表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千田フーヅシリーズ  作者: カワニナ
16/21

温度差(4)

(4)




 俺と駒場が会ったのは、このS市の隣のT市にある「オブシダン」という名の店でだった。 俺は専門学校の頃ぐらいからこういう場所を色々探して最終的にこの店に落ち着いていた。 そこはこの辺ではわりと良く知られたゲイ同士の出会いの場で、パッと見は静かなバーといったところ。 まだ千田に入ったばかりの頃で、課長の事は名前とあやしげな武勇伝ぐらいしか知らなかった頃だった。 普通に仲間を求めて俺は通っていた。


 駒場と仲良くなったのも生活時間が合っていたってのもあったし (今にして思えば、向こうが合わせてくれていた可能性が高いけど)、 ゲイであることへのスタンスっていうのかな、考え方が近かったので色々と話せる間柄になったんだけど。

 ゲイ同士の場合、親しい友人関係と恋人関係との境界線って曖昧になりがちだ。 一般人がイメージとして抱きがちな同性愛者まんまの生き方をしているヤツもいるし、 体の付き合いへのハードルが全体として甘いのは事実だと思う。 けれどセックスをすることが誰かと付き合う上での深さを確かめる手段だというのなら、 俺も駒場もそういう方面に関しては慎重な方だった。


 そんな風に俺にとっての駒場という存在は、ゲイであることを互いに理解しつつ 普通に付き合うことができるという意味で大事な友人だった。


 今から5年ほど前の話し。まだ課長のことを好きになる前で 俺も駒場も社会人になってやっと仕事が面白くなったぐらいの頃だ。

 「オブシダン」にある男がやって来た。Kさんていう全国に支店のある金融関係に勤めている人だった。 このS市には単身赴任で来ていて、───東京に奥さんもお子さんもいる人だった。


 Kさんはゲイだって事を隠して生きている人だった。けれど単身赴任で一人暮らしになって、 こっそり本当の自分でいる時間を過ごすことにしたらしい。 俺らの住むS市周辺は大手の企業の支社が多くって単身赴任者も多い。 こういう期間限定場所限定で密かに自分を解放するKさんみたいな人は結構いたりする。


 俺らの世代はもう大分情報がオープンになっているから、 俺なんて自分がこういう風だって事を自覚してからそんな自分自身を認めるまで、 それほど葛藤はなかったほうだったと思う。仕方ないって開き直って、 でも世間的には適当に誤魔化しながらやっていければいいと思っている多分一番多いパターンで。

 駒場はその頃からオープンだった。千田ではまだ聞く人がいないから答えないだけで、 勤めているS△放送では駒場がゲイだって事は知られている。 もし千田フーヅ内で誰かに聞かれても駒場は俺とのことを伏せつつも正直に返事をするだろう。


 けれど人ってやっぱり一人で生きていけるわけじゃない。 同性愛者でいる事は基本理解されないものだ。それに仕事をしていてもある年齢以上いくと、 既婚者でないと信用されにくくなる事も増えてくる。 フツーに親とかは、結婚しろだの孫の顔が見たいだの言ってくるし。


 Kさんはそんな社会にあわせてやっていくと決めていた人だった。 だからこのS市に来たときのKさんは、そんな本当の自分を隠していることに疲れきってもいた。


 今はもうそうは言わないだろうけどあの頃の駒場は若かった。 まさに愚痴をこぼしつつ”現地妻”を捜すKさんを姑息だと。 そういう生き方を選んだのは結局本人なんだから、 そのストレスを一時的に誰か都合のいい恋人を得ることで発散しようとするのはおかしいと。

 だけど俺はそんな風に駒場みたいに割り切って生きていけるヤツの方が少ないと思った。 そしてやっぱり今より若くてバカだった俺は、色々とそんなKさんの話を聞いていく内に────。



 期間限定だとわかっていて、でも、俺はそんなKさんと付き合うことにしたんだ。


 今になってみるとわかる。もしかしたら俺はむしろそういう期限付きの恋愛という 悲劇的なトコロに酔っていたのかもしれないって。あの頃駒場を随分キツイやつだと思っていたけれど、 実際はそんな不毛な恋愛ゴッコに浸っている俺をずっとたしなめてくれていたんだけれど。


 あたりまえだけどKさんは赴任期間満了であっさり東京に戻っていった。 それきり連絡もしないようにと約束までさせられて。


 俺はわかっていたつもりだった。Kさんの中で、同性愛者だけど家族は家族として大事で、 けれど男が好きだって言う本音を抑え通す事も出来ず、丁度いい逃げ道として俺を選んだだけで。

 そして俺は俺で寝ることと人付き合いは別と割り切って考えれるタイプの連中と、 自分も同じように割り切れると安易に考えていた。ほだされて付き合っただけだと、 期間限定でも平気なつもりだった。


 でも、駒場には気づかれた。利用されてバカだとかお人よしだ間抜けだと駒場はさんざん俺をこき下ろして。 俺は自分ではわりきった付き合いをしていたつもりでいたけど実際は 浅い恋愛ゴッコのつもりだったものにどっぷりとはまっていて。

 だけどそうやって傷口をえぐるみたいに酷いことばっか言ってたけど、 駒場はずっと俺の話を聞いてくれた。俺は気づけばヤツに甘えきっていて。



 流れで、俺は駒場と寝た。



 でも俺はようやくそれで目を覚ますことができ、どうにか立ち直った。 そのあとしばらく互いに気まずくなって少し離れたけれど、駒場と寝てしまった事も、 ゲイの知り合い同士が計りにくい互いの距離をウッカリ踏み込みすぎた程度に俺は考えていて。












 ────俺って、相当鈍い。


 あそこまで言わせて始めて気がつくとか、ありえあない。 じゃあナンだよ、もしかしてずっとアイツは俺のことを────。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