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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第二章 新人冒険者として
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第40話 ザビエラ救出と事の顛末

魔族の陰謀が明らかになりました。

第40話 ~ザビエラの救出と事の顛末~

デストロの左腕がザビエラの心臓に向けて振り下ろされた瞬間だった。


メシャ!

デストロの顔面に蔵光の膝蹴りが炸裂した。

いくら魔族といえども頭蓋骨粉砕骨折は免(まぬが)れないだろう。

ゴシュ!

鈍(にぶ)い音を立ててデストロはその場から弾丸のように吹き飛び、飛んだその先には谷の岩壁があり、そのままの勢いで壁面にめり込んだ。

壁面からは割れた岩の欠片が周囲に飛び散る。


周りにいたデストロの部下はゼリーがビーの剣で瞬殺していく。


「ううっ……な、何が…」

死を覚悟していたザビエラの前に立っていたのは小さな人間の少年だった。

「大丈夫かい?危なかったねえ…あいつ、仲間だったんじゃないの?」

蔵光は人の心…感情が多少なりとも感じられる。

それは魔族の者に対しても同じだった。

話の内容は、蔵光の『超』が付く聴力で大体聞こえていた。

自分達の戦争をするつもりが、自分達の王を殺す手伝いをさせられていたということや、そのせいで殺されそうになっていたことはわかっていた。

普通であれば、この二人の話の中に蔵光が割って入る必要もなければザビエラを助ける義理もないのだが…

蔵光がザビエラを助けた理由…

それは…


ザビエラの悔し涙を流すのを見て感じた蔵光の素直な気持ちからだった。


また、『裁定者(さばくひと)』のスキルでデストロは☓判定が出たので少しだけ手加減して顔面を膝で蹴り付けたのだった。

魔族だから人間よりはまだマシだろうと思ったが結構キツい攻撃を加えてしまった。かろうじて生きているようではあるが……

ただ、この魔族の男、デストロは生かしてこの男の領地において裁かれなければならないため、命は奪わなかったのだ。


ゼリーも周辺にいた魔族は全てデストロの配下であったため全て排除した。


「主(あるじ)ぃ、終わったで。」

「ああ、お疲れ様、ちょっとこの魔族の人の怪我治してもらえる?」

「えー?大丈夫なん?」

「暴れたりしたら、俺が何とかするから、それより死なれちゃ助けた意味ないし、それじゃ困るんで…」

「わかったわ、まあ、主(あるじ)がそない言うんやったら…」

そう言うとゼリーは、切断されたザビエラの右腕を繋げ、足の傷を治癒魔法で治療していく。


「おっ、お前は一体……?」

右腕からかなりの出血があり、ダメージがあるためか意識が朦朧とする中でザビエラは蔵光達に尋ねる。

「俺達は冒険者だよ、C級だけどね。」

蔵光は答えた。


ギルガンダのほうもかなり暴れ疲れたからなのか、大人しくなり始めている。

「すまないが、はあ…はあ…頼みがある…ギルガンダ、いや、あのドラゴンの体に撃ち込んだ魔素結晶を何とか取り出してもらえないか?はあ…はあ…」

ザビエラは激しく呼吸をしながらしゃべっている。

体はまだ動かないが、ゼリーの治療で何とか意識はしっかりとしてきたようだ。

そのザビエラが、そんな頼みを蔵光にしたのは、デストロに蹴りを入れて遠く離れた岩壁に叩き付けた蔵光の一撃を見たからだった。

デストロの魔力値は20万M、上位魔族でもかなり強いほうだ。

そのデストロを蹴りの一発で谷の岩壁まで蹴り飛ばす恐るべき力。

普通の人間には出来ない芸当だ。

あれ程の力があれば魔素結晶くらい何とか出来るのではないかと思ったのだ。

「えっ?魔素結晶?」

「そっ、そうだ、奴の体の中に、アイツが背中から撃ち込んだ、早くしないとアイツの従魔になってしまう。そうなればもう手遅れだ。頼む……はあ…はあ…」

ザビエラは力を振り絞って蔵光に託した。

「ふーん、そうなんだ。わかったちょっと見てみる。」


蔵光は、うずくまっているギルガンダの体の上に飛び乗った。

言葉では簡単だが、普通、全長200m以上のドラゴンの上に飛び乗るのは大変なことだ。

