33.王子vs勇者←?
「……シイユ様。彼をご存知で?」
「え。あ。あの。さきほど、ケルヴィン様がお話になられた、勇者様、です…」
「……ああ、なるほど、彼が」
めっちゃくちゃ不穏な空気である。
「勇者様、なぜここに?」
私がそう訊ねると、勇者はにこっと人当たりの良い微笑みで答えた。
「観光です」
「…観光」
「はい。観光」
いや待て。観光てなんだ。
掴んでいた王子の腕をパッと離し、分かりやすく敵意が飛ぶ。
「…勇者が、その責務を全うせずのうのうと観光とは」
「勇者が観光してはいけないのですか? 貴方こそ、王女殿下に対して馴れ馴れしいのでは?」
「…は?」
何でそこで火花が散ってるんだ。
「ゆ、勇者様。このお方はアルカディア王国第二王子のケルヴィン殿下です。私達は、今お見合いの最中でして…」
「…お見合い…?」
いやなんで不機嫌になるの。
「……王女殿下は、この方とご結婚を…?」
「単なる王族の務めです」
別に結婚願望があるわけではない。本当に王族としての義務でせざるを得ないだけで、やらないで済むなら是非ともそうしたい。
だからその負のオーラを仕舞ってくれ。仮にも勇者なんだから。
「君こそ王女殿下に馴れ馴れしい。見たところ平民だろう。勇者であるなら、名を名乗れ。それこそ王族に失礼だ」
正論を突かれ、勇者は私にだけ姿勢を正す。
「…自己紹介が遅くなり申し訳ありません。アルファレイド・ブレイブ。どうぞ、お好きにお呼びください」
「おい私にはなしか勇者」
「…ふふ。改めて、シイユとお呼びください」
そういえば、お互いにちゃんと自己紹介をするのはこれが初めてだ。アルファレイド。長いから、アルファでもいいのかな。
「……自己紹介が済んだなら、お引き取り願おうか」
「私もご同行いたします」
「はっ!?」
「アルファ様???」
さっきお見合いの最中だって言ったのに同行するって言った?
さすがの発言に王子も驚いている。
勇者は始終ニッコニコだがそれが逆に怖い。
たまらず王子が確認する。
「え?はっ?えっ??いや、お見合いだとさっき…」
「お聞きしました。なので、シイユ様の護衛に同行します」
「護衛はちゃんといる」
「ええ。腕の立つ護衛がいらっしゃるのは存じております」
?????
ちょっと意味が分からない。
というか、この勇者、初めて会ったときからところどころ話が噛み合わなかった。
何だろう、この違和感。
ふと、勇者を極端に警戒していたはずのクロードとユイがやけに静かなことにも違和感を覚え、二人に思念伝達を送る。
『ねえ。この勇者、どういうつもりなんだろう』
『…これは、アレですね』
『…アレですね』
『アレ?』
二人が口を揃えて“アレ”と言う。
“アレ”とは。
『これ、どうしたらいい?』
『…両者とも、魔王様への敵意は感じられませんので、放っておいてよろしいかと』
『え。』
『クロード様に同意です。マスターを害する者であれば我らが動きますが、そうでないなら傍観するのみ』
あ。あれ〜〜〜〜!!??
思ってたのと違うんですけど!!???
あれだけ勇者を警戒してたのに、何でそうなった!?
『ちょちょちょ、二人とも。止めてくれないの』
『我らが止めたところで“部外者は黙ってろ”と言われるのがオチかと。それに、彼らの敵意は完全にお互いに向かっております。…その理由に関しては伏せますが…』
『いや肝心なところ伏せないで???』
『人間の醜い争いほど面白いものはないですね。暇潰しには持ってこいです』
『楽しむな』
駄目だ、有能な護衛が完全傍観に回ってしまった。
私の味方がいない。私の味方なのに。
けれど恐らくこのままでは解決策は生まれない。
かくなる上は…!!!




