【13:冒険者登録と書いてボディビルと読む】
「よし、ここまでくれば……」
ジョーは周りを見回す。
人通りの多い街だし、門からは十分離れた。
ムーン、パイジィもいるし、巻き込まれた冒険者もついてきている。
後は人ごみに紛れていったん落ち着けそうだ。
「ったく、ヒヤヒヤしたぜ」
「ほんと、無茶しますよね」
仲間は二人ともほっとした顔。
冒険者は何か考えこんでいるようで、黙ったままだ。
「ごめん、どうしても見過ごせなくて。」
ジョーはしゅんとしてうつむいてしまう。
ムーンとパイジィは顔を見合わせて、くすりと笑う。
「いいよ。そういうところが気に入ってるんだ」
「私も同感です。とはいえ……次からは相談してくださいね、ジョーさん」
「はい……」
そのやり取りを見ていた冒険者が、楽しげに口を出す。
そこに先ほどまであった初心者の顔は消えていて、まるで熟練の冒険者のような雰囲気がある。
「君たち、面白いな。……特にジョー君……実力をうまく隠している」
「……」
「まあ、そう警戒しないでくれよ。何も取って食おうってわけじゃない。……筋繊維多めの肉は苦手でね」
「……ジョー兄ぃ、こいつ……」
ムーンが一気に警戒レベルをあげる。
趣味の悪い冗談だが、それは同時にジョーの正体をある程度つかんでいないと出てこないものだ。
それを抑えつつ、ジョーはあくまで穏やかに答える。
「もしかして仕事の邪魔しちゃいましたかね、僕」
「いいや、君みたいなのを拾えたんだ、むしろ大成功と言えるね。」
くっくっと笑いながら、その冒険者は目を細めて先を促した。
「この先に落ち着いて話せる場所がある。ついておいでよ」
愉快そうな目の奥に、悪意はなさそうに見える。
だが、信じてもいいものか。
三人で顔を見合わせ、小声で話す。
「……どうします?ジョーさん」
「……行こう。少なくとも、何かしらの対処はすべきだ」
「……俺も同感だぜ、ジョー兄ぃ。こういうやつは放っておいてもいいことねえ」
そうして、三人が冒険者についていくと、やがて兵士の宿舎かと思うような立派な建物が現れた。
大きな扉には、通貨であるコインの上に、剣と盾と杖が交差する独特のマークが描かれている。
「ついたよ。……ようこそ、この交易都市ウォルカバンの冒険者ギルドへ。」
冒険者はニッコリと笑って扉を開いた。
先導されるがまま中に入ると、まず目につくのはカウンターだ。
受付係が何人もいて、それぞれ依頼の説明や金銭の授受を行っている。
会話が漏れ聞こえてきた。
「ええ、ですから先にお話いたしました通り、こちらはペアで初めて報酬が支払われます。お持ちいただいたのは片方がよくできた模造品でして……」
「そ、そんな……」
「申し訳ございません、片方のみの買取ですとこのくらいが相場ですね」
「……それでいいです……」
右手を見ると壁一面が掲示板。
そこで簡単に依頼の内容を把握できるようだ。
◆排水溝の清掃
難易度:E級相当
報酬:200コイン
監視員同伴にて詰まりを取り除くこと。
備考:スライムが多数出現。
◆王都へのキャラバン護送
難易度:C級相当
報酬:1000コイン
キャラバンを護送し、貨物強奪・破損の阻止
備考:食料品が多く存在するため、破損具合に応じて報酬減
ほかにどのような依頼があるのか確認しようとすると、別の場所から笑い声があがった。
振り向くと、そちらは酒場を兼ねたスペースになっている。おそらくパーティなのだろう冒険者たちが話に花を咲かせていた。
「だからさあ!俺言ってやったの!貴族貴族って言うんだったらスライムくらい掃除しろよって!そしたら護衛兵にボコボコよ……」
「お前が悪いよ、そりゃあ」
情報量に圧倒されていると、何かに気づいたようで向こうの方からメガネをかけた事務員らしき女性が駆けてきた。耳がとがっているところを見ると、人族ではないらしい。
「ギルドマスター!!!いったいこの忙しい時にどちらへ行かれてたんですか!」
「あは、ごめんごめん。そう怒らないでよリーティア。ちょっと拾い物をね」
「拾い物?……またなにか面倒ごとを――」
「うん。ほら、この子たちなんだけどさ、とりあえず冒険者登録させとこうと思って。」
「はあ……ということは、推薦枠を?」
「うん。」
どんどん二人で話が進んでしまい、三人は目を白黒させた。
ムーンが待ったをかける。
「おい、ちょっと待てよ。こりゃ何の話だ?わかるように説明してくれ」
それを聞いて、リーティアと呼ばれた女性は眉間にしわを寄せてため息をついた。
「またですか……説明もなしに連行してきて……。ええと、ウチのギルマスがすみません。立ち話もなんですから、奥でお話いたしましょう。さ、こちらへ……」
そうして移動した先の部屋では……
筋肉モリモリマッチョマンの変態たちが待ち構えていた!!!
