堕ちる進化 _ それは夢へと踏み出す一歩『The Border of No Return』
・・・
「状況を説明する」
第三部隊の会議室。隊長の厳か、とゆーか堅苦しいセリフと共に作戦会議が始まる。
こういうとこ、やっぱりちょっと事務的。
魔法少女の集まり、といってもキラキラはしてない。
「前回警報より間隔が短いが、凪も明け始めているということだろう。第一から第三等級魔獣で単独対処可能な規模だが、同時出現で範囲が広い。三班に分かれて対処する」
凪、っていうのは魔獣があんまり出現しない時期のこと。
必ず決まった時期、というわけでもないけど落ち着き始めるとしばらくは穏やかな状態が続くらしい。
といっても、今年はイレギュラーな感じみたいで、なんてゆーか梅雨に対する空梅雨?夏に対する冷夏?みたいな?
そんな感じでそんな穏やかではなかったみたいだけど。それでも忙しい時期よりかは比較的平和だったのかな?
隊長さんの説明が続く。
要は、そんな大した状況じゃないから訓練通りにやれば大丈夫って話。
「高等級の出現は観測されていないが油断は禁物だ。各員、気を引き締めて掛かれ。以上、解散」
前線魔法少女は仮にも対魔獣適性を見込まれて配置されている。
だから低等級程度には苦戦しちゃいけない。倒せて当たり前。
どんなに怖くても、ビビったら前線失格ってこと。
一番弱い第一等級はただのザコ敵。
それよりは強い第二等級もちょっと強いくらいのザコ敵。
それよりももっと強い第三等級はそれなりに気を付けた方がいい中ボス。
訓練内容からも大体こんな感じの印象。強くなるほど数は少なくなるから、第三はそんなにいないはず。
もちろん、油断したら大ケガすると思う。第一第二程度はともかく、第三は普通に危ないって聞くし。
……あんまりはっきりとは言われなかったけど、酷いとたぶん死ぬこともあるかもしれない。
やだな、そんなの。
……。
「状況開始。それじゃー、お願いね」
「はい。『変身《Transformation》』」
副隊長の命令で変身をし、魔装を身に着ける。
いつも同じ形ではないけど、ベースはフリフリの魔法少女。
あの子に見せた、アニメの魔法少女の延長線の姿。ステッキは無いけど。
そして、ここからが私だけの固有魔法。糸を編むように、変身を続ける。
マユからサナギへ、そしてちょうちょになるように。ぐるりと魔力で身を包み、形を作って一気に羽を伸ばす。
そう、大きな二枚の、羽。
とても大きな、空を飛ぶためのもの。
……といっても虫っぽいのじゃなくて、鳥みたいな翼?
正直、一枚一枚の羽根を編むより虫の羽の方がやりやすいんだけど、可愛くないし。
キラキラの意味も変わっちゃうし。虫だとなんか粉っぽくなっちゃうし?
「……行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けてね、訓練通りやれば大丈夫だからさ」
空を飛ぶ。羽ばたきが地面を遠ざけて、みんなが小さくなる。
現実の魔法少女は簡単に空を飛んだりしないけど、私はこうやって飛べる。特別だから。
……まぁ、飛ぶというか浮かんだりする人とか、鳥の人形を操って飛ぶ人とかも他にいるらしいけど。
普通の魔法少女に飛行魔法みたいなのは無いって話。私のこれも、身体強化と魔装の組み合わせによるものだしズルみたいな?
だから、魔法の力とはいえ実際はめっちゃ頑張ってめっちゃでっかい羽を必死に動かしてる。白鳥の足?みたいな。
魔法はイメージ。だけどイメージ通りに飛ぶのにも努力が必要だから、身体の延長線上にある羽も強化して自力で頑張らなければならない。
「……」
空は近く、聞こえるのは風の音だけ。虫の声も鳥の歌も聞こえやしない。
そんなの、当たり前といえば当たり前。現実はアニメやゲームのようにBGMなんか存在しないんだから。
ぽつんと大空に私一人。
なんだか危ないかもしれないけど、飛ぶ魔獣は低等級にほとんどいない。
それに、この高さなら魔獣も使うことあるらしい魔力弾のようなものも当たりっこない。
「索敵、……捕捉」
本来、前線部隊には別の支援部隊が偵察とかでもサポートするって話なんだけど、人手不足で専属のサポーターが付くとかはそんなにないみたい。警報だけ出して丸投げってどうなのとは思ったり。
なので、前線部隊ではおのおの観測手?みたいなのを立てたりして魔力察知とかで敵を探したりすることも多いらしいんだけど、その辺のやり方は部隊によってまちまちというか。
自衛隊?の人たちが色々と訓練の補佐をしてくれるので、その辺が割と充実してる関東方面はかなり格式張ってる感じ?
