開けてんだよ……。

 桜井さんはそこに駆け寄り、中をテーブルの上に広げてため息を吐いた。


「なんて種類豊富なの……あたしが持ってるやつの倍くらいあるじゃん。こういうフルセットは、彼氏の家じゃなくて自分の家に置くよねぇ……とすると、まさかこれも梨野くんの?」

「うん、俺のだけど」

「マジか……いや、男性用メイクも最近はどんどん広まってるけど、ここまでのガチ勢が身近にいるとは思わなかった」

「別にメイクガチ勢ってわけじゃないけど」


 どの現場にもメイクさんがいるわけではない。

 自分でやらないといけないこともあるから覚えた。それだけだ。


「そんなに驚くこと? これくらい普通じゃない?」

「梨野……東京じゃどうか知らないが、この辺の芋高校生で、毎日顔パックして、女子より充実したメイク道具を持っている野郎はなかなかいないぜ」

「そうなのか……? これは普通のことじゃないのか……」


 だとしたらショックなんだが……。


「ゼロじゃないだろうが、普通じゃないな。まぁいいんじゃないか、金はかかるけど、マイナスになることじゃないし。で、肝心の皆川さん的にはどう?」

「私?」


 話を振られた愛遊は、少し驚いた様子で自分を指差す。


「彼氏がこんなに美容に気合入ってると、気後れしたりしない? もっとがんばらなきゃって」

「別に……私の方がメイク道具ずっと多いし」


 そう、愛遊の家にあるメイク道具は、俺の比ではない。

 ポーチや箱なんかでは収まらず、よいしょ……と声を出さないと持ち上げられないくらい重いバッグに収納しているほど大量にメイク道具がある。


「それに、男性でもお肌に気を遣ったり、メイクしたりするのは普通だと思ってたから……そうじゃないんだって、今衝撃を受けてる」

「マジか……やっぱ東京は違うなぁ」


 東京というよりは、俺たちのいた環境だ。

 事務所には年上の男性タレントがそれなりにいて、その人たちを参考にしていたが……俳優とかモデルばかりだった。


 よく考えたら、あの人たちも全然普通じゃなかった。

 あの業界の普通を、世の中の普通と同じだと考えたらいけなかったんだ……。

 もしかして俺……普通の高校生として振る舞えているつもりだったけど、実は全然そうじゃなかった?


★★★


 肌の手入れグッズやメイク道具などの件は一旦置いておくとして、それから俺たちは部屋に戻った。

 二人をソファーに座らせ、俺と愛遊はダイニングテーブル付属のイスに座り、四人でお茶を飲んで話をしたり、ゲームをしたりした。


 いろいろ予定と違ってはいるが、なんだかんだ言って、そろそろ来る頃だろう。

 今日のメインイベント。「普段はどうやってイチャついているのか?」が。

 だが、なぜかなにも訊かれない。

 一時間、二時間と経っていて、その間にタイミングはいくつかあったはずなのに。


 一体どうして?

 あれだけ準備したのに、すべてがムダになってしまうのではないか?

 そう心配になってきて、ついこっちから話を振ってしまった。

 そしたらこう言われた。


「いや、だって……十八禁な話を堂々とされても反応に困るし」

「そういう話は、男同士、女同士の時にする方がいいよ」


 どうやら愛遊が俺の家に泊まっていることは、二人の中では確定事項らしい。

 あれだけ否定したのに……一度そうと確信してしまったら、簡単には覆られないようだ。

 で、若い男女が一つ屋根の下で過ごすからには――。


 今後、愛遊がいない場面で須賀にいろいろ訊かれそうだ。

 その時にどう答えるべきか、愛遊と打ち合わせしておくか。


「はぁ……」


 思わずため息が漏れた。

 そのタイミングが愛遊と完全にかぶっていた。


★★★


 須賀たちが帰った後、楽しかったけれど、ちょっと疲れを感じてソファーに深く座った。


「おつかれ……いろいろ想定外だったね」


 愛遊はそう言って、俺の隣に座った。

 座ったのはいいのだが……、


「普通にするって難しいな。まずなにが普通なのかわからない……って、なんか近くない?」


 愛遊は太ももが密着するくらい俺にベッタリと近づいて座って来た。


「あ、ごめん。最近この距離で過ごしてたから、なんか癖になってた」


 そう言って、愛遊は離れようとする。

 だが、愛遊の肌のぬくもりが離れた瞬間、急に風が吹いたような気がした。


 窓は閉めているし、エアコンもつけていない。本当の風が吹いたわけではない。

 最近ずっとくっ付いていたので、急に離れて空気の流れがよくなり過ぎた……というところか。


 不思議な感覚だ。

 なんか落ち着かない。


「もうちょっと近づいていいんじゃないか? ……せっかく慣れた距離感なんだから」

「……そうだね」


 一度離れた愛遊が、またすぐ隣に戻って来た。

 すぐそこに愛遊がいて、その体温さえも感じられる距離。


 でも、それでもまだ不思議だ。

 ちょっと前までは、愛遊と触れあっていると落ち着くだけだった。

 今は、ちょっとドキドキする。

 おっぱいが体に当たっていれば、このドキドキは性欲だと思えたのだけど、今はそうじゃない。


 この気持ちは……。

 まさか、今さら愛遊のことを好きになってしまったとでも言うのだろうか?

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