高さも凄く高い。

蔵光の身体能力があってこその芸当だと思ってもらいたい。

ギルガンダの背中はかなり広い、蔵光が岩場の陰から状況の一部始終を見ていなければ、直径10cmくらいの玉が撃ち込まれた跡なんて分かるわけがない。

蔵光はギルガンダの背中というか、右の肩付近の部分に、黒くてやや透明感のある丸い玉が深さ約1mのところでめり込み止まっているのを見つけた。

「あーこれかあ!」

蔵光が手を伸ばしてそれを掴もうとしたがちょっと手が届かない。

仕方がないので周囲の肉を両手で拡げる。

ドラゴンの頑強な筋肉も蔵光の超剛力にかかれば只の肉の塊だ。

グギャアアアアー

ギルガンダは魔法で洗脳されかけようとしていたが、蔵光のこの行為で再び体に激痛が走り我に返る。

だが、もう暴れる力はなく再び静かになった。

「ちょっと、待っててね。」

開いた肉を両足で支え、開けた状態にしたまま、再度、魔素結晶に手を掛けた。

そして、その魔素結晶を掴んで引き抜こうとした、その瞬間であった。


蔵光の一撃で一時気を失っていたデストロだったが、何とか気がつくと、蔵光が魔素結晶を抜き取ろうとしていることに気付いた。

体全体に激痛が走る、骨折は一ヶ所や二ヶ所くらいではないだろう。

だが、自分の目的を邪魔する者は全て排除しなければという気持ちだけがデストロの体を動かしていた。

そのため、痛む体を引き摺(ず)りながらも気配を消して蔵光に剣で切り付けたのだ。

ゼリーも気配を消されていたことで、この攻撃に全く気付いていなかった。

渾身の気配遮断であった。


だが……


ガキーンンンン

蔵光はこの攻撃を読んでいたのか魔素結晶の方へ向いたまま、デストロの剣の方へ片手を出し制止しようとしていた。

が、全く手に手応えを感じない。

でも音はしたよな?


「ん?」

蔵光が後ろを振り向くと、小柄な老人がデストロと蔵光との間に入り、デストロの剣を素手で受け止めていた。

そして蔵光に対して一言、

「余計なお世話じゃったかのお?」

と言いながら、デストロの剣をそのまま指でへし折り、その状態のまま人差し指で押し返した。

ベシャ!

するとデストロは再び最初の勢いと同じくらいの速度で谷の岩壁に激突し、めり込んだ。

グショ!

岩壁の中から両足だけが出ている。

デストロは完全に意識を失っていた。

今度は多分、気が付いても立ち上がることさえ出来ないだろう。


「えっ?あっ、水月(すいげつ)じいちゃん!」

蔵光が叫ぶ。

蔵光が水月(すいげつ)と呼ぶその老人、それは水無月水月(みなづきすいげつ)といって第66代水魔神拳の伝承者であり、蔵光の曾祖父にあたる、御年(おんとし)88歳になる御大(おんたい)である。

身長は150cmと小柄の痩せ型で、頭髪は真っ白のストレートでオールバック、肩ぐらいまで伸ばしている。

服は、黒い着物で、下には黒い袴を着け、腰には脇差を一本差している。

また、白色の足袋(たび)に、履き物は高級そうな草履を履いている。

鼻の下から口の回り、顎の下約20cmくらいにかけて真っ白の口髭を伸ばしている。

眉毛も白く、目が少し隠れているが、その下から見える目は優しくも鋭く、さすが蔵光のひいじいちゃんと言える。



「水月じいちゃん何でここにいるの?」

「ん?ああ、あれじゃ、あやつを探してたら何か面白いことになっていてな。ふぉふぉふぉ。」

とデストロを指差しながら、長く白い口髭の下で笑う。


水月は蔵光がギルガンダの体から魔素結晶を抜き取った後、これまでの経緯を話すことにした。

その頃には、誠三郎達もこちらの現場に来ていたが、横になって伸びているギルガンダの巨体を見て驚いていた。

また、ザビエラがゼリーから治療を受けていることにも驚く。


「一体何がどうなっているんですか?」

ヘルメスも状況整理が全く出来ない。

「まあ、そういう反応になるわな。」

ゼリーがザビエラを治療しながら応える。

ヘルメスが蔵光に事情を聞こうとしたが、蔵光は水月の話を聞いた方が分かりやすいのではと言うことで一緒に話を聞くことになった。


水無月水月は過去の伝承者の中でもかなり優秀な方であり、今でも極秘裏に世界各国から依頼を受けている現役である。

(すげえ!)

