堕ちる進化 _ 「魔法少女になろうよ!」『Cease Being a Human!』
あなたの夢は願えば叶う。ただしあなたの夢に先は無い。
あなたの夢は願えば叶う。ただしあなたの夢に先は無い。
・・・
9章1節。
獣の刻印と選ばれし進化の啓示。
無垢な命は世界を進める捧げ物。
理性乏しき愚かな幼子へ追悼を。
偽り覆す哀れな救済の鍵として。
欺瞞に惑う道無き道への導きを。
幻の中で人の身を捨てた天使へ。
試練の扉を越える正しき革命を。
・・・
――夜空の下、きらめく希望で未来を照らす!
――魔法少女プリティスターライト・ピュアドリーム!
――毎週日曜、朝7時30分、放送開始!
早朝のニュースの合間、ポップなジングルで始まったコマーシャル。
懐かしい響きに思わず、家を出る準備をしていた手を止める。
ああ、このアニメまだやってたんだ。新しいシリーズかな。
前までずっと一緒にいたあの子が好きだった物語。
ドジでマヌケで、グズのバカ。私がいないとなんにもできない。
いっつも夢見がちでボーッとしてて、見ててイライラするのにほっとけない。
あの子は、小学生の卒業式の前にいなくなった。
――あー! 私も魔法少女になりたいなー!
……はぁ? なれるわけないじゃん。いきなりなに言ってんの。バカ?
――バカじゃないしなれるしー! 魔法少女はホントにいるんだから! テレビで見たもん!
あー、なにまたアニメ? プリスタだっけ? ほんとガキだよねー。
――違うしー! なんか、かいじゅー?みたいなのをやっつける女の子たちがいるんだって!
……怪獣じゃなくて魔獣じゃない? こないだ学校で習った気がするけど。
――あれ、そうだっけ? とにかく! スターライトみたいな魔法少女がほんとにいて、なれるならなりたいなって!
なりたいなーって……、なれっこないでしょあんたなんか。てゆーかどうなんの。
――知らない! けどなってる人がいるならなれるよ! 夢は忘れず願えばいつか叶うってプリスタで言ってたし!
でたでた、あほくさー。てゆーか、それより宿題はやってきた?
――あ……。えっと……写させて? お願い! 一生のやつ!
あんたの一生何回あんのこのドジバカマヌケー。先生来るまでには返してよ?
――ありがとー!! ……ねぇねぇ。
ん?
――もしもほんとになれるならさ、一緒に、魔法少女になろうね。
はいはい……。
……。そんなに経ってないはずなのに、すごく昔のように思う。
あの子の真似をして、子供だましのアニメに喜んでた頃とは違う。
それでも、あの子の子供じみた夢は一つ叶った。
そして、今から二つ目の夢を叶えに行く。
私も選ばれた。私だって変われる。
あの子と同じ、魔法少女になれるんだから。
あの子にだって、なれたんだから。
……。
・・・
………。
対魔獣組織第三部隊。
魔獣災害に対処する関東方面の主力前線部隊。
首都防衛を担う関東方面の部隊はとにかく多忙で、戦いに向かないサポーターの魔法少女はほとんどが支援部隊に回されるため前線部隊はアタッカー偏重が強いという。
私の魔法はアタッカー的なものではないけど、支援部隊に残るのではなく前線部隊に行く。第三部隊では二人目のサポーターらしい。
……第十二支援部隊での教練はめちゃくちゃキツかったけど、私は特別だったから。
新人の魔法少女は、ほとんどが魔力適合したてで、もちろん固有魔法なんか持ってない。
だけど私は最初から固有魔法に覚醒している。
そうした在野の覚醒の例も無くはないけどかなり例外的で、有名どころで言えば第一部隊の総隊長の『執行』さんとか。
だから結構な話題となって、初めの支援部隊での分類調査にわざわざその総隊長さんがやってきたくらい。
あまりのプレッシャーに本気で心臓が止まるかと思ったけど、とにかく何事もなくやり過ごせたので良しとしたい。
私は座学も実技も優秀で、わずか一ヶ月程度で支援部隊から前線部隊に行くことができた。
私はバカでもマヌケでもドジでもグズでもない。一直線に最短距離を、あっという間に進めて当然なんだから。
……。
それなりに緊張して挑んだ新人入隊式は、かなりあっさりしてた。
とゆーか、私と、堅物そうな隊長さんとずっとニコニコしてる副隊長さんの合わせて三人しかいなかった。
長々とした訓示のあとに新しい隊員章を渡されて、それでおしまい。
少し拍子抜けしたけど、これで私も立派な魔法少女となったわけで。
あとは副隊長の人に部隊の仕事を教えてもらいながら、隊舎を案内してもらう。
教練を受けた支援部隊でも思ったけど、魔法少女の部隊なのに思ったより子供は少なくて意外と大人が多い。
前線部隊といっても毎日戦ってるわけじゃなくて、訓練とか調査とかその他もろもろの書類作業が多い。
なのでそれを処理する事務員の大人が結構いるとのこと。そして私たちにも報告書とかの書類作業はある。
むしろぶっちゃけそーいう仕事の方が多いんだよねー、と副隊長さんは笑ってたけど……。
なんか、全然キラキラしてないなー……とは思うも、まぁ現実はアニメと違うってことなんだろう。
隊員の仕事は結構バラバラで、個別に動いていることも多いらしく全員と会うことはできなかった。
「そんじゃ、何か質問はある?」
「えっと。いえ、特には……」
「あはは、というかまだ何が分からないかも分かんないよねー。警報鳴ってない時なら私と隊長は隊舎に大体いるから、何かあったら遠慮なく頼ってね」
「はい、よろしくお願いしま……」
「一ヶ月以内なら無料で聞くよー! お試し期間を有効に使ってね!」
「……えっ、お金かかるんです?」
「まさかー、冗談冗談。ま、それぐらいで仕事覚えてくれると助かるなーって感じ。じゃ、明日からよろしくねー」
あっけらかんとした感じのジョークはあんまりおもしろくなかったけど、緊張は少しほぐれた気がする。たぶん、良い人なんだろう。
そんななんともゆるい雰囲気で、最後に私に割り当てられた寮の部屋の前で副隊長さんと別れて最初の一日が終わった。
明日からは本格的に新人としての仕事が始まる。
気を引き締めて頑張らないとな。
・・・




