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千田フーヅシリーズ  作者: カワニナ
2/21

東京出張

課長と二人で出張………なんだけど。

(及川目線)





「旅行会社の窓口業務かぁ、接客業だもん、大変だよねぇ。」


 ちょっとしゃれた作りの居酒屋チェーン店のテーブル席。 傍から見れば同じ会社の社員同士が楽しい飲み会をしているような、 このなごやかな雰囲気は一体何なんだろう。


「そーなんですよー」


「ウチのお得意様も、あ、つってもホラ、日帰りバスツアーとかそんなんだけど、…」


 オッサンオッサン、何ですかその嬉しそうな顔は。そりゃ出張で来た東京で、 有名旅行会社の、それも美人社員ナンパ成功&お食事、 なんて確かに願ってもないシチュエーションですけど。



 東京の、少々都心から離れたデパートの駅弁フェアの仕事で、東北の某S市から新幹線で2時間。


 目の前で超シアワセそうな顔で社外営業に励んでいるのが陣内課長。俺の上司です。でもって、えー……。


「千田フーヅ…」


 聞いた事がないのを心底申し訳無さそうな顔で笑顔で返してくれるお嬢さん二人。 ン、二人ともまぁ、俺より年上っぽいけど美人さんだし、 何だか品があっていい雰囲気の二人。

 スミマセン、ええ、知らなくてあたりまえです。そんな会社です。 家族経営らしい甘えたところもありますが、無借金だし経営状態はいい会社ですよ。


「ウン、こいつとね、ほら、及川、気が効かないなぁ、えーと須藤さんと佐々木さん、 飲み物おかわりは?メニュー取ってやんなさいよ、及川」


「あ、もう結構です」


 初対面で名前を覚えるのは営業マンとして最低限必要な能力ではありますが。


「海外旅行専門なんだ、じゃ、若いお客さんが多そうだね」


 あ、あ、課長、聞き役モードに入りそうだよ。マジですかー…。




 本当は俺は予定じゃなかった。課長と、商品開発の千田部長が今回 Tデパートの駅弁フェアの仕事でこっちに来る予定だったんだ。

 だけど部長、急な予定で来られなくなった。結婚10年目にしてようやく授かったお子さんが、 予定日になっても生まれなくて、でやっと一昨夜産気づいたとかでどうしても病院を離れたくないと。

 で、急遽俺にお鉢が回って来た訳。


 と、言うより本来なら俺と課長で充分なはずの仕事ではあるんだ。 ただ、東京出張という事でミーハーな部長がしゃしゃり出てきていただけで。


 でももちろん責任は重大な仕事なんで、俺は焦った。正直、ウチの会社、わが社でなければ、という名物弁当を抱えているわけじゃぁナイ。 有名な○○弁当とか××××めし弁当とかの類似品でお茶を濁しているというか。


 いや、味は悪くないんだ。商品開発の連中もがんばっていて、 それなりにこれから名物になってくれんじゃないかという弁当もあるんだけど。


 とまれ、どうにか事前にタウン誌にも宣伝記事を載せてもらって、 チラシでも大きな活字も打ってもらって、首都圏の大きなデパートの駅弁フェアでいい位置のブースも確保できた。 ウチの会社的には結構大事な仕事。これで成功して口コミ効果とか期待しているわけだ。


 それにしても全く、今回も陣内課長の営業力に本当に感心させられた。 ウチなんかがあんないい場所取れるなんてさ。



 だからといってその人のいい笑顔を彼女たちにそんなに安売りしないで下さい。 えーと須藤さんだっけ、佐々木さんの方だっけ、なんかすごい告白モード入ってますよ、 それ、文章にしてどこかに投稿でもしたら立派な内部告発記事になりそうな……。




 うん、期待してました。やっぱ、俺。一応この課長に告白していい返事のようなものを貰っていたから。



 でもこのいい返事のようなもの、ってのが本当に曲者で。



 あれから、まぁ二人で飯を食ったりって機会は増えたし何かと仕事の上でも一緒にやる事が多くなりましたが。


 それだけ。


 てかぶっちゃけ一緒に飯を食うのが習慣になっただけ?


 まぁ課長は俺と違って本当は女の子の方が好きだから、 こうやって彼女たちと話している方が楽しいんだろうけど。


 俺だって欲が出る。ってかもう頭ン中それだけになって来そうだ。



 だって課長と初お泊り!(ビジネスホテルだけど)



 一応普段は自制をしているけど、進めるものなら少しでも先に進みたいって思うのは当然の話だ。




 だけど行きの新幹線内、急遽代理で引き受けた仕事だったからずーっと打ち合わせで課長も無駄話一つしなかった。

 で、デパートの担当さんとイベント企画屋と他の弁当屋さんとの喧々諤々のやりとり。 やっぱ、仕事できているからそんな不謹慎な考え抱いてる場合じゃねぇや、と俺もがんばった。



 そして、ひと段落してホテルへ戻るまでの歓楽街。



「あ、ね、ごめん、君たち。私たちこの辺初めてで、 どこか安くて美味しい食事が出来るところがあるんだったら教えてもらいたいんだけど」


 課長いきなりこれ。


 キレーな会社帰り風の女性二人を見かけてこれ。


 こんなんでナンパが成功するなんて、あなたどんな人徳の持ち主なんですか。







 女の子二人が連れだってトイレへ。ハァ~なんて間延びしたため息をつく課長。


「…どういうつもりですか課長」


「どういうつもりって?」


 ああ、またそうやってはぐらかすんですか…。


 ま、どうにかしたい俺も俺、ですがね。





 ああ、もう、惚れた弱み。俺の方が完璧不利。無理やり押し倒して嫌われるような真似だけは絶対したくない。

 なんだか今回もあきらめた方がよさそうな雰囲気だ。まだホテルに戻っても時間はあるけど、 明日の早朝から打ち合わせの続き、でもって明日中に会社に戻って報告とかしないといけないし。




