第11話 初登校
投稿、遅くなりました。すみません。
タランターレ国に着いて5日後、私はフレデリックと待ち合わせて、新学期が始まった魔法学園に登校した。精霊の加護持ちの特徴で髪の一部が変化している私は、すぐに人目を惹いてしまって、教室に到着する前に多くの生徒に囲まれてしまった。生徒の対応は喋れない私には不可能なので、外面も完璧なフレデリックに全てお任せだ。頼りになる弟である。
何とか人を躱しながら3年生の教室に辿り着くと、担当教官らしき人物が私たちを待っていてくれた。
「はじめまして。僕が担任のレオン・モリスです。フレデリック・アンデル伯爵令息、エヴェリーナ・アンデル伯爵令嬢、3年間よろしく。それじゃあ早速、教室に入ろうか」
「はい、よろしくお願いいたします」
フレデリックが挨拶をしたので、私は淑女の礼をして微笑んだ。いくら相手が教官になれるほど高い魔力を有していても、精霊の加護は等しく有効だった。つまり今、私が話せば目の前の気の良さそうな担任は一瞬で豹変して、私に愛を乞い縋り付くだろう。絶対に怖いし、転校初日にそんなことになれば、自国同様「呪いの娘」扱いまっしぐらだ。私は覚悟を決めて、ペンダントを握りしめて気合を入れた。
かなり緊張しながら教室に入ると、教室後方に見慣れた人物たちを発見した。勿論、じっと見つめることはしない。何と言っても、この世界では初対面だ。じっと見たら怪しまれる。
一人は輝く長い銀髪に、宝石のような紫色の瞳に高い鼻梁、女神も裸足で逃げ出しそうな芸術的に整った顔立ちの白の魔法使い、攻略対象のクリスティアン様だ。もう一人は、ピンクブロンドの髪にアクアマリン色の瞳。これまた美男子、攻略対象人気ナンバーワンのキース様。どうやらこの世界に、実際に攻略対象は存在しているようだ。多分私も、悪役令嬢エヴェリーナなのだが……
担任のモリス先生が私たちの紹介を始めたので、教室の中にいる生徒に視線を向けた。ゲームに出てくる人物は、二人以外はいないようだ。
「転校生を二人紹介する。エリシーノ国から留学してきた、エヴェリーナ・アンデル伯爵令嬢とフレデリック・アンデル伯爵令息だ。二人は双子の姉弟だ。3年間だが有意義な学生生活を送れるように、皆で手助けをするように」
「フレデリック・アンデルと姉のエヴェリーナ・アンデルです。よろしくお願いいたします」
フレデリックがそう言って微笑むと、教室にいた女生徒たちがポッと頬を染めた。私は心の中で、うちの子格好いいでしょ?と興奮してしまったが、勿論表情には出さない。タランターレ国はエリシーノ国と違い、双子を不吉だという風習は存在しない。その点は、本当にありがたい。
終始笑顔で黙っていると、モリス先生がフレデリックに、何かを囁いた。フレデリックが頷いて生徒を見た。
「一つ聞きたいのですが、エヴェリーナのことが、光輝いて見えている方はこの中にいらっしゃいますか?」
フレデリックの言葉に、教室の生徒たちが意味を測りかねて首をかしげた。実際に光って見えるという意味だと補足説明すると、誰も見えるとは答えなかった。つまりこの中に運命の相手はいないということだ。残念なのかホッとしたのか、よく分からない感情で私は指定された席に着いた。
「今日は課題を提出したら解散だ。お、そうだ、クラス代表だが、例年通り、今期もキース・アドキンズ君、頼んでいいかい?」
モリス先生の言葉に、キース様が綺麗な顔をわずかに歪めた。例年通りということは、入学以来ずっとクラス代表をしているのだろう。流石、頭脳明晰、優等生キャラだ。
「モリス先生、いいかげん解放して欲しいのですが……。僕、今年は副寮長もするんです」
「おお、そうか。じゃあ、……前期だけ頼む!あと、転入生二人の校内案内も頼んだ!今から、会議なんだ。すまんな。簡単に、締めの挨拶もしておいてくれ」
