【12:入場と書いてウデズモウと読む】
「ふう……ふう……この丘、傾斜がきついですね……」
汗を拭うパイジィ。
他二人が体力お化けというのもあるが、彼女がひときわきついのはそれだけではない。
「……少し、荷物を持とうか?」
「甘やかすなよジョー兄ぃ。欲張りすぎなんだよパイジィは。いくら気絶してたからって起きたらほぼ全裸なんてアイツらがちょっとかわいそうだぜ」
「うるさいですよムーンさん。暗殺者として襲ってきたってことは、宝箱になる覚悟をきめたってことです」
「おーよく言った!盗賊料理人パイジィ」
「だまれ」
「いやーん!ジョー兄ぃ、パイジィが怖いよ~~」
「ムーン、僕は今、兄には見えないと思うよ」
「そうだよね!変装したジョーくんはかわいいもんね~~!」
「うあ、や、やめてよムーンさん……」
「……やべ、鼻血出てきた……ハァ……ハァ……」
「気絶したらおいていきますからね。変態ショタコン女」
勝手に興奮してボルテージをあげるムーンに、冷たく言い放つパイジィ。
アホなやりとりで余計に体力を使いそうだ。
ジョーの変装は完璧で、あれから暗殺者に襲われることはなかった。
おかげで旅は順調に進み……
「ふう……見えましたね。あれが交易城壁都市、ウォルカバンの入場門です」
「あれが……僕がこの世界にきてから初めて見る街か」
丘から見下ろした先に、立派な城壁を持つ街が見えた。
街は円形になっており、川を利用した堀が周りをぐるりと囲んでいる。
門は橋の上にあるようだ。
「うっへえ~~やっぱかなり並んでるなぁ」
ムーンがうんざりした声を上げる。
道中聞いていた通りウォルカバンは交易で栄える都市のようで、入場門は商人の馬車や冒険者たちで長蛇の列だ。
「あそこが入り口なのは大丈夫ですよね。街の中央の方見えますか?あの白っぽい建物が多いところです。あれが貴族街ですね。」
パイジィが街を興味深そうに見ているジョーへ指差しで説明する。
ジョーはうんうんと頷いた。
「貧民街はあそこだぜ。あの一段低くなってる区画があるだろ。……こっから見ると、あんな感じなんだな……」
ムーンは少し懐かしそうだ。
「結構大きな街なんだね。……それで……」
ジョーはパイジィとムーンを見比べながら当然の疑問を口にする。
「どうやって入るの?」
「「え?」」
ぽかんと口をあける二人。
予想していなかった反応に戸惑うジョー。
「え……?だって、入場門があるんでしょ、僕らすぐ捕まっちゃわない?パイジィのことだってもう門番に伝わってそうだし……」
「あー、あはは」
ムーンが得心したように笑う。
「そこは大丈夫だぜ。ウォルカバンはほら、あの通り貴族街が隔離されてるだろ。門番の役目はほぼ魔物除け。人のチェックはほぼしてねえよ。揉めても袖の下渡しゃ済むしな」
「そうですね。交易都市ということもあってか、人通りが激しいんです。でなきゃ私、逃げられてないですよ。」
「そっか……二人とも、ありがとう!」
ジョーは深く頷き、笑顔でお礼を言った。
二人ともそれを見て硬直し、なぜか顔を背け、何かに耐えるように震えだしてしまったが……
その理由をジョーが知ることはなかった。それでいいと思う。
その後、丘を降りて列に紛れ、問題なく入場……できるはずだったのだが……
……門が近づいてくるにつれ、どうも一筋縄ではいかない様子が見えてくるようになった。
ムーンが険しい顔をしている。
パイジィに顎で前の様子を見るように促す。
「やべえな……どうやらパイジィ、お前の敵は結構でかいみたいだぜ」
前の冒険者らしき人物が揉めている。
揉めている相手は筋骨隆々の、門番というより戦士といった風貌のごつい男だ。
「止まれ。身分証を出せ」
「そんな、今までは身分証なんていらなかったじゃないか」
「うるさい。ルールが変わったんだよ」
「身分証なんてないよ!」
「もう一回いうぞ、身分証がねえなら、『それなりの』証明が必要だ」
ニヤニヤと笑う門番。
ルールが変わったのは間違いなさそうだが、主眼はそこではない。
単に賄賂を巻き上げる理由にしているだけのようだった。
「そ、そんな……今は持ち合わせが……」
「じゃあ消えろ。次!」
「ま、待ってくれ、俺は――」
「うるせえ!!いっぺん死んどけ!!!」
なおもすがろうとする冒険者を、その門番は強く突き飛ばす。
