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第8話 運命の相手は隣国にいるそうです

 ニヤリと笑った第一王子殿下の眼差しには、本気でフレデリックを欲しいという熱がこもっていた。彼の中では、立太子することもフレデリックを側近にすることも、すでに決定事項になっているようだ。

 温厚で聡明と聞いていたが、少し思い描いていた人物像とは違うらしい。いい意味で裏切られた気分だ。心の中で、腹黒王子と命名した。

「はい、ありがとうございます」

 フレデリックは嬉しそうに頷いている。つまり私が運命の相手を見つけ出して第二王子殿下の婚約者を回避し、第一王子殿下が無事に立太子されれば、フレデリックも側近になる道が開けるということだ。これは可愛い弟のためにも、水晶を手に入れてお婆様に占ってもらい、この呪いのような加護を意地でも返さないと。私は気合を入れて、心の中で叫んだ。よし、やってやろうじゃない。


 2日後には、第一王子殿下から秘密裏に高級占い用水晶が我が家に届けられた。

「占い水晶くらい、このじぃにも買えたものを……」

 お爺様が恨めしそうに高級水晶を眺めているが、送られてきたのは水晶の中でも希少な緑水晶だった。きっと我が屋敷何個分かの価値になるだろう。この緑水晶を選んだ第一王子殿下の意気込みが、ひしひしと伝わって来る。いや、絶対に運命の相手を見つけろという強迫か……?

「ほほほ。このような素晴らしい水晶を頂いては、わたくしも気合を入れなければいけませんわね。占いの魔女の腕がなりますね」

 お婆様が嬉しそうに緑水晶を撫でるのを見て、お爺様が悔しそうにぐぬぬと唸った。父様は困った様に微笑んでいる。中立派の我が家に個人的にとはいえ、第一王子殿下から高価な贈り物が贈られてきたのだ。勢いで受け取ってしまったが、このことが知られれば、第一王子殿下派閥だと誤解される可能性もある。

「まあ、なんとかなるわよね?」

「一応、言い訳も王子殿下と打ち合わせしているし、大丈夫だとは思うけど。かなり強引な言い訳だとは思うけどね……」

 学園で危険な目にあった第一王子殿下を、偶然通りかかった私たちが助けたお礼……。誰も信じないだろう。そもそも魔法学園で危険な目にあうって、いったいどんな状況なんだと、考えた私でも自分自身に突っ込んでしまうほどだ。他の人が思わないわけがない。要は言い切ってしまえば、何とかなるだろうということだ。

「さあ、それでは早速占ってみましょうか。占いの魔女の名にかけて、エヴェの運命の相手を探しますよ!」

 「占いの魔女」の代表の一人であるお婆様が、張り切って緑水晶に手をかざした。エリシーノ国では精霊信仰が根付いるが、それと同じように占いが根付いている。子供が産まれた時や、成人、結婚する時など、行事ごとに占いをすることが多い。勿論、占いはあくまで占い、当たる時もあれば外れる時もある。

 それでも占いが信じられているのは、その占い師の中に「占いの魔女」と言われる未来を視ることのできる者が存在しているからだ。

 現在の王妃様がその「占いの魔女」と言われる者の一人だ。元々お婆様の弟子であった子爵令嬢が王妃として認められているのも、その要因が強い。ただ子爵令嬢では後ろ盾としては弱いと考えた国王陛下が、側近に薦められるままに侯爵家から側妃を迎えてしまったため、現在このようなややこしい状況になってしまっているのだ。

 せめて産まれてきた王子殿下の歳の差がもう少しあいていれば、ここまで話が拗れることはなかったのにと、酔ったお爺様がボヤいていた。そこは私も激しく同意だ。半年差だなんて計画性がないにもほどがある、本当になんてことをしてくれたんだ。