モリス先生は、皆から出された課題を急いで回収して、そのまま手を振って去っていった。私とフレデリックは、その様子に少し戸惑いながら顔を見合わせた。キース様は溜息を一つ零してから、席を立ってクラスメイトを見た。
「例年通りクラス代表になったキース・アドキンズです。皆さん、よろしくお願いします。では皆さん、はい、解散!転入生のお二人は、僕とそこに座っているクリスティアン君が校内を案内させていただきます」
急に名前を呼ばれたクリスティアン様が、明らかに嫌そうにキース様を見たが、キース様はその視線を無視するように微笑んだ。
「アドキンズ侯爵令息、エイベル伯爵、よろしくお願いいたします」
フレデリックが、少し緊張した様子でキース様たちに挨拶をした。私は黙ったまま淑女の礼をした。
「あ、キースでいいですよ。同じクラスになったのも何かのご縁です。僕も名前で呼んでいいでしょうか?」
私たちが頷くと、キース様は嫌そうにしているクリスティアン様を引っ張って教室を出たので、私たちもその後に続いた。
「フレデリックはどこの寮なの?」
「白のユニコーン寮です」
「そうか、僕たちは赤のフェニックス寮なんだけど、何か困った事があったら、いつでも訪ねて来てね」
キース様が人懐っこそうな顔で微笑んだ。流石、優等生キャラだと、心の中で拍手しておいた。
「ありがとうございます。あの、もしかして、エイベル伯爵は、白の魔法使いですか?」
お爺様から情報は貰っていたが、実際に会ったクリスティアン様はまだ幼さの残る少年で、本当に白の魔法使いで合っているのか、フレデリックも不安になったのだろう。
「ああ、そうだよ。僕のこともクリスでいいよ。敬語も使わなくていい。堅苦しいだろ?」
「ありがとう。実は僕たち、緑の魔法使いの孫なんです」
フレデリックの言葉に、キース様が思い出したように頷いた。
「緑の魔法使いといえば、グスタフ・アンデル殿か?父さんが白の魔法使いだった時に、一度だけお会いしたことがあるよ」
そう言えばキース様は、クリスティアン様が白の魔法使いになる前の白の魔法使いの息子だと、キャラ設定集に書いてあった気がする。確かキース様には、体の弱い妹がいて、その子のために父親は白の魔法使いを辞めたのだ。その後を引き継いだのが、魔力量が多く、才能あふれるクリスティアン様だったのだ。
ただ、クリスティアン様は家族愛には恵まれず、国が運営している魔法省管轄の施設で育ったはずだ。そのせいで自分のことが好きではない。そんなクリスティアン様の心を癒すのがヒロインなのだが、現在そのヒロインが存在しているかは不明だ。そもそも、この世界がクリスティアン様ルートなのか、キース様ルートなのか、違う攻略対象のルートなのかも分からない。
「キースは、マーカス様のご子息でしたか。僕たちも一度だけお会いしました。確か、エヴェが精霊様に祝福された直後だったかな?色の魔法使いの会合が、エリシーノ国であったんです」
各国の色の魔法使いは、定期的に会合を開いている。天界樹を拝する国同士、親交を深めることが主な目的だ。ただ、最近は「始まりの天界樹」を所有するガレア帝国は不参加なのだと、お爺様がボヤいていた。聖女様たちがいるのはガレア帝国なので、会合などの時でないと自国の聖女が元気でいるのか確認が出来ないのに、その会合に来ないので、近況を聞くことすらできない状態らしい。
「エヴェリーナ嬢が祝福されたのは、何歳の時だったの?」
キース様の言葉に、私はハッと思考を切り替えた。フレデリックが、私の代わりに答えてくれた。
「確か、10歳です。僕たち二人、森で迷子になったんです。その時に精霊様がエヴェを気に入ったらしいです」
「らしい?」
キース様たちが、不思議そうに首を傾げた。フレデリックが窺うように私を見たので、了承の意味で頷いた。
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