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34.妾の子




「…シイユ様。本当に良かったのですか」

「う。うーん。でもあの場ではこれが最善だったかと…!」


改めて王子にそう言われると返答に困るが、私が考えられる最善策はこれしかなかった。

“護衛としての同行は許可するが、見合いの邪魔はしないこと”

折衷案である。

どうやってもついてきそうだったので、仕方なく私が提案した。勇者は喜んだ。王子は眉間に皺が寄っていたけど。


「…勇者様は、私のお願いなら聞いてくださると思うので、いざとなれば心を鬼にして忠告いたします」

「……まあ、見合いを邪魔さえしなければ、私としては良いのですが」


当の本人は、護衛として同行を許したためルンルンだ。なんなら屋台で何か食べ物を買っている。


「シイユ様!小腹が空いたでしょう、これならドレスも汚れません」

「え、あ。…ありがとうございます」


正直、護衛の範疇はんちゅうを超えているが。


「勇者。私の分はないのか」

「私はシイユ様の護衛です。ご自分でどうぞ」


うーん!火花が!!

散策中も二人はずっと視線で喧嘩しているし、クロード達は我関せずで私の後ろからついてきている。

どうしたものか。何か話題を…。

あ、そうだ。


「…ケルヴィン様は、どうして私を気に入ってくださったのですか?」


この見合い話がきたときから不思議だったこと。私はこの国の第一王女だけど、同時に魔物に愛される体質であることは有名だ。

もちろん他国にもその話は行き渡っている。

大昔に魔物の侵攻を受けて以来、この国では魔族や魔物に対する警戒意識が高い。魔界の統治が上手く成り立っているのでそこまで大騒ぎにはなっていないだけ。

ゆえに、王女であっても私の体質で他国からの求婚は望めないと、そう思っていた。


「私の体質のことは、ご存知だと思うのですが…」


複数の見合い写真のなか彼を選んだのは偶然だが、彼が私に写真を送った経緯だけは不明のまま。

単に未婚同士だからなのか、同世代だからなのか。


「もちろん、存じ上げています」

「…なら、なぜ…」


王子はぽつりぽつりと、説明し始めた。







曰く、ケルヴィン第二王子は母国アルカディアではめかけの子として冷遇されていた。王位も継げず、純粋な王族でもない。

王の血を継いでいるからと言ってどこかの貴族に婿入り出来るほど優しい世界でもない。


そのときに機会が巡ってきたのが、例の社交界。

参加当初はあわよくばという気持ちもあった。王女は特異体質持ちで、他国から敬遠されているため気に入られればそのまま婚約の可能性もあると。

この際、特異体質持ちだろうが問題王女だろうがなんでも良かった。

そう思って、王子は参加していた。最初はこっそりと王女を観察するつもりで。


それが、実際のところは敬遠などそんなこと全くなく。

自国の貴族達からは敬愛され、分け隔てなく接する姿に好印象を持ち、王子は心を奪われた。


「…写真を送ったのは賭けでした。幸い我が父国王と、私を産んだ母はどちらも顔が良く、二人の子である私も顔立ちに恵まれたので…。顔で選んでいただければ見合い話には発展するかと」


ちょっとユイさん? めっちゃ利用されてるよ。


「ですがこうやって最初の見合い相手に選んでいただけたのですから、ある意味賭けには勝ちましたね」

「…ええと、それで、私はケルヴィン様のお眼鏡には適ったのでしょうか…?」


もしこれで「やっぱりナシで」とか言われたらちょっとショック。

すると王子は優しげな笑顔で言った。


「むしろ私の方から婚約の件をお願いしたい」

「あ…いきなり婚約は私も緊張が…。あの、まずは友人から、というのは…?」

「良いですね。是非ともよろしくお願いいたします」


思えばこんなに前向きに婚約に向けて考えられたのは初めてである。最初が最悪すぎた(自称勇者の件)。でもこれから友好的な関係が続けられればあるいは。


これは父と母にも良い報告が出来そうだ。


私と王子の仲良さげな雰囲気に、それまで静観していた勇者が口を挟む。


「シイユ様。殿下とご友人になられるのであれば、僕とも友人になっていただけますよね?」

「ぼ、ぼく…?」


一人称変わってませんか、勇者様。


「これが僕の素です」

「そ・そうなんですか」


距離感が一気に縮まってる…?

あれ、勇者ってこんなグイグイ来るんだっけ…??

歴代の勇者ってどんな感じだったんだ…!?


「僕だけ蚊帳の外だなんて、寂しいです」

「蚊帳の外にはしておりませんが……!」


そんな、捨てられた子犬みたいな視線。

でも勇者と友人関係というのも悪くはない。なぜなら、彼に敵意がないことは確認済みだから(クロードとユイのお墨付き)。

それに、迷宮とか魔界のことで問題が起きたとき、人間界側の協力者は必要になる。そう!いざというときの助け舟!!


「…では、私でよろしければ…友人からよろしくお願いいたします」

「はい…!」


うわ、背景に尻尾を振る子犬が見える。


「勇者。シイユ様と友人関係になれたからと言って、立場を履き違えるなよ」

「それは貴方の意見でしょう? シイユ様のご意志ではない」


ばちばちばちばち。

……この二人が仲良く出来る未来はあるのだろうか。




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