堕ちる進化 _ まるで夢のような日々『Lost in a Daydream』
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一夜明け、これから前線魔法少女としての一日が始まる。
……それにしても実際の魔法少女って、現実的過ぎるというか。
どうにもお堅く組織的で、創作の中にある夢や希望なんてものは見当たらない。
子供っぽい言い方になっちゃうけど、やっぱり全然キラキラしてない。
魔法少女はニュースなんかにも登場する、らしい。コメンテーター?
あと、なんか情報バラエティ?みたいな番組にも出たりするって話。芸能人?
私はあんまりそういうテレビ見ないから知らないけど。
まぁ、そういうのは広報担当の魔法少女の仕事だそうで、見たことないけどここの人たちよりもキラキラしてて結構有名らしい。
でも、私が想像してる魔法少女って感じじゃなくて、アイドルみたいというか。うーん……、なんか違うなって。これが、あの子がなりたかった魔法少女?
……ああ、そうだ。ここに来る前に、私が、本当の魔法少女になる前に。
魔法少女って何だろうって、色々聞いてみたりしたんだっけ。
そうだ、あの子が……、魔法少女になった後のことだったっけ。
……。
考え事をしながら、隊舎の部屋備え付けのマニュアルのようなものを読み、朝の準備をして部屋を出る。
ここ、前線第三部隊では新人も個室みたいだった。支援部隊みたいにルームメイトが居たりとかはなくて、気を使ったりしなくていいのは少し楽。
後を追うように朝のチャイムが鳴った。今日は早起きしたから聞く前に出られたけど、それはまるで学校で聞くみたいな音。
どんくさいあの子は遅刻しがちで、先生に怒られがちで、私はそれを庇ったり、巻き込まれて怒られたり。
そんなことも、もうずっと昔のことだったかのように思える。
子供だった私とあの子。はしゃぐあの子と付き合う私。
遠い夢のような、いつかの話。
……。
「……あれ?」
……?
……。
本当に、全く、心の準備ができてなかった。
「もしかして?」
あの子は魔法少女になった。
それだけが確かで、だけどどこに行ったかは知らない。
私が最初に教練を受けた第十二支援部隊にはいなかった。
なら、他の部隊。部隊は全部で十六。つまり、十五分の一。
別に、会えなかったらそれでいい。仕方ない。
思い出の中のおぼろげなあの子の姿が、静かに消えていくのを受け入れるしか。
そう、思って。思いながら、廊下の曲がり角の先に。
「……ひさしぶり」
「あーやっぱり! わぁ!! おひさしぶり!!!」
「いや声でっか……。まだ朝早いんだからさぁ……」
「すごい、すごい、ほんとに……? ほん……。……あぇ?」
「?」
「……??」
「……?」
「……」
「……」
いきなり会話が途切れ、どこか気まずい雰囲気が漂う。
困ったような眼差し。申し訳なさそうな表情。
なんとなく、毛穴がゾワゾワするような、イヤな感じ。
「えっと、あの、……ごめ」
「見てて」
「えっ……?」
沈黙に耐えきれず何かこぼそうとしたのを遮って、宣言する。
私は変わったことを。変われた証を。
……嘘から出た真を。
――『変身』
「わぁ……」
髪の毛から足の先まで、光が走る。魔法の力が身体を包む。
魔法少女は魔力衣装……魔装というものを魔力で作ることができる。
これが結構難しくて、上手く作れない人も少なくない。けど、レベルが上がるとだいたいの魔法少女はこれを作れる。
魔法はイメージの力。
ほんとは違うらしいけど、そう考えた方がやりやすいと教えられた。
だからか、魔装は人によってまるっきり違う。
そもそも衣装じゃなくて装備というかアクセサリーだったりもすることも。
そう。固有魔法のように、個性的で人それぞれ。
魔装を上手く編める魔法少女は固有魔法の覚醒が高いのかも?と言われたり。
まぁ、あんまり関係ないんじゃとも言われてるけど。
私の魔法は、この魔装を自由自在に作ることができる、というもの。
大きさ、硬さ、姿形、全部思うがままのイメージ通りに。輝きの中、理想の存在に。
まるで、アニメの魔法少女の変身のように。
「……!」
糸を張り、面を作り、色を付ける。何万回も見てきた、私たちの魔法少女の姿。
髪の毛の色も長さも髪型も、思い出をなぞるように再現する。
