【11:変態と書いてヘンソウと読む】
森を出発して数日。
三人はまず貴族への問題に対処することにした。
ムーン曰く、
「暗殺組織の方は実体が俺にも掴めねぇ。はっきり相手のわかってる方を叩くべきだ」
とのこと。
そうして、貴族街と貧民街が並立する街、ウォルカバンを目指して旅を進めていたのだが――
「……さて、困ったな……」
腕組みをするジョー。目の前で暗殺者が3人ほど白目をむいて気絶している。
問題は……
「こうも連日だと、さすがに鬱陶しいよな、ジョー兄ぃ」
ムーンが短剣をしまいながらため息をつく。
もちろん、ジョーを傷つけようとして寿命を早めに終えてしまった短剣ではなく、
今回襲ってきた暗殺者が持っていた新しい短剣だ。
「じゃあ、今回も所持品はもらっちゃいましょう」
パイジィはせっせと気絶した暗殺者の身体から必要なアイテムを手際よく奪っていく。
初めこそ怖がっていたが、あまりにもワンパターンで感覚がマヒしてしまったのだ。
「鬱陶しいというか、申し訳ないんだ。むろん、かかる火の粉は払うが……何とも無駄な暴力をふるっているようで……」
ジョーは悲しそうに目を伏せる。
実際、そうなのだ。
例えばこんな感じである。
まずジョーへ毒ナイフで不意打ち。
当然ガィィンと音が鳴ってナイフ破壊。その衝撃に耐え切れず一人目気絶。
二人目が現れて、
「貴様ら……報告にあった通り……マントを羽織った筋肉モリモリマッチョマンの変態と、女連れ……覚悟しろ!」
とか言いながらジョーに切りかかり、と思ったらジョーのデコピンで吹き飛んで気絶。
三人目がコソコソ逃げようとしたところをムーンが一撃。気絶。
……流石に哀れである。
「まー、路銀を稼げますからありがたいっちゃありがたいんですけどねえ」
「……パイジィ、意外とたくましいよな」
「そうですかね?……お!この人のベルトは街に着いたら古着屋さんで売れそうですよ……!」
半ば呆れ気味のムーンだが、お宝を漁っているパイジィは目を輝かせている。
ムーンより盗賊に向いているのかもしれない。
「しかし、なぜこうも見つかるのだろうな」
ジョーは相変わらず腕組みをしながら、ムーンに聞いてみる。
だが、ムーンはなぜか目をそらしてしまった。
「その……俺はジョー兄ぃの恰好はセクシーだと思うし、なるべくなら見ていたいけどよ……でもな……」
流石に半裸にマントと破れ気味のズボンだけというのはどうなんだ。
と、言いかけて、口をつぐむ。
これでもムーンは乙女であった。
「そりゃあジョーさんの恰好がマントを羽織った筋肉モリモリマッチョマンの変態だからじゃないですかね」
パイジィがお宝漁りを続けながら淡々と宣告した。
ジョーは雷に打たれたように制止してしまう。
全く想像の埒外だったのだ。
「え……まさか……俺のせいだったのか……?」
「そうですけど」
相変わらず何でもないように告げるパイジィ。
ジョーが助け船を求めてムーンを見ると、キャッ☆とか言いながら両手で顔を隠してしまった。指の間からめっちゃ見てる。あと、息が荒くなってきてる。
「……そうか……フンッ!!!」
突然咆哮するジョー。
ギュギュギュ……という雑巾が極限までしぼられたときに出す、およそ人体から奏でられるには不自然すぎる音。
え?とパイジィが振り向く間もなく――
「うん。これでどうかな?」
――そこには、筋肉とは縁遠い美少年が立っていた。
パイジィは……絶句していた。
肩まで伸びたサラサラの銀髪。
形の良い鼻、すらっとした鼻筋と、優しげな目元。
困ったように眉を寄せたその表情は、少年性と少女性をあわせもつ究極の――美。
「――ヒュッ」
ムーンは変な音を出して早々に気絶した。
刺激が強すぎたようだ。
無理もない。
パイジィですら、高鳴る胸の鼓動を抑えられない。
「どうかな……?」
話し方どころか声まで変わっている。
柔らかく、それでいて少し鼻にかかったような甘い声。
「……いい……」
それしか言えない。
普段のマッスルフォームを知っているから耐えられているが、正直クラクラするほどの美少年だ。
「よかった!じゃあ、しばらくはこれでいこう。」
「それはダメ!!!」
必死で止める。
こんな顔で街を歩いたら騒ぎになってしまう。
「とりあえず……これつけておいて」
鞄を漁り、顔の下半分を隠せるマスクと、マッスルフォームでは入らなかった服を渡す。
ここ最近の宝物漁りで手に入れたものだ。
「ありがと、パイジィさん」
ふわっと笑うジョー。
かわいい。
「……ひぇ~……」
気絶しながら小さな悲鳴をあげるムーンを起こし、先を急ぐ3人なのだった。