たまらず尻もちをついたところに、勢いよく凶器そのもののキックが振り下ろされる。
こんなものを無防備に受けたらひとたまりもない。
「ひぃっ……!」
必死に防御する冒険者だが、間に合うはずもなく――
「ちょっといいですか?」
――間にすっと、その少年は入り込んでいた。
振り下ろされたキックは空を切る。
誰も、何が起きたか理解していない。
……軌道を一瞬でずらしたジョー以外は。
「ちょっ……!」
ムーンが小声で焦った声を出す。
今は目立つべきじゃない、それはジョーもわかっていたはずだ。
とはいえ、もう今は成り行きを見守るしかない。
「なんだぁ?ガキ」
「ぼく、その人のパーティなんですよ」
「……あ?……」
門番がギロリとジョーと冒険者を交互に見る。
戸惑う冒険者をちらりと見て、ウィンクをするジョー。
冒険者は事態を理解したのか、コクコクと頷いた。
「……それで?お前は身分証あんのか??」
「門番さん。門番さんはすごく強いですよね。その筋肉、とてもぼくら冒険者じゃかないそうにない」
「ほお?悪いが俺はその手の趣味はねえぞ」
節穴が、という毒づきがよく知っている二人の声で聞こえた気がしたが、ジョーは無視して続ける。
「ええ、ですから――これ、なんですけど」
ばらばらとコインを出す。
「足りねえなあ」
せせら笑う門番に、ジョーは笑って続けた。
「僕と腕相撲しませんか?僕が勝ったら僕らを通してください。もし、門番さんが勝ったらこの3倍お渡ししますよ」
「……はーーーーはっはっは!!!なんだそりゃ?自殺志願か??」
ジョーは微笑を浮かべて門番の話を待っている。
乗ると、わかっているのだ。
「いいぜ、こっちにこい」
ボロボロの木のテーブルを抱えて持ってくる門番は、どっかりと椅子に腰を下ろした。
ジョーも座るが、背の高さが違いすぎる。
まさに大人と子供だった。
その異様な様子に、いつの間にか周りにはギャラリーが集まり始める。
好奇の目、同情の目、哀れみ……そんな視線が投げかけられる中、しっかりと手を組みあう二人。
「言っとくが、やっぱりなしは認めねえぞ?しっかり払ってもらうからな」
「ええ、もちろんですよ。」
「それじゃ――おい、てめえ。同じパーティなんだろ?ハンデだ、お前が号令かけろ」
「は、はい、わかりました」
よろよろと冒険者が組み合った二人の手をおさえ、そして……
「勝負……開始!!!」
ギャラリーが期待していた展開、予想していた展開が始まる。
そして、その中でたった二人だけはちがう意味で苦笑しながら見守っている。
どちらが正しいのか、それはほんの数秒の出来事だった。
「死ね!!!!」
門番は手加減などかけらもない、すさまじい剛力でジョーの腕をへし折りにかかる。
腕をへし折った後は、好きなだけなぶり、暴力で屈服させ、二度と生意気な口をたたけなくし、、、し、、、ふわり。
「は……?」
目の前のガキが遠くなる。
テーブルも遠くなり、急速に視界が回転して――
ドゴオオオン!!!
――そこで、何も理解できないまま、門番の意識は途切れた。
ギャラリーすら、何が起きたのかわからない。
勝負が開始されたと思ったら、あっという間に門番が自分から浮いて回転し床に落ちていったのだ。
「あー!!門番さんが強すぎて僕じゃ相手にならな過ぎたんですね……!!」
ジョーが頓狂な声を上げる。
「ごめんなさい!僕が弱かったばかりに、こんなことになってしまって……」
何度も頭を下げるジョー。
それを聞いてだんだん、ギャラリーも理解してきた。
要するに、この子供が弱すぎたのだ。だから、あまりにも支えのない状態で力を出してしまって、空回りした。
ギャラリーは遅ればせながら盛り上がり始める。
「――じゃあ、行きましょう、みんな」
パイジィとムーン、そして冒険者はその混乱に乗じて、ウォルカバンへの入場を成功させたのだった。
……ここで本当に起きたことを理解していたのは、ジョー、パイジィ、ムーン。
そして――
(――偶然だと?――弱すぎただと?断じて違う。逆だ。この少年は、強すぎたのだ。)
(まるで、鋼鉄の塔がごとく揺るがなさ過ぎた。
だからこそ、門番は自分自身の力で浮き上がり……この子がその瞬間、わずかに腕を動かした。ただそれだけに見えたのに、あのすさまじい勢いで床に落ちていった……)
(この子は、いったい――?)
――間近で見ていた冒険者だけだった。




