三十四、若菜 上
異父姉の朱雀は、病がちで、そろそろ引退を考えていました。
朱雀には、冷泉の跡継ぎである娘のほかに、息子が何人かいて、また、親戚筋の養子も一人いました。
まだ年若いこの養子のことは、特に気がかりなようです。
夕霧にも見舞いに行ってもらいました。朱雀は、私にも会いたいと言ってくれたようです。
朱雀は、誰かにこの養子を託したいと、相手を探しているそうです。夕霧はどうかとも考えたようですが、雲居の雁の人がいることを知り、残念に思ったとか。
蛍や柏木も考えたようですが、冷泉の跡継ぎである娘のすすめもあり、私に託したいと言ってきました。
私は、この養子の成人の祝いを済ませ、引退した朱雀のもとを訪ねました。朱雀の懇願に根負けして、私は朱雀の頼みを引き受けました。
長年連れ添った紫には、申し訳ないと思いましたが、紫は恨み言一つ言わず、受け入れてくれました。
年が明け、朱雀の養子は、私のとのろへ移り住む準備をすすめています。多くの求婚者が嘆いたとか。
玉鬘の人は祝いの品を持参して訪れました。髭黒の人や子供たちも一緒です。以前の気持ちが思い起こされ、懐かしく感じました。
葵の姉君や柏木、妹の蛍も訪れ、皆で音楽を楽しみました。
私のほうでも準備をすすめ、朱雀の養子を受け入れました。華やかな祝宴が開かれました。紫は複雑だったと思いますが、よく世話してくれました。
いざ迎え入れると、朱雀の養子は物静かな人で、私は何を話したらいいのかと途方にくれてしまいました。
紫も、やはり気持ちが落ち着かないのでしょう。家の他の者たちも、いつも以上に気遣っていました。
落ち着かないのは私も同じことで、紫の様子をみにいったりしてしまいました。
誰に対しても不誠実なことになってしまいますが、朱雀の養子と結婚した後の方が、紫の素晴らしさを改めて感じています。
異父姉の朱雀は、私に深く感謝してくれました。一方で、紫にすまなく思っているようでした。朱雀は、朧月夜の人とより静かな地へ移り住みました。
私は、思い半ばにして離ればなれになってしまった朧月夜の人のことを忘れがたく、久しぶりに連絡を取りました。どうしても会いたい気持ちを押さえることができませんでした。紫には、末摘花の人の見舞いに行くと言って、出かけました。
朧月夜の人と、親しく語り合いました。
紫のところへ戻ると、私が誰と会ってきたのか分かったのでしょう、いつもと様子が違いました。観念した私は、全てを話してしまいました。とても朱雀の養子のとこらへ顔をだすこともできませんでした。
久しぶりに明石の人との息子が訪れました。
冷泉の跡継ぎである異父姉の朱雀の娘が身籠ったと聞き、嬉しく思いました。明石の人も喜びました。
紫はお祝いに訪れるついでに、朱雀の養子にも挨拶に伺うことにしました。
紫は思い悩みながらも、準備にとりかかっています。私は少し抜け出して、朧月夜の人に会いに行きました。
明石の人との息子は、紫のことをもう一人の父と慕っています。二人は親しく話し合いました。また、朱雀の養子と紫は、親戚でもあり、この機会にと親しくなりました。私も安堵しました。
私の長寿を祝って、紫が取り仕切って宴を催してくれました。明石の人との息子や紫の母君も絵を持参してくれ、盛大に祝ってくれました。夕霧や柏木は舞を披露してくれました。
私は、藤壺の人を思い出していました。
六条の人の息子も祝ってくれました。また、冷泉の頼みで夕霧も宴を取り仕切りました。
年が改まり、明石の人との息子と朱雀の娘との子供の出産が近づいてきました。
明石の人の父君は、孫である私と明石の人との息子に、私と明石の人とのなれそめなどを昔語りしていました。父君の様子を知って、明石の人も母君のことを思っていたようです。
やがて、無事に女の子が産まれました。皆で喜びました。紫や明石の人も世話を手伝っていました。これを機に、紫と明石の人は親しくなったようです。
明石の人の父君も、明石に残っている母君も、孫の誕生を大いに喜んでくれました。
明石の人の母君はその後、亡くなられ、明石の人と父君は悲しみました。
やがて、明石の人との息子は、そろそろ朱雀の娘と住む家に戻ることになりました。
明石の人との息子も、祖母である明石の人の母君のことを聞き、悲しみました。
私も、明石の人を訪ね、明石の人の母君のことを聞き、悼みました。
また、重ねて明石の人やその息子に、紫と一層、親しくしてほしいと話しました。明石の人は、朱雀の養子のことが気がかりなようです。
夕霧も、朱雀の養子のことが気になるようでした。雲居の雁の人と結婚し、幸せに過ごしていても、紫に憧れたり、心が揺れるのを抑えるのは難しいのでしょう。
朱雀の養子の求婚者の一人だった柏木も、諦めきれない思いを抱えているようです。
三月のある日、妹の蛍や柏木らが訪ねてきました。夕霧も加わり、若い人を中心に球技を楽しみました。
興奮したのか、猫が紛れ込みそうになり、飼い主である朱雀の養子が出てきました。柏木は目を奪われたようです。朱雀の養子はすぐに部屋に戻りましたが、柏木は残された猫を抱えていました。
私は、柏木に、彼の母である葵の姉君の昔話などをしました。私の家からの帰りに、柏木は、私の朱雀の養子への愛情が紫へのものより少ないのではないかと夕霧に語ったそうです。夕霧は、そんなことはない、と否定したようですが。
柏木は時折、朱雀の養子に連絡をとっているようです。




