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第30話 初デートと恋人たちの湖②

 マーティン様は持っていた串焼きを、私の口元へ笑顔で差し出した。微笑んでいるマーティン様につられて、思わず口を開けそうになって、ハッと我に返った。祭り会場は、かなり混んでいる。つまりこの光景を生温かい視線で見ている人が多くいるということだ。

 更に私の耳には「あらあら、若いっていいわね」「きゃああっ見てみて」「ふん、恥ずかしくないのか?」など、沢山の声が届いた。耳がいいのもこの場合考えものだ。

 私はマーティン様の顔を見て、無理だと首を振り、両手で口を覆い隠した。

「残念。仮面を着けているから、誰かは分からないよ?まぁ、照れたエヴェは可愛いから、これで満足するけどね」

 マーティン様は差し出していた串焼きを、そのまま豪快に食べきった。私はホッと息を吐いて、緊張を誤魔化すように残りの肉詰めパンを食べきった。

 マーティン様が差し出した果樹水を受け取って飲むと、果物の甘みとほどよい酸味が口の中に広がって、とても美味しかった。マーティン様が飲んでいる牛乳の味が気になって見ていると、それに気づいたマーティン様が、私の飲んでいた果樹水を取って、残りを一気に飲み干した。代わりにマーティン様が飲んでいた牛乳を差し出された。戸惑う私に、マーティン様は微笑んだ。

「交換だよ。わが領の牛乳は新鮮で濃くて美味しいんだ」

 同じ入れ物で飲むのは間接キス、いや、加護は発動しないのか、などと考えがよぎったが、すでにマーティン様が果樹水を飲み切っている。おそらく間接的な接触では加護は発動しないのだろう。

 私は差し出された牛乳の味が気になって、結局受け取って飲んでしまった。適度に冷えた牛乳は、濃厚で甘くてとても美味しかった。

「美味しかっただろ?エヴェは分かり易いね」

 口元が綻んでいる私を見てクスリと笑った。マーティン様は、私の手から空の入れ物を回収すると、店へ返却しに行ってくれた。この世界には、使い捨てコップなどはないので、入れ物は買った店へ返却するのが決まりだと、マーティン様が教えてくれた。

 普段、屋台などで買い物をしない私は、その習慣を知らなかった。マーティン様も貴族令息だ。本来なら、平民の生活に詳しくないはずだ。不思議そうに見ていた私に気づいて、その理由を説明してくれた。

「我が家では、祭り開催中の外出は、子供の頃から推奨されていたんだ。貴族だからと言って、領地民の生活をまったく知らない領主にしたくないと、父上が子供たちを積極的に参加させていた。子供も仮面を着けるし、護衛も仮面を着けてついて来れば分からない。幼い頃はコーディーやキースとも一緒に来ていたんだ。学園で知り合ったクリスは、残念ながらまだ参加できてないけどね。それに仮面祭りは、貴族もお忍びで来ることが多いから、警備も厳重で比較的安全なんだよ」

 マーティン様は嫡男だ。将来、領主として立つ覚悟を持って、この領地のことを学び、学園でも研鑽を積んでいることを知っている。

 例え私たちが運命の相手であっても、私がこのままこの国に残ることが出来なければ、2年半後私たちは離れ離れだ。まだその先が分からないまま、私たちは二人でいる未来を信じて進み続けている。


 マーティン様と一緒に向かった湖は、ユーイング伯爵領の丁度中心部にあり、湧水と森から流れ着く川によって形成されているそうだ。かなり大きな湖で、対岸が辛うじて微かに見える。透明度は抜群で、浅瀬では小さな魚が泳いでいるのが見えると、大人と一緒に小さな子供たちが夢中になって魚の姿を探していた。

「子供たちが溺れたりしないように、危険な箇所には柵が設置されているし、子供だけで湖に近づかないように、注意喚起もしっかりするようにしているんだ。昔は溺れてなくなる子供もいたから……」


 祭りの会場は、ユーイング伯爵の領主邸に近い場所で開催され、領地の中でも一番大きな街だった。お祭り会場以外にも、街ではお祭りに合わせて沢山の品が店頭で売られていた。

「街の方で、何か見る?お土産に丁度いい品も多いし、祭り期間限定の商品も沢山あるらしいよ」

 祭り限定と聞いて、私は興味を引かれてマーティン様の提案に頷いた。店頭には色とりどりの石の付いたアクセサリーが売られていた。

「これはこの湖でとれる石なんだ。綺麗な色のものが多くて、こうやって加工して販売している店が多いよ。宝石は値が張るけど、これなら普段気兼ねなく使えるだろ?」

 手に取ると、コロンとした形の石は、冷たくて手触りがよかった。石はペンダントや耳飾り、髪飾りなどいろいろなものに加工されていた。

 私はオレンジ色の石の付いたキーホルダーを手に取った。

「お客さま。それは石を選んで付け替えることも出来るので、よければこちらの替え用の石もご覧になってくださいね」

 店先にいた女性の店員さんが、籠に入った石を目の前に置いてくれた。オレンジ色や緑色、青色赤色など同じような大きさの石が沢山入っている。

 私は緑色とオレンジ色の石をそれぞれ2つずつ選んで店員さんに渡した。渡された店員さんは、私の意図をくみ取って頷くと、その場で工具を使ってキーホルダーを二つ作ってくれた。

「これでどうでしょうか?お揃いで、とってもかわいいと思います」

 店員さんの差し出したトレーには、オレンジ色と緑色の石が付いた同じ雰囲気のキーホルダーが並んでいた。マーティン様の瞳の色に近いオレンジ色の石、私の薄灰色の瞳の石は無かったので、髪色に近い緑の石を選んでみた。

「恋人や友人同士に、ピッタリの商品だと思います。良ければこの案を、このままお店で使わせてもらってもいいでしょうか?」

 店員さんの言葉に、私はマーティン様を見た。

「エヴェがいいなら、俺はいいと思うが……、流行ってしまうと同じようなキーホルダーが出来て、特別感が無くなって残念だけど……」

 私とお揃いのものが持てて嬉しいと、思ってくれているマーティン様の気持ちが伝わってきて、私は心が温かくなった。私は頷いて、店頭に並んでいる色とりどりの飾り紐を手に取った。そして、その紐の中から、銀色と茶色の紐を2本ずつ取った。

「なるほど、それはとてもいいですね!」

 店員さんは私の意図を素早く理解して、飾り紐をキーホルダーに取り付けてくれた。瞳の色、髪の色を石や飾り紐で組み合わせれば、出来上がるパターンはかなり多い。こうすれば、二人だけのオリジナルのキーホルダーだと言っても過言ではないはずだ。

「エヴェ、君はなんて素晴らしいんだ」

「ええ、本当に素晴らしいです。これはきっと流行りますよ。ぜひ、この案を使わせてください!」

 店員さんに案を使っても構わないと了承して、私たちは店を後にした。後日、このお揃いのキーホルダーが、ユーイング伯爵領で人気の土産品になっているなんて、この時の私は考えもしなかった。


 私たちは街を離れ、湖の方へ向かった。湖に沈む夕日はとても美しく、観光の名物なのだそうだ。丁度店を後にした頃が、日の入りの時刻前だったため、同様に、湖に向かう人たちが大勢いた。

 街には明かりが灯り始め、夜に向けての準備が始まった。昼間は子供も多く見かけたが、夜は大人が中心になって祭りを楽しむそうだ。


いつも読んでいただきありがとうございます。

不定期投稿ですみません。よろしくお願いいたします。

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