しかも半裸で。
「なるほど」
ビリリリリリ!!!
即座に変装を解き、マッスルフォームを解放するジョー。
「ちょ」
「ああああ変装用の服が」
ムーンの絶句、パイジィの悲鳴、それらをすべて背に置き去りにし筋肉の旋風が巻き起こる。
とうにリーティアはいない。おそらくこの惨状を予期していたのだ。
そうして、先に部屋にいたマッチョたちに動揺が走る。
ジョーの身体は筋量だけでなくバランスも見事。
ボディビルの原点、フィジークでありながらなおその上を行く超越性を持っていたのだ!
「フンッ!!!」
マッスルポーズを発動するジョー。
「ぐああああっ!!!」
一人、また一人とその圧倒的な暴力筋肉に膝をつき、あるいは吹き飛ばされ、屈していく。
最後の一人が、ジョーとの握手で腰砕けになり、笑顔のまま力尽きた。
「これなに?」
「知るか」
女性陣はうなだれている。
「やるね」
いつのまに入りこんでいたのか、ギルドマスターが姿を現す。
彼がマントをバッとはぎとると、そこには筋骨隆々の身体が備わっていた。
「……!……テクニカルマッスル……!」
「ふっ……君にもわかるようだね」
「ねえこれ何?」
「聞くんじゃねえ」
女性陣は目をそらしている。
だが、ジョーは筋肉で理解していた。
目の前のギルドマスターは、もともと筋繊維の才能に恵まれていない。
にもかかわらず、すべてを最適化して、ここまで上がってきた。
それが、筋繊維一本一本から読み取れる。
「ああ、そうだ。ボクには才能がない。だけど、それでも、極限を超え、己を知り、日常生活の動作をすべて最適化したことでここにたどり着いた。――だからこそ……どの筋肉が強く、無駄がないか、手に取るようにわかるよ!!!」
「強い……!!!」
「帰っていいか?」
「ダメだよこれなんかドア外から鍵かかってるもん」
初めて押されるジョー。
こんな圧は初めてだった。
目の前の人間は遥かに自分より筋量が劣る、だが、そこに刻まれた執念が筋肉を大きく見せている――
――だが。
ジョーは既に、進化の種を手にしていた。
それは、ダークマターであり、あの時飲んだパイジィのスープであった。
圧倒的な、食への感謝。他者への感謝。
その感謝こそが――ジョーの肉体を新たな次元に引き上げる――!!
ビガガガガガ!!爆光!!!
「うおっまぶし」
「なんか不本意な料理の使われ方された気がするんですよね」
「なに――それは――筋肉菩薩!!!食へ、この世界へ感謝を続けた者だけがたどり着ける、筋肉の悟りへの第一歩……!」
「まだ、先は遠く。道の果てが望めぬとも……歩むこの世界こそが、俺の筋肉だ――!!」
「まさかっ……この、ボクが……やはり……君を推薦したのは……正しかったようだね……!!……ぐあああああっ!!!!!」
ギルドマスターは激しく吹き飛び、床に倒れ伏した。
肩で息をしているジョー。それでも、立ち続けたのはジョーであった。
決着。
その瞬間、推薦冒険者登録は完了した。
ドアが開き、リーティアが入ってくる。
「終わりましたね。では、お三方、この冒険者証をどうぞ。」
「……確かに受け取った。ギルドマスター、アンタ、本当に強かったぞ」
「よし、貰うもんもらったしさっさと行くか。」
「ありがとうございます。色々と言いたいことはあるんですけど、とりあえず二度とこの部屋来たくないです」
ムーンとパイジィはさっさと出ていく。
ジョーは部屋を出る前、少し後ろを振り返り、名残惜しそうな顔をしながら美少年フォームに戻った。
そうして、思わぬ試練を乗り越えた三人は一日の疲れを癒すため、宿屋へ向かったのであった……