「夜空の下、きらめく希望で未来を照らす。……なんてね」
「……!!」
……。
……。
……なんかちょっと恥ずかしい。謎にキメポーズまで取ってしまった。
てゆーか……、反応が返ってこない。
いや、なんか言ってよ。いたたまれないんだけど……。
「すごい!!」
「うわびっ……くりしたぁ……声でか」
「プリティスターライト……! かわいい! すごい!」
「いやちょ、ちょっともう大袈裟……」
「かわいい! え、すごい! スカートふわふわ! かわいい!」
「あ、ちょ、スカートめくんなコラ!!」
「あの、えっと、あ、あの……」
「……え、なに?」
「握手してください……!」
「いや、好きにすれば……? ほら」
思わず笑みがこぼれる。……良かった、何百回と練習した甲斐があった。
ふわふわと、世界が色を取り戻したかのような、思い出の続きが繋がったような、そんな不思議な心地よさ。
なんにも変わってない。たくさん変わったのに、何もかもあの頃のまま。
「えへぇ……」
「ちょ、よだれ……」
記憶にあるままに、手を握るこの子を見下ろす。
あたたかくて、心地よい。まるで犬みたい。
……。
てゆーか……、長い。ずっと飽きもせずにぎにぎされてる。
「あ! そうだ見てて!」
「え、なに急に」
「『循環』……!」
……風?
室内なのに、やわらかな、ふわりとした気持ち良い風が。
どこから……?
辺りを見渡し、正面に向き直ると、そこにはドヤ顔が。……え、なに?
「私の魔法だよ! ……ちょっと地味だしプリスタには出てこないけど」
「……へぇ」
「リアクションが薄い……!?」
「ああいや、すごいすごい」
「リアクションが、冷たい……!!」
「冗談冗談。へぇ、風の魔法少女ね」
「へへへ……水も回せるけど、風のが楽かな?」
回す……?
循環させる、何かを行って戻ってこさせるって魔法かな……?
正直すごさはよく分からないけど、この子もちゃんと魔法少女なんだなって実感してしまう。
……ああいや、固有魔法無くても魔法少女には違いないだろうけど、あれば尚更ってゆーか?
「あ、朝ご飯まだでしょ? 一緒に行く?」
「行く!」
……ともあれ、良かった。
この子の願いも、私の願いも、こうして無事叶ったのだから。
本当に、良かった。……。
・・・
対魔獣組織、とは言っても魔獣が出ない間やってることは、お役所的というか、少しだけ学校っぽい。
実際、勉強したりテストしたりもある。訓練も、厳しくない内容なら体育とか部活みたいな。
全寮制のスポーツ校とかもしかしたらこんな感じなのかなって思う。
だからなんていうか、うん。やっぱり昔に戻ったような、そんな感覚?
そもそも昔って言ってもそんな何年とかずっと前のことでもないし、少し大袈裟?
それに非番とか夜勤とか、魔法関係なく普通の学校に通ってたら体験しないような生活ではあるんだけど。
あの子と一緒に、部隊の人たちと訓練したり、事務の大人たちに色々教えてもらったり、魔獣が出ないので、そんな毎日。
慣れてしまえば、少し退屈で、だけど少しだけ、楽しい?
それもこれも、……。
「どう? ここでの生活、慣れた?」
「あ、副隊長……。はい」
「いやあ、平和が一番だけどヒマだよねー。魔獣も小物掃除は大体あっちの仕事だし」
「あっち?」
「第四部隊。まぁたまたまタイミング良いってだけだろうけど。魔獣出にくい凪っぽいし」
そんな世間話。副隊長も実際は暇じゃないだろうけど、私やあの子を目にかけてくれる。
たぶん、新人だからだろう。私にいたってはまだ一ヶ月もたってないし。お試し期間ってやつ?
このまま平和に時間が過ぎていってくれたら、そう考えていた。
のだけど。
「あー、魔獣警報。久々だなー……」
魔獣。人類の敵。私たち、魔法少女の敵。
初めての、戦闘……?
「特別警報じゃないから全員呼集じゃないだろうけど、一応準備しといて。私は事務室寄ってから隊長のところ行くから」
「わかりました」
空気がガラリと変わった。副隊長も、まるで別人のように雰囲気が切り替わった。
これから、私たちが本当にやらなければならない、私たちにしか出来ない仕事が始まる。
……。大丈夫、私ならやれる。
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