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源光(みなもとひかり)物語  作者: 西村 圭
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十、賢木

六条の人が去る日が近づいていました。葵が亡くなってから、私が彼と再婚するのではないかと噂をたてられたこともありましたが、私としては、そんな気持ちになれませんでした。


母が体調を崩すこともあって、私の身辺も落ち着きませんでしたが、六条の人が遠くへ行ってしまう前に、もう一度会っておこう、と思いました。

改めて会った六条の人はどこかやつれているようにも見えました。

彼も私のことを思ってはくれていたでしょうが、お互いの立場や不器用さもあって、一緒になることはありませんでした。やがて彼への気持ちが落ち着いてしまった私とは反対に、彼の方は私に執着し、あるいは私の恋人や夫に手をかけたのではないかと、恐ろしく感じました。

もっとうまく向き合えたらよかったのに、と思いながら、彼が少しでも邪な気持ちから解放されるように願って榊を贈り、私は六条の人のもとを去りました。


六条の人は若い頃に結婚し、このたび遠方に赴任する息子に恵まれましたが、妻に先立たれ、長く不遇を囲っていました。彼の出立に、人々はさまざまに噂しました。

私は噂を避けたくて彼らの見送りにはいきませんでしたが、無事を願い、彼らの旅立つ空を見上げました。


母は病が一層重くなりました。母と面会した私は、母の引き取ってくれた私の子の力になるよう、また、その務めの妨げになるようなことは慎むよう、強く言われました。同席した異父姉の朱雀も、くれぐれも励むように、と声をかけられていました。

別の日に、私の子と藤壺の人も一緒に面会に訪れました。母もまだ幼い子供のことは気がかりのようです。藤壺の人も沈んだ様子で、私も胸が痛みました。


異父姉の朱雀の父も見舞いを予定していましたが、間に合わず、母は亡くなってしまいました。

多くの人が母の死を悼みました。


藤壺の人は実家である三条に戻りました。紫の母であり、藤壺の人の姉である兵部が迎えいれました。藤壺の人は今後の先行きに不安を感じているようでした。


母の弔いが一段落つき、異父姉の朱雀は、彼女の父の遠縁の男性との婚約が決まりました。私とも関わりのある、朧月夜の人でした。

私達は、いまでも連絡をとりあっていました。


私は度々、葵の子とともに葵の家を訪れ、葵の両親の話し相手などをつとめます。いまだ落ち込んでいる様子ですが、私達の訪れがいくらかは慰めになるようです。


従兄弟の朝顔の人も遠方への赴任がきまりました。お互いに憎からず思いながら、叶うことのなかった恋が終わっていくかのようです。時たま連絡をとることで、なんとか惜しい気持ちを抑えようとしています。


異父姉の朱雀が事業を束ね、朱雀の父やその家族が隆盛を誇っています。異父姉としては本意ではないこともあるようですが、優しい人で、表立って反対することもありません。

朧月夜の人とは、人目を忍んで、密かに会っていました。

十分気をつけているつもりでしたが、知り合いに顔を見られたりして、気まずい思いをすることもありました。それでも、会うのをやめよう、と言われると、私としても辛くなるのです。


藤壺の人とは時に顔をあわせることもあり、お互いに思いの強さに苦しんでいました。特に藤壺の人は、私達のことが明らかになると、子供の立場が悪くなることをおそれているようです。心痛のあまり、体調を損ねることもあるようです。私はますます彼のことが恋しくなり、会いにいってしまいました。


私との関係にも、朱雀の家族とのやり取りにも疲れたのか、藤壺の人はひきこもりがちになりました。子供も心配しているようです。


私は、藤壺の人への思いを抱えたままなのが辛く、寺に泊まり掛けました。寂しがった紫から連絡があり、微笑ましく感じました。


朝顔の人にも連絡をとりました。彼との別れを思うと、今でも苦しくなります。彼からの返事は当たり障りのないようなもので、かえって私は辛くなりました。


寺での滞在で心を落ち着けた私は、紫のことも気がかりになり、帰ることにしました。紫が私との仲に悩む様子を見ていると、一層いとおしく感じられました。


寺で集めた紅葉を、藤壺の人に送りました。彼もまた、子供を気遣う私に感謝しながらも、私達の関係には及び腰な様子です。


異父姉の朱雀のところに伺う機会がありました。改めて、母のことを思い出します。

帰りがけ、朱雀の従兄弟にあたる人から嫌味を言われましたが、聞き流しました。


藤壺の人ところにも立ち寄りましたが、子供のことを持ち出しても話が弾まず、不安なまま辞しました。


朱雀の親戚に嫌がらせをされたことを思うと、朧月夜の人に連絡をとる気もなくなるくらいですが、そういう時ほど、彼の方からなにか言ってよこすことなどありました。


雪の日に、母か死んで一年が過ぎ、改めて彼女のことを悼みました。藤壺の人とも連絡をとり、慰めあいました。


藤壺の人は、すっかりひきこもって生活しています。子供も私も残念に思いますが、彼の意思はかたいようです。子供の立場が思いやられます。


新年の挨拶に伺った際にも、やはり惜しい気持ちがあふれ、悲しくなりました。


葵の親も、朱雀の父などに押しきられ、朱雀の反対も力及ばず、要職から退いてしまいました。葵の姉も、ふさいでいるようです。朱雀の父の息子の一人と結婚しましたが、うまくいっていないようです。それでも何人か子供に恵まれ、ある日、そのうちの一人を伴って遊びにきてくれました。兵部も訪ねてきて、一緒に遊ぶ様子を見守っていました。


ある日、朧月夜の人から、実家で過ごすと連絡があったので、訪ねることにしました。日中は人目も多いので、夜になってしまいました。二人で過ごしていると、息子の様子を見に来た母君と鉢合わせしてしまいました。あちらは動転して出ていってしまいましたので、私は落ち込む朧月夜を慰めました。

母君は見聞きしたことを全て朱雀の父親に語ったようです。彼らが私にどのような報復を考えているのか、この時の私には全く見当もつきませんでした。



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