第6話 真実の愛とはなんでしょうか
勝手に屋敷を出たことに対する説教が終わり、お爺様と父様に森であった緑の精霊の話をすると、二人は困った様に私の顔を見た。
「運命の相手と真実の愛を探す?それはまた、難儀なことじゃ……」
「エヴェはまだ12歳だよ。流石に運命の相手なんて、早いよね……」
お爺様と父様の言葉に、私は頷くしかない。今すぐ、運命の相手が現れるなんて、そんな都合のいい話、どこを探してもあるわけがないのだ。社交界にも参加できない私は、ほとんど領地でしか生活していないし、そもそも運命の相手という人が貴族令息とは限らないはずだ。
「緑の精霊も気長に探せと、言っていましたね……」
「まあ、手段が分かっただけ、ええとしようかの。それと、エリーのことじゃが」
お爺様の言葉に、私はコクリと喉を鳴らした。
「記憶は消したが、衝撃が強すぎたのか、感情がエヴェを拒否しておるようでのう。これ以上、監視役と家庭教師を続けることは出来んそうじゃ」
本人は覚えていなくても、私に対する嫌悪感が残ったようで、今までのような関係性を築くのが難しいということだ。
「あまり気にせんでええ。あれは運が悪かっただけじゃ。家庭教師も、元々エヴェたちが魔法学園に入学するまでの予定だったのじゃ、1年予定が早まったと思えばええ」
「はい。でも、エリー姉様には、本当に申し訳ないことをしてしまいました。二度とこんなことにならないように、更に警戒します。それと、絶対に運命の相手を探します!」
この加護を少しでも早く返したい。その日から、私はずっと運命の相手を探し続けることになる……
13歳になった年、私とフレデリックはエリシーノ国の魔法学園に入学した。国が運営する魔法学園は、貴族の子息子女は勿論、平民の優秀な者にも広く門が開かれている。
「ここでなら、きっと見つかるわよね……?」
「そうだといいな……。この一年、惨憺たる結果に終わっているからね」
緑の精霊に会った翌日から、私は積極的に地域の行事に参加して、必死に運命の相手を探した。結果はフレデリックが言ったように、惨憺たる結果だ。そもそも相手に私が光って見えるなんて、そんな不確かなことだけをヒントに運命の相手を探すなんて、不可能に近かったのだ。
ある日参加した貴族の子供たちの集まりでは、年上の貴族子息に「あなたは輝くように美しいですね」と言われ、私は運命の相手なのかとドキドキしながら声を掛けた。その途端、その子息は私に縋り付いて下僕になりたいと懇願してきたのだ。周りの子供たちは驚き、泣きだす者まで出て大騒ぎだった。側にいたお爺様が額に手を当て、何とも言えない顔で首を振ったことは、今でも忘れられない思い出だ。
「まさか、光って見えるがただの誉め言葉だなんて、思わなかったのよ……紛らわしい」
同じような騒動を繰り返し、私は貴族令息の中では、綺麗だけど変わった娘、もしくは……
「呪いの娘扱いは、本当に勘弁して欲しいわ。このままじゃ、加護は呪い確定よ」
「もう、そんなこと言ったら、また緑の精霊様、来ちゃうよ……」
緑の精霊は気まぐれなのか、あの後から、何の予告もなくふらりと現れるようになった。何をするでもなく、暫くするといつの間にかいなくなっている。
「あれは何のために来ているのかしらね……、折角来るなら、運命の相手教えてくれたらいいのに」
「ほら、入学式始まっちゃうよ。エヴェは、ペンダントちゃんと確認した?」
「ええ、大丈夫よ。フィー、新入生代表挨拶、頑張ってね!」
「次席、なんだけどね。エヴェは喋れないから、僕が代わりにちゃんと挨拶してくるよ」
新入生代表の挨拶は、入学試験首席の者が行う。前世の記憶があるチートのお陰なのか、勉強が良くできる私は首席だった。小さい頃から優秀だと思っていたフレデリックは、やはり優秀だったようで、入学試験で次席だった。前世のチート無しで次席なら、本当に優秀なのはフレデリックだと思う。
「フィーは凄いのよ。そんなこと言わずに、代表、胸を張って挨拶してきてね」
二人で馬車から降りて、私はペンダントを服の中にしっかりしまい込んだ。何と言っても、屋敷一軒が買えるほどの高価な魔石だ。盗難には警戒しなければ……。一度、ペンダントをスリに奪われかけて、思わず叫んだ私に、スリだけでなく、周りにいた皆が跪いてしまった。お爺様が来るまでの間、私はずっと女王様扱いだ。あんな光景は、二度と御免だ。
馬車から降りた私たちを見て、周りにいた生徒たちが、双子だとか緑の精霊加護持ちなど、好奇と侮蔑の入り混じった目でこちらを見ている。この反応もすでに慣れた。双子が不吉だと表立って言う者は流石にいないが、それでも聞こえよがしに話す者は残念ながら現在も多い。
「あんな声、気にしなくていいよ。じゃあ、僕は先に会場に行くね!」
代表は先に会場で説明を受けるそうで、ここからは別行動だ。私はにっこり笑って、フレデリックに手を振った。双子が不吉だというなら、首席次席を私たちに奪われたあなたたちは?と聞いてやりたい気持ちもあるが、そもそも話しかけた時点で相手は正気を失ってしまうので、私のモヤモヤした気持ちはずっと心に溜まり続けたままだ。
フレデリックは新入生代表の挨拶という大役を見事に務め、まだ幼さの残る笑顔を見せて壇上を下りてきた。隣に座っていた、いや、会場の女子の視線が一気に熱を持った気がした。
まだ子供っぽさは残るが、フレデリックは身内の欲目で見なくても綺麗な顔立ちをしている。我が弟ながら、将来は女性が憧れるような素敵な男性になるだろう。つまり、双子の私も例に漏れず、綺麗な顔立ちをしている。はっきり言って、艶やかな銀髪に薄灰色の綺麗な瞳を持った美少女だ。婚約の話だって、数えきれないほどきている。勿論、この加護のせいで、現状全てお断りしている。
運命の相手が現れなければ、血縁者以外と話すことも出来ない。これでは成人しても満足な社交活動も出来ないし、結婚も出来ないだろう。前世では結婚する前に人生を終えたようなので、今世では結婚というものに少なからず憧れもあった。このままでは、それも叶わないだろう。
(兎に角、ここに運命の相手がいれば、この問題も一気に解決よ)
私は内心期待して、魔法学園生活に突入した。そして数々の問題を起こしながら、あっという間に成果を得ることなく2年が過ぎてしまった。期待が大きかった分、落胆も相当である。
「どこに運命の相手が落ちているのかしら……」
フレデリックと一緒に、学園の奥まったスペースで今では恒例になっている反省会をしていた。
「いや、落ちてはいないかな……」
いつも通り冷静につっこんでくれるフレデリックを、ジトっと睨んで私は深い溜息をついた。
「このまま見つからないと、非常に拙いわ。どうしたらいいかしら?」
目の前に広げてられている手紙には、何度見ても王家の紋章がしっかりと刻印されていた。
「そうだね……、まさかエヴェを第二王子殿下が婚約者に指名しようとしているなんて、流石に父様もお爺様も反対しづらいだろうね」
2年間、積極的に運命の相手を求めて、数々の問題を起こした私は、学園ではすっかり「呪いの娘」扱いになってしまった。その噂に尾ひれがつき、残念ながら魔法学園では、私に近づこうとする者はほとんどいなくなってしまった。そんな私に何故かこの国の第二王子殿下が、突然求婚してきたのだ。




