第5話 真実の愛?運命の相手??
「今日あったことが、この先も続くかもしれないじゃない?私、この加護、どう考えても素晴らしいものだって思えなくて。そう考えてたら、今すぐ何とかしなくちゃって思ったのよ」
月明りでは心もとないので、私は持って来たランプに火を灯した。屋敷近くにある森の入り口に着いた。
「この森、捨てられた森じゃないよね?ここで緑の精霊に会えるの?」
「たぶん、緑の精霊の棲み処はどこでもないのよ。緑さえあれば、多分いいはず……」
「どうしてそう思うのさ」
「何となく、よ」
まさか乙女ゲームの公式ブックにそう書いてあったからなんて言えないので、私は誤魔化すように森の奥へと入っていった。兎に角会って、この加護をどうにかしないといけない。その気持ちだけで、私は森を進んで行った。フレデリックも渋々私の後ろをついてきた。
「ねえ、霧が出てきたよ……。前もこんなことあったよね……まさか、これ」
フレデリックが不安そうに私を見たので、私は頷いた。
『久しいのう。元気じゃったか?』
声がすると同時に、フレデリックは糸が切れたようにバタリとその場に倒れた。私の目の前には、人外…もとい緑の精霊がいつの間にか立っていた。
「元気ですが、困っています。加護を取り消す方法があるなら、教えて欲しいのですが……」
『ほう、我の加護が要らぬと申すか?人の子よ、そなたに我はどう見える?』
「じん、じゃなくて、緑の精霊です。綺麗な女性に見えます」
『女性か、なるほど、では、加護を消すには真実の愛を得ることじゃ。運命の相手を見つけ、その者と真実の愛を得れば、加護は消えるぞ』
「真実の愛?運命の相手⁈あの、ちなみに、もし男性に見えた場合は?」
緑の精霊は楽しそうに私を見た。嫌な予感に、私はやはり結構ですと言おうとしたが、その前に緑の精霊が微笑んだ。
『男性に見えた場合、そなたは我の花嫁になっていただろうな。残念なことじゃ。そうであれば、アルラ以来久しぶりの花嫁であったのにのう』
「アルラって、魔女アルラですか?」
『魔女?なるほど、そのように言われておるのか。アルラは我の加護を得たのに、我の花嫁にならずに、一目ぼれした王太子の元へ行った。だから狂ったんじゃ』
「狂った?」
『定めを曲げれば、そこには歪が生まれる。あの娘は我の花嫁になるはずじゃった。それを曲げた結果、精神の均衡を崩して、自ら破滅を選んだのじゃ』
「あの、では私が運命の相手と真実の愛を見つけられなければ、どうなるのですか?まさか、狂ったりしませんよね……?」
『そうじゃのう、加護の魅了を使いつづければ、少しずつ運命が歪み、いずれは狂う未来もあるかものう』
「そんな……、魅了を使わなくても、運命の相手は見つかるのですか?」
『運命の相手には、そなたが光って見える。その者と真実の愛を築けばよい』
「では、私から見れば?」
『普通の人間にしか見えんのう』
「普通、つまり分からないってことですよね?」
緑の精霊がフッと私から視線を逸らした。今のところ、緑の精霊から賜った(押し付けられた)加護は、呪い認定まっしぐらだ。
『今はまだ運命の歯車は動いてはおらぬよ。気長に探すがよい。もし見つからなければ、我がそなたを花嫁として迎えてやるから、安心するがよい。なに、我は女同士でもよいからのう。ではな』
最後に爆弾発言を残して、緑の精霊は姿を消した。
「全然、安心できない……」
霧が晴れると、フレデリックが目を覚ましたので、私たちはそのまま森を出て屋敷に戻った。屋敷では、私たちがいなくなったと大騒ぎで、すでに夜会から戻って来ていたお爺様と父様にしっかり怒られた。
これも全て、ややこしい加護を押し付けた緑の精霊のせいだと思うと納得がいかない。それにしても、今のところ加護を得て私に得なことは一つもないのだけれど、次に会った時にそこは追及したいと切実に思った。
Side緑の精霊の独白
森でアルラを見つけたのは偶然だった。愛らしい子供が一人で山菜を摘んでいたのだ。まだ幼い少女だったので、我は精霊の加護を与えて満足した。いずれは我が花嫁にと思っていたが、長い時間を過ごすうちにすっかり失念していたのだ。人の生は短いということに……
いつの間にか、加護を与えた少女は大人の女性になっており、あろうことか我の加護を使って王太子妃になっていた。それだけなら、我の失念のせいだと諦めていたのだが、アルラは魅了の加護を使いすぎ魂を狂わせ、罪を重ねて断罪され、止める間もなく処刑されてしまった。
我はせめてもの償いにと、アルラの壊れた魂を救い出し転生の輪に戻したが、壊れ過ぎた魂が次の生に辿り着くには時間がかかる。幸い我には待っている時間が十分にあった。次にこの魂に会えたなら、今度こそずっと見守り花嫁にしようと決めていた。
数百年待った。ついにアルラの魂を宿した少女を見つけた。だが、アルラの魂は不完全だったのか、他の世界から迷い込んだ魂と融合した不安定な状態で少女の中に存在していた。このままではいずれ、魂が壊れて消えてしまうだろう……
『お前の魂は変わっておるのう。どれ、我の加護を与えてやろうかの?』
アルラの魂を待つ間に、気まぐれに数度、人に加護を与えたが、我の加護を与えられた人間は皆、魅了を正しく使うことが出来ずにほとんどの者が人生を狂わせた。
真実の愛さえ得られれば、その後は幸運な人生が送れるはずなのだが、人とは難しい生き物よ。何度目かの不幸な人生を見送った後、我はそこから加護を与えるのをやめた。
だが、この不完全な魂を壊さずに保つためには、我の加護の力が必要だった。消えてしまうよりはいいだろうと、半ば無理やり加護を押し付けた自覚はあるが、我はその事をエヴェリーナには告げていない。告げたとしても、現状は変わらないのだ。それならば、何も知らずに真実の愛を探す方がいいだろうと、こちらで勝手に解釈した。
長く存在はしていても、人の機微には疎いので、そこはどうにかなるだろうと楽観的に考えた。元来、精霊とはそういうものなのだから、仕方あるまい。
それでも今回は、エヴェリーナのことを見守ることにしている。我の愛し子なのじゃから、今度こそ幸せになって欲しい。もしも、人がエヴェリーナを虐げれば、今度こそ力を貸すし、天災も起こす自信があった。
『花嫁にするのも、良い考えじゃと思うがのう。最終手段だが、候補に入れておくかの……』
森を出ていくエヴェリーナたちには、我の最後の呟きは届いていなかった。
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