今回の水月の仕事の依頼主はジェノマ地区の魔王アリジンであった。

アリジンは魔族の中でも比較的穏健派の魔王であり、余り外の地域へ戦闘行為を行わなかった。

そんなアリジンだが、少し前から魔族特有の病気にかかり、余命幾ばくもないと魔族の医師から宣告されていた。

そのため、アリジンは次期魔王を息子のアリジスに譲位することにしていた。

しかし、その事で王位継承権第二位のベドグレイが何やら不穏な動きをしているようであり、何か良からぬことを画策しているのではないかとの噂が配下の者から伝えられたため、身の危険を感じ、懇意にしている水月に依頼をしてきたのだ。

本来は王位継承権争いなんぞ水無月家の仕事ではなかったが、水月はアリジンの人柄を気に入っていたため、仕事を受けたのだった。

話によるとアリジンは隣のザムザードレの王女とアリジスの婚約を確約し、2つの領地間を強固な体制にする事をザムザードレの魔王から約束を取り付けていた。

だが、この話が流れれば再び泥沼の戦いが繰り拡げられる事が明らかであり、種族存亡の危機を迎えることは必至であった。

そのため水月に、事の調査を依頼していたのだった。

調査の結果、ベドグレイは四魔准将のうち、デストロとドラギゴを取り込み国家転覆(クーデター)の計画を持ちかける。

そしてその成功の暁には二人には魔将軍と軍団長の地位を授けると約束していた。

また、そのクーデターには伝説のドラゴン、ギルガンダを従魔として利用する事を画策、併せてザムザードレ攻略と称して魔准将のザビエラ、エルザの二人を騙して引き込み協力させた。

この二人はアリジンへの忠誠心が高いことから仲間に引き入れることは最初から考えていなかった。

そのうちにギルガンダの居場所がわかりそうだということだったが、ノースヨーグ砦の結界が破壊できず、魔素結晶を造るための魔素が手に入らないことで一旦行き詰まるが、ドラギゴが殺されたことで早急に計画を進めることを余儀なくされる。

そのため、仕方なくベドグレイの邸宅内の魔素井戸を使わせ、エルザに魔素結晶を造らせた。

エルザには気付かれる可能性が高かったので、本当はベドグレイ宅の魔素を使わせる気は全くなかったのだが仕方なく使わせてしまった。

結局、それが元となり、エルザの勘の良さで気付かれてしまったため、デストロがエルザを殺害した。

ちなみに、ドラギゴ殺害事件については水月がやったことで、ゴブリンロードを大量に使って村を襲わせたため世界の裁定者の一族として始末したとのことであった。

デストロは魔素結晶をエルザから取り上げた後、その足でここまで飛んで来ていたのだが、追跡して事の顛末を見ようと思っていたところ蔵光が現れたので驚いたらしい。


蔵光らが、今回のクライ渓谷の異常事態の調査に来たと言うと、

「なるほどのぉ、まあ、カキノタにはご先祖様の結界があるからしばらくは大丈夫だとは思ってたんで後回しにしてたんじゃがな、ドラギゴを始末した後に、村を見に行ったのじゃが周囲の木が斬り倒されていただけで死体も何も無かったので、何があったのかと思ってたんじゃが、あれはお前の仕業だったとはのぉ、ふおふおふお。」

水月は口髭の下で再び笑った。

ちなみにノースヨーグ砦では二人とも違う場所から気配遮断をしていたため、双方とも全く気付かずだったことも判明した。

なお、水月が隠れていた場所は結界が張っていた部屋の上部の天井付近で、お互い気配遮断が巧みすぎてニアミスに気付かなかったようである。



いやあ、水月さん凄いな。

ゼ「あのじいさんはヤバいで。」

そんなにか?

ゼ「ああ。」

どのあたりが?

ゼ「そうやな、眉毛の長さかな。」

ヴ「ヤバかったです。」

はい?誰?

※引き続きよろしくお願いします。


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