第15話 sideマーティンの気持ち
新学期に留学生が数名やって来るのはよくあることだ。その中に、遠目でもひときわ目を惹く美男美女の双子がいた。よく雰囲気の似た男女の双子、珍しいがそれだけならタランターレ国にだっている。その双子の内の一人が、緑の精霊の加護持ちだと聞いて、俄然俺の知識欲が刺激された。
俺は休み時間を利用して、学園内に隣接している図書館に向かった。この図書館には、選ばれた者だけが入室できる禁書庫がある。偶然だが入室が出来るようになった俺は、友人と何度か利用している。ここならば、謎が多い緑の精霊に関することも分かるかもしれないと思ったのだ。
「……、緑の精霊、加護、……流石に精霊関係の本は、あまり無いのか?」
古代文字で書かれている古びた背表紙を、一つずつ確認しながら探していると、まるでこの本を読めと言うように、薄っすらと光を放つ背表紙が目に入った。本を書棚から引き出すと、光は消えてしまった。
「緑の精霊の秘密、か。これなら何か載っているのか?」
俺はその本を持って禁書庫を出た。どういう仕掛けなのかは不明だが、禁書庫の中で古代文字だった本は、禁書庫から持ち出すと現代語に変化するのだ。古代文字は辛うじて読めるが、時間がかかるためこのシステムは非常にありがたい。俺は本を持って、図書館に備え付けられている読書スペースに陣取ると、素早く本に目を走らせた。
「緑の精霊の属性は、光。高位精霊で数百年に一度、気まぐれに加護を与えることがある。加護を賜ると、髪の一部が精霊の色に変化することが一般的で、加護を失えば髪色は元の色に戻る……、これは、一般的にも知られている内容だな?秘密、ってタイトルがついているんだ、もっと知られていない情報は?」
俺はざっと目を通しながら、必要な情報を頭に叩き込む。数ページ読み進めると、秘密について書いてある部分に差し掛かった。ただ、この情報はこの本を書いた筆者の考察として書かれてあり、定かではないということだった。
「精霊の愛し子は緑の精霊に愛される。故に精霊は同じように愛し子を愛させるために、愛し子の声に加護を与えた。愛し子の声は、魅惑的に響き人も動物も魅了する。魅了された者は、愛し子を求めずはいられなくなる。これすなわち、傾国の加護となる……」
思わず読み込みすぎて、始業時間ギリギリになってしまった。俺は残りを急いで読み終え、禁書庫に本を返却して教室に向かった。
まさかそんな厄介な加護持ちが、留学して来るなんて問題だろう。魔法学園の生徒が、易々と魅了されるとは考えたくないが、何かある前に対策はしておいた方がいいだろう。
ギリギリで教室に入り、担当教官の話を聞き、友人のコーディーが今年もクラス代表に決まったところで、今日は解散となった。あの双子の留学生は、隣のクラスに転入したようだ。隣のクラスには、キースとクリスがいる。何と言ってもクリスは、この国の魔法使いを代表する白の魔法使いだ。おいそれとは精霊の加護に惑わされないと信じたいところだ。
「クラス代表、コーディー・ロジャーズ君は、手伝って欲しいことがあるので、このまま職員棟へ来るように」
担当教官の声に、俺はハッとコーディーを見た。コーディーが俺の方を見て、一緒に来て欲しいと伝えてきたので、俺は了承のサインを送った。
精霊の加護のことは気になるが、今更焦っても仕方ないだろう。先にコーディーが教室を出ていったので、俺は数刻遅れて教室を出た。職員棟へ向かう途中、女生徒が騒いでいたので何気なく視線を向けると、留学生の双子を校内案内するキースとクリスがいた。キースもクリスも、この学園で目を惹く存在だ。そこに噂の双子がいれば、自然と注目を集めたのだろう。遠巻きに見ている女生徒たちの間を通り、キースたちに近づいた。
近くで見たエヴェリーナ嬢は、薄っすらと光のベールを纏っている様に光輝いて見えた。皆ははっきりとは言わなかったが、その現象はどうやら俺だけに見えているようだ。
どのように光っているかを確認するために見つめた時のエヴェリーナ嬢は、緊張して薄っすらと頬を染めていた。その様子が、庇護欲を刺激されるほど可愛かった。はっきり言って好みのタイプだと思う。
俺はコーディーを手伝うために一度エヴェリーナ嬢たちと別れたが、用事を済ませて再びエヴェリーナ嬢を探すことにした。この気持ちの高まりの正体が、緑の精霊に対する興味なのか、エヴェリーナ嬢に対する好意なのかを知りたいと思ったからだ。探す途中でキースたちと会えたが、残念ながら校内案内は終了して解散してしまった後だった。
「エヴェリーナ嬢たちなら、北館の裏手にある人があまり来ないガゼボにいると思うよ」
キースが意味深な笑顔で、親切に居場所を教えてくれた時は、自分の好意がバレている気がして居たたまれない気分になった。クリスも意地の悪そうな笑顔で頷いていたので、これ以上いて揶揄われるのは御免だと、早々にその場を後にした。
教えられたガゼボにそっと近づくと、双子は声を潜めて話し込んでいた。意図せずエヴェリーナ嬢の声を聞いてしまったが、何故か俺には加護の力が及ばなかったらしい。それよりも、焦ったエヴェリーナ嬢がパニックになって叫んだ言葉が、とても面白かった。
「え、ええええ、マーティン様が跪くの?縋り付いてくれるの??それって、なんのご褒美???」
ご褒美って、どういう意味なんだろう??見た目と挙動不審な言動のギャップに、俺は暫くの間笑いが止められなかった。
声を聞かれたことに焦って泣きそうになっているエヴェリーナ嬢、加護の力の効果が無いと知って安心したように微笑んだエヴェリーナ嬢、そのすべての表情が俺の心を刺激する。
困っているというフレデリックの申し出に頷いたのも、エヴェリーナ嬢をもっと側で見ていたいという気持ちが大きかった。
エヴェリーナ嬢が不安そうに俺を見上げて、大きくて綺麗な薄灰色の瞳を潤ませている。
「ありがとうございます。マーティン様」
「エヴェリーナ嬢……」
「あの、よろしければ、エヴェとお呼びください」
いきなり愛称呼びを申し出られた時は、少し驚いてしまったが、期待するようにこっちを見ているエヴェリーナ嬢の可愛さに、申し出を断ることは出来なかった。
「……エヴェ、これからよろしく」
「はい、マーティン様」
花がほころぶようにパッと微笑んだエヴェに、俺の鼓動が忙しなく騒いだ。この感情に名前がつくまでに、それほど時間がかからないだろうという予感に、俺は心が踊り出しそうな気持をそっと落ち着かせた。
その日から、何故かエヴェとフレデリックに会うことが増えた。キースやクリスに呼ばれていくと、偶然二人がいるのだ。困った事があれば助けると約束したので、俺はエヴェと一緒に行動をすることに異存はない。
勿論、それを下心だと言われれば、ハッキリ言って否定はできない。
「マーティン様?どうしましたか?」
エヴェの声に、俺はハッとして意識を浮上させた。
今日はフレデリックが、キースとクリスに呼ばれているからと、エヴェと二人きりで昼食を取っていた。ここ最近、そんな理由で昼食を共にすることが多くなり、エヴェとの距離感が近くなっている実感はある。もうこれは、付き合っていると言っても過言ではないのでは?とさえ思っている。
やはりここは男の俺からビシッと告白をして、この曖昧な関係から脱してもいいのではないだろうか。
「あのさ、エヴェ……」
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