表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
源光(みなもとひかり)物語  作者: 西村 圭
4/41

四、夕顔

空蝉の人とは決定的に疎遠になり、私は寂しさを抱えていました。


それはさておき、子供の頃世話になった家庭教師が病気になったと聞き、見舞いに行くことにしました。彼の息子で、今は私の秘書をつとめている惟光も同行してくれました。

行ってみますと、この家の隣に、趣きのある邸宅があり、気にかかるようになりました。庭に咲いているのは、夕顔という花だそうです。


家庭教師の家では、惟光の姉や弟夫婦も、私を歓迎してくれました。この元家庭教師の人はだいぶ弱気になっていましたので、私はなんとかして慰めました。父と死に別れ、母とはあまり多くの時間を過ごせなかった私にとって、その人はまさに親代わりのような人でした。

 帰り際、私は惟光に、隣に住んでいるのはどんな人かと尋ねましたが、彼はよく知らないようでした。一方で、婚約者のいる私が隣家に関心を持つことに、穏やかでない印象を抱いたようでした。自分でも、婚約者の葵の姉のように自分の気持ちが移り気なことに気がついていました。空蝉の人のことを、忘れたわけではないことも。


何日かして、空蝉の人の義理の母である女将が訪ねてきました。亡き娘の夫の妹である小君が世話になっている礼を重ねる一方で、旅館再生事業を手掛けるとかで、空蝉の宿は孫である軒端の荻の人に任せ、亡き娘の婿である空蝉の人には遠方にある宿を任せるのだと言います。もう空蝉の人には会えなくなるのではないかと、私は途方にくれました。


私の人との付き合い方をよく思わない人は多いでしょう。

私があまり寄り付かないので、婚約者の葵の家では私のことを快く思っていないようです。

また、昔の話になりますが、婚約する前に、惟光の実家の隣の夕顔の家にほど近い六条に住む人と付き合いがありました。物事を思い詰めるところのあるの人で、そういったところも好ましく思ったこともありましたが、いつの間にかすっかり疎遠になってしまいました。今となっては挨拶程度で、この人もやはり私のことをよくは思っていないでしょう。


夕顔のある家に、婚約者の葵の姉が出入りしていたという噂も耳にしましたが、結局、惟光が紹介してくれた縁で、私は時々夕顔の人と一緒に過ごすようになりました。


ある時、夕顔の人と私は近くに旅行に行くことにしました。近頃、何者かによる嫌がらせを受けるようになったという夕顔の人の、気分転換にでもなればと思い付きました。

彼と穏やかな時間を過ごす一方で、仕事を休んできてしまったので、何か母が少しは気にかけているだろうか、六条の人は、もう私のことを考えなくなってしまっただろうか、と余計な考えが頭の中を巡ります。


その夜、夕顔の人が何者かに襲われました。

彼は、ひどい怪我を負いました。


惟光たちにも辺りを見て回ってもらいました。

夕顔の人はひどく怯えてしまいました。無理ないことです。


私達は、別々に家に帰ることにしました。


夕顔の人のことも心配でしたが、私自身もショックを受け、しばらく伏せっていました。

どこからか私の様子を聞きつけたのでしょう、婚約者の葵の姉が見舞いに来てくれました。

黙っているわけにもいかず、出先で同行していた知人が体調を崩した、私も具合が悪くなったと説明しました。

彼女は私の話の真偽を疑っているようでしたが、私の母にも、弟の葵にもそのまま伝えると言って帰っていきました。


夜になって、夕顔の人の元にいた惟光が戻ってきました。様子を尋ねると、命に別状はないものの、ひどく怯えていると言います。惟光は責任をもって対処すると請け合ってくれました。私はせめてもう一度だけ会いたいと思い、惟光と共に夕顔の人の元に向かいましたが、会うことは叶いませんでした。彼は私に二度と会うことなく、どこか遠くへ行きたいと考えているのです。


惟光は夕顔の人をなにかと気遣い、夕顔の人の世話をしていた右近という人の相談にものっているようです。


私はすっかり落ち込み、母にまで心配をかけましたが、なんとか起き上がれるようになりました。


右近には会うことができました。


夕顔の人は、噂のあった通り、婚約者の葵の姉の元恋人でした。彼らの間には子供もあったそうですが、仲違いし、子供は夕顔の人の元で養育されているといいます。私は夕顔の人に会うことはできなくても、せめて夕顔の子の世話をすることはできないかなどとと考えましたが、叶いませんでした。


そうこうするうちに、空蝉の人が女将と共に出立の挨拶に訪れました。思いを残す人との別れは辛いものですが、私にはどうすることもできません。空蝉の人とは何度も目が合いましたが、私の気持ちが伝わったかどうか、分かりませんでした。


また、その後、私の元を去って行った夕顔の人とは、二度と会うことはありませんでした。


こうして、人目を忍ぶばかりの私の恋の数々は、無残に散っていきました。


誰にも言えないことですが、私は夕顔の人を襲った犯人を見ました。

あの六条の人でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