【3:炎耐性と書いてタイオンと読む】
「すげえ……なんだよあの筋肉……本当に筋肉なのかよ……」
「シックスパックってレベルじゃないよな……シックス山脈だろ……雄大すぎる……」
「マジに人間なのか……?」
「ちょっとあこがれそうだぜ……」
今度こそ山賊団に動揺が広がる。
山賊頭は毒づいた。
「クソッタレ!」
だが、彼とてその道のプロだ。
すっと後ろに下がると浮足立つ山賊たちに紛れる。
こういう時の備えは十分にしてあった。
物理攻撃が効かない相手なら――
「センセー!!お願いします!!!!」
「えぇ……?しょうがないなあ。」
どこからともなく、ローブを纏い深く帽子をかぶった、いかにも魔法使いといった風貌の人影がゆらりと姿を現した。
顔は暗くさえぎられてよく確認できないが、そのやや高めの声と風貌から若い、少年か少女だろうと推測できる。
「コレ、ターゲットの女じゃないし契約外だよね?高くつくけどいいの?」
「へ、へぇ、なんでもいいんでお願いします!」
「オーケー。……じゃあさ。君、悪いけど死んでね」
空気の流れが急に動きを変える。
その小さな体躯には見合わぬほどの強力な魔力が、一気に魔法使いに集中した。
やがてそれは球体となり、赤熱する。
「原初より型成す、我は火球を象る者。ファイアーボール!!」
初級魔法であろうそれは、しかし鎧を着こんだ戦士すら焼き尽くすほどの凄まじい熱量を以てジョーとパイジィに飛来した。
パイジィはぎゅっと目をつむり、ジョーを固く抱きしめる。
「ダメ、今度こそ――」
――ジュッ。
「「「ジュッ?」」」
山賊頭、パイジィ、そして魔法使い。
これで間抜けなハーモニーはデュオからトリオにランクアップ。
火球は完全に消滅している。
「……え、何今の音……熱したフライパンに水が垂れて蒸発するみたいな」
パイジィがつぶやく。
疑問は魔法使いも同じようで、
「お前、何した?……まあいい、次こそ焼き尽くすだけだ」
明らかに真剣度が増している。
再度、詠唱が始まった。
「原初より型成す、我は火球を象る者。ファイアーボール!!」
先ほどの火球よりさらに素早く、その地獄からきたような炎はジョーの腕に当たり――
ジュッ。
――普通に消えた。
「……ありえない。このボクのファイアーボールだぞ……アルカリア魔導学院の天才といわれた……ボクのファイアーボールを……」
ブツブツとつぶやき、苛立ったように青い髪をかきむしる。
それを見て、ジョーは口を開いた。
「きれいな髪なのに、粗末に扱うのはよくないと思うぞ。」
魔法使いは、一瞬動きを止めて、ふっと笑った。
それが危険信号だとわかったのは、まくしたてるようにしゃべり始めた次の瞬間からだった。
「――あーわかった、お前、ボクのこと、馬鹿にしてるんだろ。なあいつもそうなんだよ、馬鹿ってさ、みんな自分が馬鹿ってだけなのに、理解できないのはそっちのほうなのに、ボクのことよってたかって馬鹿にしやがってよクソ、クソクソクソ!!!」
「――原初より型成す、我は彼方に呼びかける。」
「我は炎獄を渡る者。我が望むは事象の灰燼。聞き届けたまえ、聞き届けたまえ」
空気の温度が明らかに上がっていく。
涼しげな夜だったのに、既に真夏のような暑さだ。
「え、センセー!!その呪文じゃ俺たちまで巻き込まれちまう!!」
焦ったように叫ぶ山賊頭だが、過集中ともいうべきトランス状態の魔法使いにはまるできこえていない。
「やめろ!!」
「やめてくれ!!まだお裁縫で世界とってないのに死にたくねえ!!!」
山賊たちが恐慌状態に陥る。
それでも詠唱は進んでいき、既にドーム状の結界が貼られて逃げる場所もない。
「はは……ははは!!!!どうだ、成功したぞ、これこそが最上級魔法――エクスプロードだ!!!……」
先ほどのファイアーボールとは明らかに格の違う、まさに地獄の業火が凝縮したかのような大火球が上空に出現する。
魔法使いは肩で息をしながら喜びに声を震わせたが、すぐに苦しそうな声に変わった。
「っあ……あれ……くそ、制御……できな……っ!」
大火球はどんどんと膨張し、周囲の魔力を吸い上げている。
バチバチと今にもはじけそうな音で、ゆっくりと降下してきた。
はた目にも、制御不能な状態であることは明らかだった。
山賊頭が呆然とつぶやく。
「強すぎる魔力で暴走してやがる……これじゃ俺たちどころか術者もろとも……心中ってわけか……悪党の死に方にしちゃ、派手なもんだな」
「ちくしょ、ここまでか……ボクは……無能って言われたまま……死ぬのかよ……」
「ごめん、お母さん、お父さん。私、やっぱり死ぬみたい……」
そうして、ここにいる全員が死を覚悟した。
顕現したのは最上級火魔法のエクスプロード。大魔法使いと呼ばれる人間ですら、容易には放てぬ魔法。
火山の噴火に例えられるその恐るべき魔法を前に、みな諦めて降下する死を待つしかなかった。
もちろん、ジョー以外の、みんなだが。
「パイジィさん、こちらでお待ちを」
すっとパイジィをおろすと、止める間もなくジョーは降下中心地で手をかざす。
「筋肉は、身体の中で最も熱を生産する。」
「熱を生産するということは、最も体温が高くなるということだ」
「つまり――」
「フンッ」
ジュッ。
情けない音をたてて、エクスプロードは消えた。
「――炎より高い体温の俺には、炎耐性がある。」
そんなわけあるか。




