第14話 作戦会議
キース様とクリスティアン様の校内案内が終わって、二人と別れた後、私たちは作戦会議を行うべく、生徒があまり来ないとキース様に教えてもらった、学園の端の寂れたガゼボにやって来た。
「エヴェ、落ち着いて、まだ人が来ないか確認してないから……」
慎重に周りを見ながら、フレデリックが呆れたように私を見た。私はマーティン様が運命の相手だという事実に、ずっと叫び出したい衝動を我慢してうずうずしていた。ここまで来て待て、だなんて何の苦行だろうか。私は思わず、ぐぬぬと唸ってしまった。
「はいはい、大丈夫そうだ。もう、いいよ……」
フレデリックの許可に、私は魔道具のペンダントを握りしめて口火を切った。
「きゃ~、聞いて聞いて、もう最高よ!マーティン様、本当に本当に、最高よ!」
私の叫びに、フレデリックが慌てて私の口を手で塞いだ。
「声、抑えて!誰もいないと思うけど、用心しないと」
「……ごめんなさい。興奮しました……」
「喋る前から、ひしひしと伝わってきたけど、どうしてそこまでマーティン様を気に入っているの?確かに、見た目は美丈夫だったけど、初対面だよね?」
まさか前世の推しキャラだからとは言えない私は、フレデリックの顔を見て、誤魔化すように微笑んだ。
「ええっと、一目ぼれかな?ほら、運命の相手だし、そういうものなのかも?」
「そういうものなの?」
胡乱な目で見てくるフレデリックに、私はそういうものなのだと言い切った。
「と、兎に角、運命の相手なんだから、私の気持ちが一目ぼれなら、問題ないわよね⁈」
「いや、問題はあるよ。エヴェだけが盛り上げっていても、肝心のマーティン様はどう思っているか分からないし、隣のクラスだから、接点も少ないだろ?不特定多数の前で、話しかける訳にもいかないし、どうやってお近づきになるのさ?」
「そ、それは、ほら、……偶然を装って、とか?」
「偶然を装って会ったとして、その後は?会うだけじゃ、進展しないよ」
「……」
「計画があるわけじゃないんだね……」
フレデリックの呆れた顔に、私は思わず腹が立って叫んでしまった。
「もうっ!フレデリック、意地悪だわ。私だって、このままじゃ…」
フレデリックに文句を言っていると、私たちの背後にあった植え込みがガサリっと音を立てた。そして、そこからマーティン様が出てきたのだ。
「マ、マーティン様が私の背後から⁈」
パニックになった私は、声が出ていることに気がついていなかった。
「エヴェ、落ち着いて、声、出てる!!」
フレデリックの指摘に、私は更にパニックになった。
「え、ええええ、マーティン様が跪くの?縋り付いてくれるの??それって、なんのご褒美???」
取り乱すあまり本音を漏らす私の口を、フレデリックが慌てて塞いだ。
「エヴェ、心の声まで全部、声に出しちゃってる!落ち着いて!」
私はハッと気づいて、慌ててマーティン様を見た。まさか加護の影響でおかしくなってしまったら、急いでクリスティアン様を探さないといけない。いや、心の声を聞かれたのだ、おかしくなっていなくても記憶は消して欲しい。
マーティン様は、驚いたように私たち二人を代わる代わる見ていたが、次の瞬間弾かれたように笑い出した。
「ぶっ、わはははは……、エヴェリーナ嬢、見かけによらず面白い人だったんだ、ご褒美って……ぷ、ははは」
「え?加護のせいでご乱心?」
フレデリックが笑い続けるマーティン様を見て、慌ててクリスティアン様を呼びに行こうとした。
「ははは。……あ、ごめん待って!笑いのツボに入っただけで、俺は乱心していないと思う」
冷静なマーティン様の声に、フレデリックが急いで歩みを止めた。私は混乱する頭を必死で整理する。マーティン様は笑い上戸……じゃなくて、私の声を聞いても乱心していない⁈つまり……
「あの、大丈夫なのですか?この声を聞いても、縋り付きたくなったり、跪いて崇めたくなったり、しませんか?本当に??」
私の言葉に若干引き気味だが、マーティン様は至って冷静に頷いた。私は安堵から、膝の力がカクりと抜けた。バランスを崩し倒れそうな私を、近くにいたマーティン様がさりげなく支えてくれた。
「大丈夫か?」
「あ、すみません。安心したら、力が抜けてしまって……。もう、大丈夫です」
私は支えてくれていたマーティン様から、そっと離れた。意外と逞しい腕の感触に、少しだけ離れがたいと思ってしまったのは内緒だ。
「俺の方こそ、大笑いしてごめん。一見、精霊のお姫様みたいな容姿なのに、ギャップに思わず我慢できなかった……、いや、悪い意味じゃないよ。なんていうか、新鮮な感じで好感が持てるっていうか、……って、なに言っているんだ、俺は……」
頬を赤く染め照れくさそうにしているマーティン様を見て、私も思わず赤くなった。二人でモジモジしていると、その様子を呆れながら見ていたフレデリックが、頃合いを見てマーティン様に向き合った。
「あの、ユーイング伯爵令息。お願いがあるのですが」
フレデリックの声に、マーティン様は私とフレデリックの方を見た。
「今更だけど、マーティンって呼んでくれ。俺も既にエヴェリーナ嬢って呼んでいるし、フレデリックと呼んでいいかな?」
私とフレデリックは了承した。確かに、私も既にマーティン様と呼んでしまっていた……。本当に今更だ。
「それで、お願いとは?」
「あ、はい。マーティン様はエヴェの声を聞いても正気を保てる貴重な人のようなので、出来ればエヴェのことを助けてやって欲しいのです。話せない状態で、新しい環境になれるのも大変そうで。僕が常にエヴェの側にいることが出来ればいいのですが、そうすることも難しくて……」
いきなり「あなたは運命の相手です。真実の愛を!」とは言えないので、協力を求める形で会う機会を増やし、親密になるための時間を作ろうとしてくれているのだろう。ありがとう、出来た弟よ。
私は即座にフレデリックの作戦に乗ることにした。不安そうな表情をつくると、そっとマーティン様を見上げた。身長低めで儚げな美少女(自称)の私が、高身長のマーティン様を見上げると、少しは庇護欲を誘えると思うのだが、どうだろうか?
「あ、ああ、勿論協力は惜しまない。だから、そんなに不安がらなくていいよ。エヴェリーナ嬢」
頬を薄っすらと染め、優しく微笑むマーティン様を見ながら、私は心の中でガッツポーズをした。隣でフレデリックが、マーティン様をチョロいと認定している気がするが、そこはスルーだ。後で、フレデリックを説教しようと心で決め、私は目を潤ませてマーティン様を見た。
「ありがとうございます。マーティン様」
「エヴェリーナ嬢……」
「あの、よろしければ、エヴェとお呼びください」
ちゃっかり愛称呼びをお願いする私に、フレデリックが残念な子を見る目を向けてきたがそこは無視だ。




