第12話 推しに遭遇しました
「当時、僕は気を失っていて、気がついた時には、エヴェの髪の一部が変化していました。その後、大人たちが探しに来て、精霊様の加護だと大騒ぎになったんです」
「……あのさ、もしかして、エヴェリーナ嬢は話せないのかな?さっき、自己紹介の時もフレデリックが話して、エヴェリーナ嬢は一言も話していなかったよね?」
クリスティアン様の言葉に、私は黙ったままフレデリックを見た。
「それは……」
私はフレデリックに話して大丈夫だと頷いて、首に着けているペンダントをクリスティアン様に見せた。
「それは魔道具かな?微かに魔力を帯びている」
「これは、声を封じるための魔道具です。事情があって、エヴェは話すことが出来ないんです」
「事情……?」
「緑の精霊の加護は、魅了、なんだろ?」
フレデリックが話すか迷う間に、私たちの背後から新たな声が聞こえた。何故か理由は分からないが、その声はとても魅力的に聞こえた。私は慌てて声の主を探して振り向いた。
「え?マーティン?」
キース様の言葉に、目の前にいる人物が乙女ゲームのナビゲート役、マーティン様なのだと認識した。少し長めの濃い茶色の髪に、意志の強そうなオレンジ色の瞳。流石乙女ゲームのナビを務めるキャラ。見た目も声も、攻略対象同様格好いい。美貌のクリスティアン様、正統派美少年のキース様より、私はナビゲート役のマーティン様を推していたのだ。ただ、攻略対象ではないので、残念ながらゲーム内で攻略は出来ないし、画面上で会えるのもヒロインが困っている時だけだった。その推しが目の前に立っているのだ。
「……!!」
私の心の叫びは、フレデリック以外には伝わらないようで、会話はそのまま続いていく。
「緑の精霊が気になって、さっき図書館に行ってきたんだ」
マーティン様の言葉に、フレデリックと私が驚いた。図書館に緑の精霊の情報が??緑の精霊の加護を賜ってから、この呪いのような加護を何とかしたくて、家族総出で国中の書籍を読み漁ったが、有効な情報はほとんど得ることが出来なかったのに……
「……調べたのですか?でも、緑の精霊のことが載っている本なんて、エリシーノ国にもほとんどないのに?」
「ああ、裏技みたいなもんだ」
「……?」
「緑の加護を得た者は、声で人を惑わす。と書いてあった。つまり、禁術の魅了のようなものだよな?」
「……あの、この方は?」
乙女ゲームを知らないフレデリックが、戸惑ったようにマーティン様を見た。確かにいきなり私の秘密をペラペラと語る彼は、不審者に見えなくもない。
「あ、ごめん。僕たちの友人のマーティン・ユーイング伯爵令息だよ。情報収集が趣味なんだ。身元は確かだし、言いふらすようなことはしない。それは僕が保証する」
キース様の言葉に、警戒心から睨むようにマーティン様を見ていたフレデリックが緊張を解いて、小さく溜息をついた。
「エヴェの声を聞いた者は、男女年齢関係なくエヴェを妄信的に愛してしまうのです。森に救助に来た大人たちが、エヴェの声を聞いた途端にいきなりエヴェを奪い合いました。幸い、加護の力は血縁関係にある者には効果がありませんでしたが、事態を重く見た祖父がエヴェに話すことを禁じたのです」
「緑の精霊は、自分の気に入った人間に加護を与える。緑の精霊はその人間を愛している。だから、他の人間も同じように愛するように魅了をかける。その方法が声だったんだな。でもその時、魅了にかかった大人たちはどうなったんだ?」
マーティン様の質問に、フレデリックが気まずそうに目を逸らした。
「緑の魔法使いである祖父が、忘却魔法をかけてエヴェの声を忘れさせました」
「なるほど、声を聞いた記憶を消すのか……。だが、忘却魔法は高度な魔法だ。誰でも使うことは出来ない、だから魔道具で話すことを禁じたのか」
クリスティアン様の言葉に、私は思わず俯いた。10歳の頃からずっと、私は家族以外の人と気軽に話すことが出来ないのだ。それは前世、大人の記憶がある私でも、それなりに辛いことでもあった。本当に加護はチートではなく呪いである。
「精霊の加護は、ずっと続くのかな?」
キース様の言葉に、私は希望も込めて、フルフルと首を振った。
「いえ、真実の愛で加護は消えるそうです」
「真実の愛⁈」
皆さんの反応に、私は居たたまれない思いで俯いた。いきなり真実の愛だなんて言われても、私自身でも戸惑いしかなかった。
「それはまた、面倒くさい話だ」
クリスティアン様の率直な感想に、キース様が慌ててクリスティアン様の脇腹をつついた。思いのほか強く当たっていたようで、クリスティアン様が小さく呻いた。
「あ、気にしなくていいですよ。本当に面倒なのです。国内でその真実の愛を探そうとしたのですが、精霊の加護のせいで、エヴェの奪い合いは起こっても真実の愛には至らず、何度も騒動を起こすエヴェはすっかり呪いの娘扱いで、国内の男性からは嫌厭されてしまったのです。それで、国外に望みをかけました」
何度も巻き込まれたフレデリックが、当時のことを思い出して苦笑した。フレデリックは奪い合いと言ったが、そんな単純なものではなかった。最悪の場合、私を奪うための殺し合いを始める大人たちに、私もフレデリックも泣き叫ぶことしかできなかった。
私たち二人にとっては、精霊の加護に関わるもの全てがトラウマだ。何度も、理性を失った大人たちに襲われる悪夢にうなされ、二人で眠れぬ夜を支え合った。私の事情に、一方的に巻き込まれたはずのフレデリックは、一度も私を責めたことがない。本当に天使なのだと思う。
「国外と言っても、タランターレ国以外にも国はあっただろ?どうしてここなんだ?」
マーティン様の問いに、フレデリックは一瞬迷うように私を見たが、話すしかないと諦めたようにマーティン様を見た。
「我が国では、いろいろな場面で魔女の占いを頼ることがあります。緑の魔法使いの妻、つまり僕たちの祖母も占いを得意としている魔女です。その祖母が占った結果、エヴェの運命の相手はタランターレ国の魔法学園にいるという結果が出ました。それで、3年生から急遽留学することになったのです」
「占いの魔女」と呼ばれる祖母の占いが、未来をも見通す力があることまでは伏せて、フレデリックが誤魔化すように微笑んだ。
「魔女の占いで運命の相手を……?」
「もちろん魔女の占いはあくまで占いであって、絶対ではないと分かっています。それでも、その占いに頼るしかないほど、我が家は追い詰められている状態です。詳しい事情までは、ここではお話しできませんが、ご助力いただけると非常に助かります。この国に来たもう一つの理由は、この学園に白の魔法使いがいたからなのです」
若干引き気味のクリスティアン様をじっと見ると、明らかに面倒そうな顔で黙ってしまった。キース様が、困った様に私たちを見た。
いつも読んでいただきありがとうございます。
毎日一話投稿をしていたのですが、書き溜め分が減ってきたので、投稿は月曜日から金曜日、一話投稿に変更します。すみませんが、よろしくお願いいたします。
頑張って書き溜めます!




