第39話 魔族再び
ザビエラ~~~!
という回です。
第39話 ~魔族再び~
蔵光達は、またしばらく谷底の川沿いを上流へ向けて進んでいた。
川沿いは、上から見るのとはまた違って、両側から迫る岩壁が、かなりの威圧感を醸し出している。
川の幅は20mも無いが、その両端の川岸はかなり広く、この雨で少しくらい増水しても、上の森には影響が無いように思える。
川岸の周辺には、大きさが5mくらいはありそうな岩がいくつも転がっている。
また、川岸だけあって、地面には泥土は少なく川砂が多い。
そのため、今日のような雨の日は土道よりはぬかるみもなく、逆に砂地は雨の影響で水を吸って固くなり歩きやすい。
ここは、岩壁に近くなるほど木や草が多く生えて、大きくなっている。
20分程歩いた頃だろうか、蔵光が歩みを止める。
「何や、主、どうしたんや?」
「この先で気配を殺したり、魔力を抑えている奴がいる。」
蔵光がそう言うと、蔵光はみんなを川沿いの一際大きな岩影に潜ませ、そして、
「ちょっと様子を見てくる。セイさん、二人を頼む」
と音も立てずに前へ進む‼️
かなりのスピードだ、というより動きが見えないくらい速い、速すぎる。
たぶん一人だから速いのだと思う。
今までヘルメスらに移動速度を合わせていたからゆっくり過ぎて逆に疲れていたのかも知れない。
そしてゼリーもそれに合わせるように、
「ワイも行くで!」
と言って初めはヒョコヒョコとしていたが、これもかなりの速度で岩の上を跳び跳ねて蔵光の後を追いかけて行った。
蔵光が気配を抑えている者の場所まで来た。
先程のところから約500mくらい進んだ所だ。
蔵光は完全に気配を消し、対象から少し離れた岩影に隠れて様子を見た。
そこには、ザビエラと呼ばれていた大きな魔族の男の姿と、人間と同じくらいの大きさの鎧兜に身を包んだ魔族の兵士約10名くらいが気配を抑えて立っている。
ザビエラの気配を最初に気配を感じたときは、まだ少し強めに感じられていたが、今は蔵光くらいしか感じられないほどに巧く気配を消している。
他の魔族兵士はザビエラよりは気配の消しかたは不十分であったが、普通の人間よりは、かなり気配の消し方は手慣れている様子であった。
「さっき感じていたのは、アイツの魔力だったのか。」
蔵光は魔族がここまで気配や魔力を消していなければならない理由を探る。
ザビエラのいる場所から更に奥の方にはかなり濃い霧が立ち込めている。
全く先が見通せない程で、火事で煙が出ているのではないかと思われる程の濃霧である。
谷底という地形が更にその霧を他所へ散らさず、留まらせている。
ここにも、蔵光しか感じられないほどの微弱な魔力と気配を感じる。
これも気配を消しているようだ。
その霧の方にザビエラはかなりの注意をして警戒している。
他の魔族兵士も同様だった。
その時、一瞬だけだったが強い魔力と気配がしたと思った瞬間、すぐに気配は消され、その直後、ザビエラの横にはもう一人の魔族デストロが立っていた。
「あいつは確か、ノースヨーグ砦にいたもう一人の奴、二人ともここで何を?」
と蔵光が思った時、この間の件とが繋がる。
『まさか、ギルガンダか?』
これまでの話の流れと、彼等の奥に立ち込めている濃霧…
そこから感じられる魔力。
『ここだったのか?!!』
二人は何か二言三言話すと霧の方を向く。
他の魔族兵士は周囲に散る。
魔族二人は濃霧に向かって風魔法を使い、霧を吹き飛ばした。
段々と霧が晴れていく。
それでも中々奥まで見透せない。
とその時であった。
霧の奥から巨大な炎の柱が二人へ向けて飛んで来た。
ゴオオオオオー!
