第7話 婚約回避しましょう
投稿、遅れました。すみません。
よろしくお願いいたします。
「やっぱりあれが原因よね?」
「そうだろうね。先月、第一王子殿下が、風の精霊の加護持ちの侯爵令嬢と婚約したから。第二王子殿下が、その事を悔しがって、自分も加護持ちと婚約すると言い出したんだよね。王家の揉め事に、僕たちを巻き込まないで欲しいよ……」
現在、エリシーノ国には、ややこしいことに王妃様と側妃様がいる。王妃様が産んだ第一王子殿下、側妃様が産んだ第二王子殿下との歳の差はわずか半年だ。王妃様は子爵家の出、側妃様は侯爵家の出だ。地位で言えば、側妃様の生家の方が上位になる。そのため、産まれた王子のどちらを王太子にするか、現在も第一王子派閥と第二王子派閥に分かれて水面下で争っている。陛下は王子たちの資質を見極めると言って静観しているため、派閥も牽制し合っている状態だ。
「第一王子殿下が侯爵家、それも加護持ちの令嬢と婚約したことで、第一王子殿下が優勢になったと考え、自分も加護持ちがいいと言い出したのよね。本当に迷惑な話よね」
第一王子殿下も第二王子殿下も現在18歳。精霊の加護持ちはこの国に一定数いるが、年齢、性別は勿論、王子妃になるには貴族の身分も必要だ。そして、これが一番重要なことらしいが、風の精霊よりも上位の精霊の加護持ちであることが必須なのだそうだ。理由は勿論、第一王子殿下に張り合うために、だ。
風の精霊は、精霊の中でもかなり上位の精霊だ。それよりも上位で貴族令嬢、それも殿下の年齢に釣り合う年頃となれば、かなり人数が絞られる。それも第一王子派閥の令嬢は省かれることになれば、第二王子派閥、もしくは中立の貴族の中から選ぶことになる。
ちなみに我が家門は、祖父が緑の魔法使いのため、表立ってどちらも支持していないので、中立派に分類されるらしい。
「いっそ父様が、第一王子派閥に加わってくれないかしら。そうすれば、婚約者候補から除外されるんでしょう?」
「そんな簡単なことじゃないと思うよ。エヴェほど、第二王子殿下の希望する条件に合う令嬢、他を探してもいないからね」
「全然嬉しくないわね……」
温厚で聡明だと言われている第一王子殿下に比べ、第二王子殿下は勉強嫌いで我儘な性格、本来なら出世コースのはずの側近も、王子殿下の我儘に我慢できず長続きしないそうだ。私が選んでいいなら、絶対に第一王子殿下を王太子にする。我儘な王太子なんて、エリシーノ国が破綻する未来しか見えない。
「もうここは、お婆様の占いに頼るしかないか……」
「最終手段よね」
占い用の水晶は高級品だ。それも使用回数が決まっていて、最後には曇り水晶になって占いには使えなくなる。そのため、極力自力で運命の相手を探そうと努力してきたのだが、結果は惨憺たるものだった。誠に遺憾である。
「我が家、いや、この国の将来もかかっているんだ。きっとお婆様も占ってくれるさ」
「そうね。占い用の水晶、是非購入してもらわないと……」
前に我が家で保管していた水晶は、私たちが森で迷子になった時に使用され、一気に曇ってしまったようで、現在我が家には占い用の水晶がないのだ。購入するとなると、我が家の家計がひっ迫する恐れがあるので、占いは本当に最後の手段なのだ。
「お爺様が魔道具研究にお金をつぎ込むから、我が家の家計が苦しいんだよね……」
「でも、いい魔道具が出来れば、一気にお金が入って来るんだから、悪いこととも言えないのよ。研究費をもう少し国で負担してくれたら、ここまで貧乏にはならないのにね……」
「最近は、いい成果が無いって言っていたもんね。占い用の水晶が買えなかったら、エヴェは第二王子殿下の婚約者になってしまうかも、だね」
フレデリックが困った様に溜息をついたところで、私たちの相談は突然の来訪者の声によって中断された。
「それは困るね」
「え⁈」
「エヴェ、声が出てるっ」
私は慌てて口に手を当てたが、そもそも私たちの会話を聞いていたのなら、既に魅了にかかっているはずだ。ここは学園の奥まった場所で、普段は誰もやって来ないため油断していた。
「ああ、大丈夫だ。この魔道具で、少しの間魅了を疎外できる。でも、そろそろ限界みたいだ。エヴェリーナ嬢はこれ以上話さないで」
男性が着けていたブローチが、黒く濁っている。きっと身を守るための魔道具だったのだろう。ブローチの中心に鎮座する魔石の大きさを見て、その価値を想像した私は少し気が遠くなってしまった。
私は了承を込めて頷き、無言でカーテシーをした。
「第一王子殿下にご挨拶いたします」
フレデリックが慌てて、目の前に立つ男性に礼をした。突然の来訪者はこの国の第一王子殿下だったのだ。それにしてもレオハルト殿下が、どうして魔法学園にいるのだろう?
「ああ、たまたまここに来る公務があってね。偶然、ここを通りかかったんだよ」
私とフレデリックはお互いの顔を見た。ここは学園の最奥の普段誰も来ない場所だ。そこに第一王子殿下が偶然通りかかることなんて、そんなこと絶対にあり得ない。
「そうでしたか。それで……」
たとえ嘘だと分かっていても、私たちが王子殿下に嘘だとは言える訳もなく、フレデリックがスンッとした表情で王子殿下に要件を促した。
「うん、偶然君たちの会話が聞こえてしまってね。困っている君たちに、僕の私財で是非水晶を贈りたいなと思っているんだけど、どうかな?」
「それは、大変ありがたいお話ですが……」
フレデリックが、あまりにも私たちに都合のいい話に、警戒心の籠った目で第一王子殿下を見た。
「勿論、これは親切心とかではないさ。王家のごたごたに巻き込んだ罪滅ぼし、いや、私自身の保身かな?」
私が間違って第二王子殿下の婚約者にでもなれば、第一王子殿下の立太子の大きな壁になることは間違いないだろう。何と言っても私は、緑の魔法使いの孫で、緑の精霊の加護持ちの伯爵令嬢なのだ。
「はっきり言って、エヴェリーナ嬢が弟と婚約すると、中立派のほとんどが第二王子派につくことになる。そうなると、今の私でも苦戦するんだ。エヴェリーナ嬢には、是非運命の相手と幸せになってもらいたい。流石に緑の精霊に逆らうような真似は、愚かな弟もしないはずだからね、多分……」
第一王子殿下には、緑の精霊に会い運命の相手を探せと言われたことは筒抜けのようだ。それにしても第二王子殿下を、はっきり愚かだと言ってしまっているが、大丈夫なんだろうか。
「多分なのですね。こちらとしましても、目的が一致している以上、是非とも水晶を援助していただけると助かります」
「君、いいね。私の側近になる気はあるかい?」
第一王子殿下が微笑んで、フレデリックの肩をポンポンと叩いた。これは弟の出世の話かと、私は期待してフレデリックを見たが、フレデリックは困った様に微笑んだ。
「それは大変ありがたい申し出ですが、現在祖父が緑の魔法使いを拝命しております。その孫の僕が、第一王子殿下の側近になれば、中立を保てなくなってしまいます。申し訳ございません」
「そうか、それは残念だ。だが、私が立太子すれば問題ないな。その時に、また同じ問いをするとしよう」