 私が心の中で国王陛下に文句を言っている間に、緑水晶が輝きを増していき、やがて静かに元の色に戻った。お婆様が満足そうに微笑んでいるので、占いは良い結果が視えたようだ。お婆様は暫く黙って、何かを考えるように水晶を見つめたまま動かなかった。

「お婆様?」

「……視えましたよ。流石、最高級緑水晶。かなり確率の高い未来が視えました。まあ、それが実現するかは、これからのエヴェ次第ですけどね」

 視えた未来は変えることが出来る。言い換えれば、現在いい未来が視えていても悪い未来に変わってしまうこともある。だからたとえ「占いの魔女」の占いでも、絶対ではないのだ。

 そして占いで視えた全てを「占いの魔女」が話すことはない。昔どうしてなのかお婆様に聞いたことがあったが、「全て話すと、人はその通りにしようとするでしょう。そうすると、運命すら曲げてしまうことがある。それはとても危険なことだから、占いの魔女は視た全てを話すことはない」と言っていた。

「それで、お婆様。私の運命の相手は?」

「そうね、言えることはただ一つ、隣国のタランターレ国にいるみたいね。ただ、相手の顔は視えなかったから、探すことはしないとね。制服が視えたから、魔法学園の生徒なのかもしれないわ」

「……そう、隣国の魔法学園、なのね……」

 隣国からの留学生で、緑の精霊の加護持ちのエヴェリーナ。それは、乙女ゲーム「聖なる乙女の祈り」に出てくる悪役令嬢そのものだ。出来れば乙女ゲームの舞台に進んで自ら身を投じたくないが、運命の相手が隣国にいるというお婆様の占いは信じたい。

「吉が出るか蛇が出るか。こればっかりは、行ってみないと分からない、か……」

「エヴェ、何言っているの?」

 聞き慣れない言葉に、フレデリックが不思議そうに首を傾げた。私は、覚悟を決めてお爺様たちを見た。

「私、隣国に3年生から留学します。そして卒業するまで戻らない。もし運命の相手が見つからなくても、第二王子殿下も私が3年間戻って来なければ諦めてくれるでしょ?」

「ええっ留学するの⁈それ、許可下りるかな?」

 緑の精霊の加護持ちが、他国へ行くことはほとんどない。精霊の恩恵で豊かな実りをもたらされているエリシーノ国では、精霊の加護持ちは大切に保護されている。呪いの娘扱いされている私も、表立っては大切にされているのだ。

「それは勝ち取るわよ!」

「許可は勝ち取るものではないと思うけど……。分かったよ、もし許可が下りたら僕も一緒に留学するよ」

「ええっ急に留学なんて、それも二人でなんて、父様は寂しいよ。って、父様の意見は聞いてくれないんだね」

 少し拗ねた父様をお爺様が呆れたように見たが、息子に甘いお婆様は慰めるように肩を叩いている。

「エヴェは本気なのだな。では、わしが口添えしてやろう。確かに3年あれば、あの腰の重い陛下も王太子を指名しているじゃろ。運命の相手を見つけるための留学というのは、ちょうど良い言い訳じゃ」

 お爺様と私の勢いに負けたのか、腹黒第一王子殿下の差し金なのかは不明だが、エリシーノ国から3年の期限付きで、私とフレデリックの留学が認められた。


 隣国タランターレ国から、魔法学園の入学許可証と共に魔法学園の制服が届いたのは、私たちが留学の準備を始めてすぐのことだった。

「へぇ、タランターレ国の魔法学園は、白色の制服なんだ。結構、いい感じだね」

 箱の中に入っていた男子用の制服を取り出して、フレデリックが上着を着て振り向いた。

「まさにこれは、聖なる乙女の祈りの制服……」

 その制服は、前世やり込んでいた乙女ゲーム「聖なる乙女の祈り」のスチルに何度も出てくる攻略対象が着ている制服そのものだった。出国を前に、早くも自分の決断を後悔し始めたのはフレデリックには内緒だ。


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