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千田フーヅシリーズ  作者: カワニナ
18/21

温度差(6)

(6)




 その日は販売ブースの設計を頼む建設会社との打ち合わせで、S△放送さんも同行。 小さなオープンキッチンを併設した作りになる予定で、 工場から職人さんを交代で派遣して弁当を作るところを見られるようにするってわけ。

 R駅ビルの職員さんたちはさすが観光施設だけあってテレビの取材に慣れっこだった。 その日は俺らの仕事も撮影も滞りなく進んだ。


 課長とはあれ以来変わらない。会社で会えなければ、 俺たちはそもそも一緒に過ごす時間なんて持てる状況に無い。 俺から行動しない限り、課長とプライベートの時間を過ごすなんてこと そのものがあり得ないという現実が改めて辛かった。



 それでも、駒場にはきちんと話をしようと思った。


 久しぶりの「オブシダン」は客層が随分入れ代わっていた。 そんな中、一人先に来て待っていた駒場。向かいの椅子を勧めるように小さく手を振ってきた駒場の姿に感じる、 知らない土地で知った顔に出会った安心感のような懐かしいような気分。


 実は意地の悪い冗談だった───なんて言ってくれたらという淡い期待を抱いていた。

 けれど遅れてやって来た俺を迎えた駒場の表情に、俺は自分の鈍さを思い知らされただけだった。


 この時初めて俺の心臓は駒場の姿に恋愛感情とかそういう意味でドキリ、と鳴った。 うまく言葉にできないけれど、そこだけがあったかく光る感じで、 俺に向けられた駒場の視線にマジで胸が切ないように痛くなって。

 イケメンだから───なだけじゃなかったんだ。告白されてはじめて気づくなんて。 あんな表情で、あんな笑顔で俺は見られてたんだと────。



「え…ちょ、今更なんだよ…!」


「…ごめん」


 だけど────。



 俺は正直に今は相手がいるという事をはっきりと言った。 どう考えても上手く取りつくろうような言葉なんてうかばない。だったら正直に言うしかない。

 自慢じゃないが俺は振られることはあっても、向こうから声をかけられたことなんてなかった。 本当にどうしていいかわからず、とにかくひたすら頭を下げるしか出来なかった。 マジかよって顔で俺のほうを見る駒場。


「はー…、完ッ全にタイミングはずしたわ」


「………ごめん…」


 駒場はありえないだろってくらい落ち込んで。片手で顔をおおって、深いため息をついて。

 それきり、互いに黙り込んでしまう。本気でガックリ来ているそんな駒場の様子に、 俺のほうこそマジかよって気分だった。


 イケメンで、性格もいい駒場。今だってチラホラと店のほかの客からの視線を感じる。 俺より先に来て待っている間、きっと何人かに声をかけられたに違いない。

 けれど俺はそうじゃない。容姿は──悪く言われたことはないけど褒められたこともないし。 中身にいたっては駒場にはみっともない面ばかり見せてきている。 俺は妻子持ちの自分本位の男にハマッたりと人を見る目は無いし、 ノンケに惚れるなんて叶わない夢なんか見るような浅ーい人間だ。 そんな俺を少女マンガの主人公かよってツッコんだのはこの駒場だって言うのに。




「誰───って俺知ってるヒト?」


「んー」


「まさか松本さん──は無いか」


「ナイナイナイナイ。それだけはあの人もゲイだったとしてもあり得ない。」


「だよな」


「っつーか、ノンケ落としたんだ……」


「お、落としたっつーか……」


 ところがだった。急に駒場は顔を上げた。いたたまれない気分で下を向いていた俺も 思わずつられて顔をあげると、突然駒場は切り出したのだった。 


「やっぱ、ソイツとは止めて俺と付き合おうや」


「ええ?」


「ノンケなんだろ?いつか都合悪くなったらお前簡単に捨てられるじゃん」




 口調はいつも通り、まるで普通の日常会話のようで。 だけど笑顔を見せながら目の前の駒場の俺を見つめる目は真剣で。



「って……」


 いつだったか、他にも何人かとこの店でバカみたいにこんな話しで盛り上がったときの事を思い出した。 多分俺もきっとその時、今の駒場と似たような言葉を誰かに吐いたかもしれない。


 課長の俺への気持ちは信じている。でも俺があの日、課長の家から帰るときに感じたプレッシャー。 本気で好きなのに、課長も俺のことを真剣に考えてくれているのに、漠然と感じる不安。






「ちょっとは考えてみろよ」


 そう言って駒場は俺にむかって笑って見せた。その笑顔はヤッパリ魅力的で、しかも自信に満ちていて。


 俺は結局はっきりと返事をすることができなかった。











 営業部に戻るたびに課長の机のレターケースに張り付く『昼ドキ!』のステッカーが目に付いた。


「おう」


 今日も俺の方が後れて来て、連絡事項だけ通して入れ違うように課長が出て行った。いつものように短く声をかけてくる課長。もちろんちょろっとは「普段ど おりの無駄話」もあった。でもそれはそれこそ天気の話しとかそんな感じで本当に実のない会話で。


 しばらくそんな日が続いた。仕事のほうは順調…なのかな。とにかく俺は初めての事だらけで最上さんの脚を引っ張りまくって更に仕事を増やしてマジで課長 と連絡をとるとかそれどころではなく────。




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