 女の子二人が戻ってくる。愚痴を聞いてもらってスッキリした、なんて、「課長さんっていい人ですね」なんて。

 ええ、本当にいい人なんです。でもって俺のいいヒト…。


 やめとく。もう、なんかすごい惨めな気分だ。


 自然と会計は割り勘になる。俺の忸怩たる気分を差し引けば終始和やかに、というか本当に楽しい食事だった。 俺もこんな状況でなければ彼女たちともっと楽しく時間を過ごしたかったぐらい。 旅行会社の困った客の話なんて、いやホント、すごい話もいっぱい聞いて。



 だけどこれからどうされるんですか、なんて二次会に展開しそうなそんな雰囲気を、課長がにこやかに断ち切った。





「いやー今日コイツと俺、初夜なのよ」







 ハァ?








 か、課長、何っつー事をっ!!!?








「やだもー課長さんったら、本っ当に面白いー!!」


 女の子二人、腹を抱えて笑ってるよ。てか、おかしいか??!、今の!結構酔ってる?、お二人さん??!


「もー大変ですねぇ、及川さんも、こんな課長さんのお守だなんて」


「え、え、ええ、ま、いつもこの調子だから……」


 ええ、大変ですよ、本当に。何か、一瞬課長よりお嬢さん方のほうについて行きたくなりました。 俺ホモだから危ない事しません。知らない土地ですが送らせて下さい。


「また東京に来る様な事があったら連絡くださいね~」


「及川さんもね~」


 手を振ってにこやかに去っていく。地味でもなく派手でもないスッキリしたシルエット。 そんな二人の名刺もゲット。裏には携帯番号も。


 普通なら大変美味しいシチュエーションですね。




「まいるよなぁ、東京、殆ど路上禁煙だし禁煙の店ばっかだし」


 いらいらと早い歩調の課長を小走りで追いかける。人ごみに見失いそうになる中肉中背の体。


「待ってくださいよ、俺、東京初めてなんスから!!」


 期待もたせるような態度に出てるけど、あれだ、 どうせこの人早くホテルで一服したいだけであんな事言っただけなんだ………。





 何でもないビジネスホテルのロビーの一角、焦るように喫煙コーナーで100円ライターを鳴らす課長。ほらネ。


「全く…部屋まで待てないんですか」


「いいからチェックインの手続きしてきてよ、及川」


 飄々とした態度で煙を吐いて。




 わかりました。





 課長がそういうつもりなら。






 キーを貰ってエレベーターで。狭い個室、心臓はマジ爆発寸前。課長をチラ見する。 相変わらず眠そうな目でぽやぁんととぼけた表情で。 うう、見た目だけじゃどいういうつもりなんかやっぱわかんねぇ。





 いいや、もう俺の気持ちは全部見通されてんだ。





 部屋のドアが閉まるが早いか、俺は荷物を投げ出して課長をベッドに押し倒した。
















「………」















 課長…流石に赤い顔になる。いや、きっと俺の方がもっと切羽詰ったカオしてんだけどさ。










「……で」










「取り合えず、どうすんの」











「えーと…、ですね………」










 うー…緊張する。お互い緊張してメチャクチャ変な会話。















「キ、キス…しても…いいスか」









「デコにか」








「からかわないでくださいよぉ…」















 なんかもう俺涙で出そうなんですが。なんでだかわかんないスけど。




 でもそう言って俺をからかって照れながら口の端ちょっと曲げてニヤ、 なんて笑う課長はやっぱ可愛いっつーか


 セクシーっつーか。



 そう見えてんのは多分俺だけなんだけど、その方がいい。見た目そんなんでもないけど、ほんと課長ってのはイイ人なんだよ。 ちょっと付き合うとそれがわかるから、今日の女子二人の片方なんてマジで課長の事気に入ってたみたいだったもんな。






 仰向けに倒された課長の肩を押さえ込んで、俺はベッドに肩膝立てて、屈み込んで───









 課長、目ぇ瞑って────。

























「うひゃぁ!!」










 急に課長が飛びのいた。す、すんません、俺まだ何もしてないんスけど!?


「あ、わ、悪ィ、電話、携帯」



 あ、マナーモードね。って胸ポケから携帯取り出して、






 ……課長、出ないで下さいっ!!







 ……ええ、まぁ、俺たち仕事でここにいるんすけど………。












「ああ、そうか、おめでとう!!」




 あー千田部長かー…。生まれたのか、良かったね。



「3000ちょい、それって大きいの?普通なの?」



 普通なんじゃないスか?俺3100gだった、とかオフクロ言ってたし。



「母子共に健康、うんうん、良かったじゃな…」




「え?」




 なんスか、まだ何かあるンすか。




「え、こっち来るの?千田さん」




 え?




「え、もう来ちゃってる???」







 ハァ?!!






「いや、確かに、そういう時父親って何もする事がないって言うけど………」



「てか及川君の立場は………」



 そうだ、俺の立場は……っっ……





「東京観光って部長………」





 ……………








 ドアにノックの音。







 幻聴ではない、です…ね。
















 ああ、こんな事なら彼女たちとカラオケに行ったほうがきっとずっと良かったよ………。









 かくして異様にハイな状態の部長の(奥さんの)出産話と気の早い子供自慢と仕事の引継ぎで、 初めての俺の東京の夜は更けていったのでした。









 くそ、……今度こそっ。










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