明らかに攻撃の炎である。
二人は予想していたかのように、スルリと炎を避け、更に風魔法で風を送り続ける。
その後、何度か同じように炎が霧の中から吹き出してきていたが彼等は空中を移動して巧みにその炎を躱し続けていた。
そして、風を送り続けること、約5分、ようやく炎の主と思われる者の姿が現れた。
それは体長が200m以上あろうかと思われる程の巨大な龍であった。
ワイバーンの比ではない、恐ろしく巨大なその姿はワイバーンをも一飲みにするほどの大きな顎を持ち、その体は堅牢な城のごとく巨大で、その巨体を覆う黒光りする鱗は一枚が普通の盾ぐらいもある。
その鱗に人間が持つ剣など、このドラゴンにすれば髪の毛でつつかれる様なものであろう。
背中の翼は森の巨大な木の枝を拡げた様に辺りを覆い隠すほどに大きく、尻尾も長く太く、軽く振るだけで森の巨木が軽く薙ぎ倒される。
角や牙、爪もとんでもない大きさだ。
「ギルガンダなのか?!」
蔵光はジパング王国以外ではドラゴンは初めてだった。(ワイバーンは彼の中ではドラゴンではない。)
グオオオオオオオオー
山や渓谷中に響き渡るような恐ろしく大きな咆哮である。
大気が震えて、川面にさざ波が起こり、川岸の小石が飛び散る。
ドラゴンは完全に魔力と気配を解放した。
魔力値が1億M以上と言われる古龍の魔力はハンパなかった。
地響きが起こり、周囲の木々が台風の風に吹き付けられたようにバサバサと大きく激しく揺れる。
かなり怒っていることがわかる。
魔族の二人はこの時を待っていたかのように行動する。
「ザビエラ!奴の攻撃を躱せるか?お前が囮になっている間に俺が背後に回って魔素結晶を撃ち込む!」
デストロが叫ぶ。
この状況を予測していたかのように冷静である。
「わかった!」
デストロは風魔法を止め、今度は雷の魔法を唱える。
上空から巨大な稲妻がドラゴンに向けて落ちる。
ギシャーーーン
凄まじい音と光とがドラゴンの頭部に落ちたが、ドラゴンは無傷であり、今度は体表から霧状の液体を噴出したかと思うと背中の翼を羽ばたかせ、前方へその霧を送る。
霧は一気に周囲へ広がったが危険を察知したザビエラは上空へ逃げる。
この攻撃を避けられなかった魔族兵士はこの霧に当たった瞬間、その場でのたうち回って死んでしまった。
「毒の霧か?!」
その霧は蔵光のところまで飛んで来たが、蔵光は『水恵・換』を使って水質変換し、只の水にしてしまった。
「危ない奴だなぁ。あいつ。」
結界を張っていた魔族もいたが、魔力値が高い者の攻撃のため結界が破壊されていた。
このドラゴンの攻撃した方向を見たが、吐かれた炎で近くの岩は真っ赤になってドロドロに溶けていたことから、やはり相当の魔力値があるものと思われた。
「やっぱり名持ちだけのことはあるな。」
ゼリーが追い付いていた。
「名持ち?」
「あの攻撃力や図体のデカさやったら、古龍でも名前があるやっちゃで。」
「すると、やっぱりギルガンダに間違いないな。」
「そういうこっちゃ!」
名持ちの龍とは、古龍の中でも、その強さや凶悪さなどから伝説となった龍に対し名付けられたもので、このギルガンダもその一体であった。
ザビエラはギルガンダの前で囮となり、自分に攻撃をさせながら気を引かせている。
かなりの威力の攻撃であるが、巧みに躱していく。
かなり戦いに慣れた動きである。
その時だった、ドーンという音と共に魔素結晶砲が炸裂した。
そして、ギルガンダの背中に魔素結晶が命中する。
グオオアアアア…
ギルガンダがその場でのたうち廻る。
結晶化した魔素が溶けて、体内に行き渡ると、同時に隷属型従魔法がギルガンダにかかり、洗脳状態となる。
だが今は、体内に回ろうとしている魔素にギルガンダの体内魔力が拒否反応しているため、しばらくは体に激痛が走る。
それが治まれば魔法が効き始める。
ギルガンダが暴れることで周囲の岩壁等が破壊されていく。
森の中に岩が砕け散る音が響く。
「凄い力だな、はっはっはっはっ!」
デストロが空中から谷底へ降りながら、ギルガンダの様子を見て笑う。
ザビエラもそこへ降りてきた。
「何とか成功したな。」
とデストロに声をかける。
「ああ、お前のお陰だ。」
と言うなり、デストロは腰の剣を抜き、『デスフレア』という炎の槍を持っているザビエラの右腕を肘の辺りから一瞬で切り落とした。
「ぐあっ……くっ、な、何をするデストロ!気でも触れたか?!」
ザビエラは直ぐにデストロとの距離をとる。
デストロは不敵な笑いを見せながら、
「ふっ、首を狙ったのだがな、よく、避けれたな?」
「はあ…はあ…、な、何故このようなことを?エルザは?」
「はっ、ああ、あの女か、アイツなら先に地獄で待っているぞ。」
デストロは笑顔で答える。
「このようなことをして、ただでは済まないぞ!」
ザビエラが切り落とされた腕を押さえるが血が止まらない。
凄い出血だ。
「あーそれなら大丈夫だ。全部ギルガンダにやられたことにするからな!と言っても、その報告相手にも死んでもらうんだがな!アーハッハッハッハッ!」
「まっ、まさか、アリジン様を?!」
ザビエラは今まさに、デストロの本当の目的を知った。
「そう、そのまさかだよ。エルザもこの事に気付いたので、殺っちゃったよ。頭が回りすぎる奴というのも困りものだな。」
デストロはイヤらしい笑いを浮かべている。
「では、ドラギゴも?」
「いやあ、アイツは知らね。どうでも良かったんだがな。まあ、ギルガンダが手に入ったんだ、暇があればそいつも探しだして殺してやるさ。」
デストロはそう言いながらも先に放っていた風魔法の風をブーメランのように飛ばしてザビエラの足を後方から狙う。
ザッ!
