26.波乱の茶会デビュー
さて、再び平和が訪れて私は社交界準備に入った。みんなお忘れだろうが私は王女である。ヨークシュア王国第一王女。
忘れていた人達手を挙げなさい、怒らないから(※怒る)。
王家を悩ませていた自称勇者も、噂では長い旅に出たと聞いた。最強の冒険者とパーティを組み、魔王を倒すべく長い長い旅に。
まあそれで思ったのは、「噂も当たらずとも遠からずだな」ってことだ。
長い旅というのは鬼畜迷宮のことで、最強の冒険者とはアルバトロスのことだろう。
誰も、そこに先代魔王と王女が加担してるなんて思いもしない。
「シイユ様。マーガレット様とエリザベス様がお見えになりました」
「お通しして」
「はい」
メイド達に連れられて、茶会用のドレスを身に纏った令嬢が二人。
二人とも由緒ある家柄のれっきとした公爵令嬢だ。
王族には、代々王女が社交界デビューするために設けられる茶会というものがある。ようは練習だ。
いずれも王族に所縁のある家から王女と同世代の令嬢が選ばれる。
「マーガレット・エヴァーレンスと申します」
「エリザベス・シュターレットと申します」
「このたびは、シイユ王女殿下の貴重なお茶会にお招きいただき、ありがとうございます」
「わたくしども、誠心誠意、務めさせていただきます」
「シイユ・エスメル・ヨークシュアと申します。お二人とも、ようこそお越しくださいました。…不束者ですが、よろしくお願いしますね」
初の茶会を開くときの定型挨拶。
…まあこの二人は国王の側近にあたる宰相の御息女なので、全くの初対面でもないのだ。だからこそ、私の最初の茶会の客人に選ばれた。気の置けない友人の方が、私が緊張しないと。
円卓に茶菓子と紅茶。付近には護衛の執事達。
一般的な茶会そのものである。
「お二人とも、お久しぶり。お元気でした?」
「はい!わたくしは先日お母様とドレスの下見に行きましたの」
「ドレスって社交界用の?」
「ええ。仕立てに時間がかかるから、早めに準備し始めるんですって」
「もうそんな時期ですのね…」
社交界は大人達に混じって貴族社会を学ぶ見学の場。早い者は数年前から準備し始めるとは言うけど…。
「ああそういえば」
紅茶を静かにすすり、友人達との茶会を楽しんでいると突然の爆弾発言。
「シイユ様、勇者様とのご婚約はその後どうなりましたの?」
ブフォア!!!
「シイユ様!?」
「…………なん…?」
王女らしからぬ盛大な吹き出し。いやそれよりも待て。今なんて???
「…あの。それはどういう…?」
「え。勇者様とご婚約されたのでしょう? 皆様噂されておりますわ」
「勇者様ご本人も、嬉しそうに話しておられたとか」
………背後からの殺気がすごい。(クロード)
てか、あの自称勇者、そんなこと吹聴してたの…?
ここは、冷静に…。
「……確かに。数年前、勇者スキル所有者である冒険者を王城に招きましたが…そのような事実はありませんわ」
「えっ? ではご婚約の話は…」
「事実無根ですわね。そもそもお母様が、まずは魔王を倒してからと、明言しております」
「あらま…」
二人とも悪気はなく、あくまで噂を確かめようとしたのだ。
ここで私がはっきり否定しておけば、噂も消え……
「では、あの話も嘘なのでしょうか」
「…あの話?」
「はい…。勇者様は今長い旅に出られていて、御帰還の際にはシイユ様とご成婚なさるのだとか…」
…ッバキ。
おっとカップが。いけないいけない。
「シイユ様のこのご様子ですと、それも嘘、なのでしょうね」
「勇者という割には、全く討伐に向かう素振りもないそうですもの」
とんでもねぇホラ吹き野郎だな。
『…魔王様』
『なに、クロード』
『私も迷宮へ出向いてもよろしいでしょうか』
『…一応聞くけど、なぜ?』
『不届者を殲滅いたします』
『気持ちは分かる。けど魂ごと消滅させる気でしょ。それだと復活させられないから駄目』
『……………』
『無言の圧やめようか。それに、あいつはアルバトロスに任せてある。ここで貴方が動けば今度は私が約束を反故したことになっちゃう』
『…ならば、妥協案として、噂の件をアルバトロスへ流します』
『うん、それでいい』
思念伝達でそんな不穏な会話がされてるとは知らない令嬢二人には、王城からの正式発表ではない話に踊らされないように注意しておいた。
加えて、さり気なく、訂正をお願いしておく。
自称勇者とは婚約しておりません、真っ赤な嘘です。と。




