27.カオスな社交界準備
茶会が終わったあと。
城下で噂となっているらしい婚約の話を両親に話してみた。
まあ反応は予想通りである。
父と母は、組合運営者の権限で勇者からその肩書きと権利を剥奪。
加えて故郷への強制送還(戻ってくればだけど)。
王女へストーカー行為をしていた者への処罰にしては寛大である。
そして一通りが済んだあと、クロード以外にもブチギレていた者が一人。ユイだ。
実はお茶会の最中、片隅に人形としてずっといたのだ。
部屋でその姿を解いて、私と同じ顔で満面の笑みを浮かべていたのには少し戦慄を覚えた。…めちゃくちゃ怒ってる。
「…マスターのお許しが出れば、すぐにでも八つ裂きにしてやるのに」
「全く同感ですね。魔王様が人間の姫君でさえなければ、今すぐにでも人間どもを根絶やしにしてしまえるのに」
「わー、過激派ー」
でも、私が命令しない限り実行しないあたり、非常に忠実なしもべだ。
「二人とも、私の代わりに怒ってくれてありがとう。でも、駄目。私が人間界で暮らす以上、平和に、穏便に、ね?」
「はい、マスター」
「仰せのままに」
もう自称勇者のことは忘れよう。実際、本体はアルバトロスが責任持って引き受けてくれているし、一人歩きの噂は友人二人に任せておけば大丈夫だ。となれば、もう振り回されることもあるまい。
「さて、時期に社交界が始まります」
「社交界!」
「魔王様も王族として出席なさるのですね」
こくん、と頷く。
「近々王城に仕立て屋も来ると思う」
「仕立て屋!マスターのドレス姿見てみたいです!」
「我らはその場に同席させていただけるのでしょうか」
「見れるよ。クロードは私の執事として同席は出来るけど…」
あ…と二人とも気付く。
そう。
私達以外がいる空間では、ユイは人形としてその正体を隠している。つまり、目の前で私が着替えているのを、ユイは“見る”ことしか出来ない。
「………ッマスターの晴れ姿を、崇めることも出来ないなんて…!!!」
世紀末とばかりにその場で這いつくばる。
そんなにか。
「……魔王様。これではユイがあまりにも不憫です」
「……そうだね」
どうにか、クロードみたいに堂々と動ける方法はないか。クロードみたいに。
…ん?
「…あるじゃん。方法」
「…?」
「新しいメイド、ですか?」
「にっ、庭に迷い込んでたところを保護しました!私にすごく似てるし、影武者とかどうかなって」
「宜しくお願いします!!」
ユイを、影武者のメイドとして迎え入れた。私の横で堂々と動けるのがよほど嬉しいのか、めっちゃくちゃ嬉しそう。
メイド達も、私が連れてきたというのと影武者にというのが説得力があったらしく受け入れが早い。
「確かにそっくりですね。双子みたい」
「シイユ様も社交界が近いですし、良い案だと思います」
「影武者として動くときは顔が見えないようにするから、みんなにも伝えておいてね」
「承知いたしました」
よしよし、これで周知は完了。
そして部屋に戻ると…。
「このユイ、感無量です…!!!」
「まさかユイが、私が造った人造人間だなんて誰も気付かないだろうね」
「魔王様の技術、魔力は完璧です。そうそう見破られることもないでしょう」
「影武者ってことにしたから、わざわざドレスやらメイド服やら着なくても済むし」
「あ、そこはしっかりお仕えしますので、メイド服を着用いたします」
「そ、そう…?」
「はい。服がなんであろうと戦闘にも影響はありません。何も問題はございません」
「それならいいんだけど」
そして迎えた仕立ての日。
ユイが大変なことになっていた。
「我が生涯に一片の悔いなし」
「あらあらまあまあ」
「…………」
社交界用のドレスの試着中、ユイはずっと私を“崇拝”し続けていた。
「まるで王女殿下が天使か神のようでございますね」
「天使も神も信じてはおりませんが、シイユ様がおられなければ(物理的に)わたくしどもはここにはおりません」
「確かに。」
仕立て屋の女主人が私のサイズを測りながら「あらあらまあまあ」と生温かい目線。
何というか、すごく、恥ずかしい。
「ああシイユ様。お美しい…」
合掌、涙。カオス。
そこへ更なるカオスが。
「…………。」
「…ユイ?」
突如固まるユイ。不審に思って名を呼ぶと、ユイの雰囲気が変わった。
「…………お美しい……」
明らかに様子が。あれ???
『マスター、マスター』
『え?あれっ?マオ?いや、ユイ???』
思念伝達が送られてきた。発信者は、今目の前にいるユイのはずだが、目の前のユイはユイではない。
何が起こった???
『今、マスターの目の前にいるのはマオです』
『……………どゆこと???』
予想外なことが起きた。
目の前で私の分身体達が入れ替わったらしい。
わずか数分の間で何があったのかと言うと。
私の仕立て中、ユイがマオに思念伝達を送り、現在社交界に向けてドレスの仕立てを行なっている最中だと連絡。
マオは現在魔界で統治しているため、人間界に来ることが不可能。ユイの目を通して見ることも考えたが、マオが生で私のドレス姿を見たいと懇願。
二人で考えた結果、二人の精神の入れ替えを思いついた。
………いやどういうこと!!??
『二人って入れ替われるの!?』
『人造人間同士、特に同じ人間を媒介に造られた者同士であれば可能だと推測しました』
『マスターの魔力が非常に高いがゆえに可能となりました』
『待ってどっちがどっち』
『マオです』
『ユイです』
『いや分からん』
とりあえず、今目の前にいるのがマオということだけ分かる。
二人とも私を元に造った人造人間だけど、生活環境でその性格に若干の差が出た。雰囲気が違ったのはそのせいだ。
クロードは気付いた。
『本当に魔王様のおそばにいると退屈しませんね。次々とあり得ないことばかり起きます』
にこにこと笑顔で見つめたまま。
『さあ、マスター!どんどんドレスを試着なさってください!』
『我らのことは気にせず!』
まるで分身体が双子と化したような状況だった。