ザビエラは前方のデストロに集中していたため、風のブーメランに気付くのが遅れて左の太股に攻撃を受け、切り裂かれてしまった。
このままギルガンダを従魔にされれば魔王アリジンを守るラバンザ軍では、到底敵わない。
つまり、魔王家の転覆、クーデターだったのだ。
ザビエラは完全にザムザードレ侵攻のためにギルガンダを従魔にすると思っていた。
だが、魔王種でないデストロが魔王家の転覆を図ったとしても誰も奴にはついては行かない。
誰か裏で糸を引く魔王種の者、魔王家の血統を持つ者でないとこの計画は成立しない。
では、誰が………
そう思った瞬間、一人の魔王族の名前が浮かんだ。
「きっ、貴様…さてはベドグレイの?!」
「ザビエラ、口が過ぎるぞ、仮にもあの方は王位継承権第二位のベドグレイ様だ、アリジン様の息子アリジス様の次のなあ。」
ザビエラは腕と足の出血で意識が朦朧としてきている。
「はあ…はあ…、ど、どうして?」
「どうして?決まっているだろう!このままでは、王位はアリジスのものになり、ベドグレイ様は王位が継げない。それに、このままじゃあ、将軍様を気取って、いつまでもその椅子に座り続けるラバンザを俺様が見続けることになってしまうじゃないか!」
「はあ…はあ…、そんなことで…」
ザビエラはデストロの攻撃で動けなくなってきていた。
そこへ、容赦ないデストロの拳がザビエラの腹部にめり込む。
「ぐおっ!」
ザビエラが口から血を吐き地面に膝をつく。
「そんなことでだと?戦争だろうが、王家の転覆だろうが、将軍の椅子だろうが理由なんてな、昔から、み~んな、そんなちょっとした理由からなんだよ!自分の欲望を満たす為だけに動いてんだよ!まあ、今から死んでいくお前には関係のない話だがな。まあ、誰がやったのか、ドラギゴが殺られたときは焦ったぞー、魔王軍がやったのかとヒヤリとしたが、おかげでエルザに魔素結晶の製作を急がせることが出来たからな。」
デストロは、膝と肘を地面に着けて下を向いているザビエラの髪の毛を掴んで顔を引き上げ、その顔を覗きこむ。
ザビエラは何も言えなかった。
魔族という戦闘種族として生まれ落ち、魔王アリジンの元で四魔准将の一人として武勇を誇ってきた。
デストロから、今回のザムザードレ攻略の話を持ち掛けられた時、また戦いの場に立てると思った。
その心の内をデストロに利用された。
平和が嫌いなのではない、戦いの中でこそ、自分の真価を発揮できる、戦場こそ自分が生きていると実感できる場所だと思っていたからだった。
だが、現実は、魔王の命を奪い、将軍の座を手に入れるために謀られた策略の手駒として利用されていただけだったとは……
戦いの中で死ねるのなら本望とさえ思っていた、だが、その望みも叶えられず、欲望に汚れた、心の薄汚い奴等の手に掛かって死んでいく自分の愚かさと悔しさに涙が溢れ出る。
「おやおや、魔族のザビエラ魔准将ともあろう者が涙とは、情けない奴だな…まあ、俺様に忠誠を誓い、これからも部下として働かせてもらいたいと言うのなら助けてやらんでもないがな。ハッハッハッハッ!」
デストロがザビエラに最後のチャンスとばかりに問いかけたがザビエラはデストロを睨み付け、目でこれを拒否した。
「まあ、そうだろうな。エルザもそうだったが、お前もアリジンに対する忠誠心だけは、やたらと高かったからな、だがな、お前はもう、あのアリジンを裏切った俺達の片棒を担いでいたんだ。このまま生きて戻っても、いくら忠誠心があろうが、もう、お前に戻る場所は無いんだよ。」
デストロは言葉でザビエラの心の拠り所までも奪っていく。
ザビエラの全身の力が抜けていく。
ザビエラはうつむき、戦意すら完全に砕けて喪失していた。
「ふっ、使えん奴だ……ではそろそろ死んでもらおうか……」
こう言ってデストロは、左腕を振り上げる。
その手の先にはかなりの魔力が満ちている。
そして、一気にザビエラの心臓を目掛けて、その腕を突き立てようとした。
いやぁ急展開ですねー、魔族ヤバいでしょ。
ゼ「ホンマや。あと、ギルガンダ、デカイな。」
何、食べてるんでしょ?
ゼ「岩とか?」
えー?肉とかじゃなくて?
ゼ「肉とかやったら、あの森とか谷とか、全部喰い尽くしてまうやろ?」
でも、岩とかはないんじゃ?
ゼ「あの辺り、いっぱいあったし…」
いっぱいあったからって……ギルガンダさん今度何食べてるか教えて下さい。




