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源光(みなもとひかり)物語  作者: 西村 圭
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九、葵

母が引退し、異父姉の朱雀があとをつぎました。母は、恋人である藤壺の人と静かに暮らしはじめました。朱雀の父親は面白くないようですが、朱雀のサポートもありますし、忙しくしているようです。母は母で、引き取ってくれた私の子のことをが気がかりなようで、私にサポートするよう言ってきます。私としても、子供の手助けができるのは嬉しいことです。


母の引退により、大規模な人事異動が行われ、六条の人の亡くなった妻との息子が遠方に赴任することになりました。六条の人も同行しようと考えているようです。母は、私がかつて親しくしていたことを気にかけ、顔をつぶさないように、と言ってきました。もう終わったことだと思っていましたが、あまり傷つけないようにしなければいけない、と考えるようになりました。


従兄弟である朝顔の美しい庭のある家に住む人とは、気持ちが通いあったように感じたこともありましたが、私の行状を気にしたのか、親しくなることもなく、時たま連絡をとるくらいの関係を続けています。朝顔の人の母君は、私の様子を騒々しいと思われたようですが、朝顔の方も、私の気持ちを嬉しくは思いながらも、親しくなるのは気が進まないという様子でした。


私は婚約者の葵と結婚し、ほどなく身籠りました。初めて子を迎える葵は、どう振る舞ったらいいのかわからないのか、不機嫌にすら見えます。


ある日、葵は、祭り見物にでかけることになりました。葵自身は気が進まないようですが、父君のすすめもあって、でかけることになりました。

いい席をとろうと、家の者が強引なことをしたようで、その際に弾かれてしまったのが、六条の人だったそうです。私もその場を通って葵の所に向かったのですが、六条の人は私の顔を見ると隠れてしまったので、私は葵と六条の間にあったいさかいに気づきませんでした。


あとから、葵と六条の人との間でいさかいがあったと聞き、私は六条の人のことが心配になりました。久しぶりに訪ねましたが、会うことはできませんでした。


家に戻り、紫の世話をして、また祭り見物にでかけました。以前付き合いのあった母の部下も来ていました。疎遠になったことをよく思っていないようで、挨拶するにも、私としては気をつかいました。


葵の家では、深夜に不審者がうろついていると騒ぎになっていて、葵も憂鬱そうでした。それでも、妊娠中の私を気づかってくれました。


再び六条の人の家を訪れ、会うことができました。久しぶりに互いの様子などを語り合いました。私が夫の子を身籠っているのを目の当たりにしてショックを受けているようでした。また会いたいと言われましたが、私としては何の約束もできません。葵への祝いの品を預かり、葵の家に寄ってから、自分の家に戻りました。


しばらくして、葵が倒れたと聞いて、驚いて駆けつけました。なにを口にしたのか、ひどく弱っている様子です。葵の家族も医者も原因がわからないと首をひねります。私は嫌な予感がしました。


六条の人の息子の赴任は、もう少し先になりそうです。父である六条の人の具合がよくなく、私も見舞いました。六条の人を見ると、顔色のすぐれない葵を思い出します。聞きたいことがあったのですが、どうしても言い出せず、私は六条の人の家をあとにしました。


ほどなく、私は娘を出産しました。藤壺の人との間に生まれ、母にも父親のことは知らせずに引き取ってもらった子とは異なり、初めて私がおおっぴらに慈しむことのできる我が子です。葵の両親はもとより、私の母も大いに喜んでくれました。葵の具合は相変わらずよくありませんが、自分の子の誕生を心から喜んでくれました。


私の子が産まれたことは、六条の人の耳にも入っているでしょうが、何の連絡もありませんでした。ただ、六条の人の病状と葵のそれがよく似通っているように私の目には見えたこと、薬害を学び、さまざまな事柄に精通する六条の人の資質など、色々なことが私の胸の内で巡ります。


それでも、子供の世話をしていますと、この子によく似たもう一人の子のことも思い出します。葵は少し顔色もよくなり、私は母の顔を見に、葵の親や兄弟も一緒に出かけることにしました。


ところが、私達がでかけている間に、葵は容態が急変し、亡くなってしまいました。手のほどこしようもなかったそうです。あまりに突然のことで大騒ぎになりました。多くの人がお別れに来てくれましたが、葵の母君は、立ち上がることもできません。私もあまり眠ることができずに、もっとはやく打ち解けれはよかった、などと思い、後悔がつきません。


六条の人から、葵の死を悼む連絡があり、私は複雑な思いで受けました。返礼を伝えながら、私達の長かった付き合いと、葵のことを思いました。


葵の両親や姉と、しみじみと語り合いました。


我ながらなかなか気持ちの整理もつかず、つい従兄弟の朝顔にも話を聞いてもらいました。とりたてて慰めなど言わない人ですが、かえって私の気持ちは安らぎました。


葵の家では、葵の使っていた品々が、少しずつ分けられ、配られたりなどしていました。

子供とともに、私達は葵の家を辞することになりました。

葵の両親などが見送ってくれました。


久しぶりに母のところに顔を出しました。母の恋人の藤壺の人も一緒でした。母のところにいる私の子供の様子などを聞いてから、家に戻りました。


家に来たときは子供だった紫はすっかり大きくなり、とうとう成人の時期を迎えました。この時に至って、私達はお互いがなくてはならない人なのだと悟りました。


私と紫の仲を勘ぐる人も多く、すっかり噂になってしまいました。紫は落ち着かない様子でした。私も申し訳なく思いました。


時折、葵との間の子供を連れて葵の家を訪れ、彼の両親としみじみ語り合って過ごしていました。

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