35.永遠の忠誠
「シイユ様。お疲れでしょう。どうぞおかけください」
「シイユ様!喉渇いてませんか?」
………二人と友人になったと思ったらなお関係がややこしくなった。
王子とのお見合いなのに、何でか王子と勇者にチヤホヤされている構図になってる気がする(正解)。
「…あの、お二人ともこのようなことされなくても…。ましてやケルヴィン様は他国の王族ですので、外聞が…」
「おや。今度は私を仲間外れですか?」
「違います…!」
仲間外れって何だよ!!
貴方は王子でしょ!!
「私は存外、好いた女性に尽くすのが嫌ではないようです」
「ひえ…」
なんか変な扉を開いてしまったらしい。
「まあ、私はともかく、シイユ様に尽くすのなら勇者は身の潔白を明らかにするのが先決ですね」
「潔白とは?」
あ。忘れていた。
心当たりがないのだろう。勇者自身がその言葉に疑問を抱く。私だってあんな噂聞いたことがない。
勇者が“魔王のスパイ”だなんて。
「えっと……勇者様が、“実はスパイではないか”という噂があるようでして」
「……スパイって、まさか、魔界の? 信じておられるのですか」
「いいえ?」
これは即答ではっきりと否定出来る。なんたってその魔界の王たる魔王が私だから。私もクロードも把握していない情報は完全なるデマということ。
「ですが、ケルヴィン様の母国、アルカディアでは広まっているようです。ヨークシュアではあまり聞きませんが」
「勇者があまりにも魔王討伐に意欲的ではないので、何か裏があるのではないかと疑う者がいるのです。…勇者と魔王が、実は繋がっていると疑われるのも仕方のないことでは?」
「……なるほど」
思い当たる節はあるらしい。
そりゃそうか。魔王討伐が使命とされる勇者が、肝心の使命を放棄するような言動をしているのだから。
すると、勇者は思い切った行動に出た。
「…では、今ここで、殿下の目の前で、シイユ様に永遠の忠誠を誓えば問題解決ですね?」
「なんて?????」
思わず素が出ちゃった。
背後でクロードとユイがすんごいオーラを放っている。待って、それどっちのオーラだ。
「…誓い、だと?」
王子がいぶかしげな表情を見せる。
永遠の忠誠。生きている限り絶対の忠誠を誓うもの。
破れば死という重い魔法でもあるため、相手が王族であっても滅多に行使されることはない。
それを、勇者は私に誓うと言った。
王族であり、魔王でもある私に。
「軽はずみな言動は控えろ。あれは、軽率に行っていいものではない」
王子ですら止めに入る。それだけ、その魔法の重さを知っている。
しかし勇者は引かなかった。むしろ覚悟を決めた目で私の前に跪く。
「だからですよ。僕が、他の誰でもないシイユ様に仕えていること。勇者としてシイユ様にのみ忠誠を捧げていること。これが証明出来るのなら何でもいい。………それで、命を落とすのなら本望です」
「あ、アルファ様…」
にこ、と微笑む。私の手を掴み、手の甲に額をそっと落とす。
『…我が勇者の名のもとに、シイユ王女殿下に永遠なる絶対の忠誠を誓い申し上げる。命尽き果てるそのときまで、我が忠誠は貴女のものです』
触れ合った場所からキラキラとした光が漏れてくる。正式な呪文で誓いの魔法が発動したのだ。
光は細い線となって私と勇者それぞれの手首に。シャラン、と契約の楔になってそこへ落ち着いた。永遠の忠誠の証である、契約の腕輪である。
一見すると神秘的なアクセサリー。それを、悲しいやら嬉しいやら複雑な心境で見つめた。
「……馬鹿ですね。私は、こんなものがなくても疑わないのに」
「…僕の行動でシイユ様にご迷惑はかけたくありませんので」
す、と立ち上がる勇者。
「これで、僕がスパイではない証明になりますかね?」
「……認めたわけではないが、少なくともシイユ様の敵ではないことは信じてやる」
「十分です」




