36.勇者の本気
「殿下。シイユ様に何か失礼なことをしたら僕が殿下を抹殺しますのでそのおつもりで」
「王族に喧嘩売るのお前くらいだぞ」
永遠の忠誠を誓ったことによほど満足したのか、勇者はかなり豪胆になった。王子も結構打ち解けたようだが…。
いや、だからなんでそこで火花が散るんだよ…。
『魔王様、お気を付けください』
突然のクロードからの思念伝達が来る。気を付けろ? 別に王子と勇者の方なら安全だって…。
そうじゃなかった。気配の先、こちらを見つめる視線。その姿に見覚えがある。
「……俺の、俺のシイユ姫が…!」
ワナワナと震えるその格好。忘れもせぬ、自称勇者である。
何でここに? アルバトロスが引き付けているはずの男が、そこにいた。
『……シイユ!!聞こえるか!?』
『アルバトロス?』
焦った声のアルバトロス。もしかして、先代魔王の目を盗んで逃げてきた? いや、だとしてもあの距離を飛んで来れるわけがないんだ。それこそ新しいスキルでも手に入れない限り。
……スキル?
『すまん、取り逃した!恐らくだが自称勇者がそっちに向かってる!!気を付けろ!!』
『……見間違いじゃなければ、今目の前にいる』
『マジかよ…!』
『何があったの』
自称勇者の監視役を買って出たアルバトロスが、衝撃の事実を叫ぶ。
『あの自称勇者、迷宮の中でスキル手に入れやがった!それも瞬間移動って厄介なやつ!』
『…は?』
瞬間移動???
でもそれなら納得がいく。あのアルバトロスから逃げ仰せ、空を飛ばない限り辿り着けない距離を一瞬で移動する。
自称勇者は、迷宮から逃げたいあまり自力で瞬間移動という高度なスキルを手に入れたんだ。
さてどうするか。さっきの独り言といい、自称勇者の目的は私だろう。しかしここには王子もいるし何なら勇者もいる。二人を欺いて自称勇者をどうにか出来るのか。
私が動けないにしてもクロードとユイに指示すればあるいは。いや、どこからあの勇者に勘付かれるか分からない。
……果たして。
「ゲイン…?」
ポツリと呟いたのは勇者である。そうか、二人は同じ勇者の村出身。同郷。なら、勇者にお願いすればもしかしたら…!?
「アルファ様、彼をご存知ですか」
「……同郷です。幼馴染、ですがあまり良い思い出はありません」
「同郷。ということは、あの男も勇者なのか」
「勇者とは名ばかりです。……残念ながら、勇者の村では誰もが“勇者”になり得る」
…つまり、その素質があろうがなかろうが、その村では全員が勇者になれてしまうのか。
「……アルファレイド…?」
私を守るように立つ勇者に、自称勇者も気付いたらしくその名を呼んだ。
「久々だな、ゲイン。国王陛下に強制送還の処分を下されたと聞いたが…」
「…変な冒険者に絡まれて、ずっと迷宮探索させられていた」
あ、ごめんその冒険者、私の味方です。
「…そうか。少しは強くなったのか?どうやら特殊なスキルを手に入れたらしいが……ここへは何しに来た」
「………何しに、だと…?」
やつれ、ボロボロになった視線で自称勇者が吠える。
「お前こそ何しに来た!!何でお前がシイユ姫と一緒にいる!!シイユ姫は、俺が貰い受けると!国王陛下にお許しをいただいたのに!!!」
は???おい自称勇者、嘘っぱちを吐くな。
「…シイユ様。真偽はいかほど」
「真っ赤な嘘です!」
「……仮にも勇者を名乗る者が、虚言癖とは」
やばい、あんなに優しかった勇者が、苛立ち始めている…!!
出来るだけ自称勇者に見えないよう勇者の陰に隠れ、勇者と王子も察してくれたのか、率先して前に立ってくれた。くっ、頼り甲斐がある。
隠れている私をさらにクロードとユイが保護する形となり、防衛戦は完璧…!!
「確かに、魔王討伐の褒美の話はありました!伝承の勇者がそうだったからと!ですがそもそもが彼は討伐に行っておらず、ましてや迷宮にすら行っておりません!まずは魔王を討伐してからとはっきり申し上げました!」
「……つまり、勇者とは名ばかりの自称勇者ということで。噂通りですね」
呆れた王子がため息とともにそう呟く。
他国にまでその名が知れ渡ってましたか…!!
そこでピリ、と殺気が。その発生源は––––勇者。
「……では、承認していない婚姻話をあいつは誇張し、あまつさえそれを吹聴した、ということですか」
お。おおお?
ピリピリ、ピリピリ。肌が、電気が流れたみたいに微弱な痛みを訴える。こんな感覚は初めてだ。先代魔王と闘ったときでさえ、こんなことはなかった。
「……彼もこんな怒り方をするんですね」
王子も感じたらしい。私達の前では絶対に見せなかった、その怒り。
いかに自分達には手加減していたかが如実に分かる。
「シイユ様、ここは僕にお任せを。殿下、手出し無用でお願いします」
「承知しました」
「無論、手を出すつもりはない」
もしかして、勇者の真の実力が見れる…!?
ワクワクドキドキ…!!
「シイユ姫から離れろ!!本来そこにいるのは俺なんだ!!」
「……“離れろ”?」
一歩、勇者が足を踏み出すとそこにはゴッ!!と地割れが起きた。
「…どの口が、“離れろ”と…?」