規則とか命令とかガチガチなのはたぶん隊長さんの影響みたいなものもあるような。真面目そうだし、他の隊員の人もだいぶ体育会系?
正直、苦手な雰囲気だし、なんだかなーっては思う。
「魔力射撃準備、発射、……弾着」
遠くにいる、毛の逆立ったイノシシみたいな魔獣に向けて、思いっきり魔力弾を撃つ。
まあ、私も何だかんだ真面目だし。優秀だし。
誰にも聞こえないセリフも、想定された状況の、訓練通りにちゃんと声に出しておく。
「……効果確認。次弾準備」
簡単。
思ってたよりもずっと、楽勝。
キラキラと、魔力弾が光の尾を引いて遠くの魔獣に突き刺さる。当たらなくて元々だったけど、ビックリするくらい上手く当たった。
そしてキレイな光の中、敵はあっさりと倒れてしまう。なんていうか、……意外と弱い?
セリフだけが堅苦しくて生々しいけど、やってることはアニメとそんなに変わらない。
魔獣も、死んだからといって魔力になるだけ、ちょっと血みたいなのが出るだけでそんなグロくもないし。これも魔獣の種類によるのかな?
私の魔力弾を目印に、他の人たちもそこに向かう。
倒せたのは一体だけ。サポーターとして、魔力察知で見つけた魔獣の正確な場所をみんなに知らせるのが目的だから。
味方に当てないようにだけ注意して……、てゆーか私の弾に当たるような人はここにはいないと思うけど。
……あの子はどこかな。私みたいな攻撃もするサポーターとは違うし、『循環』の魔法ってので何ができるのかはよくわかんない。
いや、どういう魔法かは聞いてるけど、どう使えるのかがよくわからないというか。
作戦では後ろの方にいるはずだから、多分大丈夫かな。あの子はドジだから、前に来てたら危ないし。
・・・
状況終了。おんなじことを繰り返して、別になんにも問題は無かった。
所詮は低等級だし、という声が他の隊員の人から聞こえる。
で、その人は隊長から怒られてた。かわいそう。
先輩を舐めてるわけじゃないけど、なんかこういう風に気が抜けるときもあるんだなって思う。
あの子ももちろん無事で、元気いっぱいはしゃいでた。ちゃんと仕事できたらしい。良かった。
まあ、お互い初陣ってやつだし、私もちょっとまだドキドキしてる。
……でも、天使みたいだったー、か。
なんだか悪い気は、……しない、かも?
状況を鎮圧し終わって、報告書とかも自分が書かないといけない分は教えてもらいながら書いて、新人用の日報とかもまとめて。
ちょっとした小休止のお休みの時間。非番ってやつ。
いつもの公園へと向かう。部隊の隊舎の近く、みんなが買い物とかする商店街から少し外れたところ。
……別に悪いことしてるわけじゃないと思うけど、少しだけ緊張する。
今日は、いるかな。いないかな。
神出鬼没ってやつだから、いるかわからないけど。とゆーか、ほとんどいないけど。
できれば、特別な体験ができた今日くらいは、このドキドキを……伝えたい。
……。
……。
「……ふふふ、こんにちは。調子はどうでしょう?」
「あっ……! 先生、こんにちわ……!」
来てくれた。とてもキレイな女の人。
大きな白衣?を着てて、ハカセみたいな先生。
まるでアニメの魔法少女に出てきた先生みたいな。
……私の夢を、叶えてくれた、すごい人。
・・・




