温度差(2)
(2)
「で、何で陣内、オマエまでここに居るんだよっ」
「S△放送さんでしょ?ね、松本、エビちゃん来る?『昼ドキ!スタジオ!』の!」
「来ないから!っつーか『昼ドキ』関係ないから!!」
まぁテレビっつっても、CMでお世話になってる地元のテレビ局のS△放送というローカル放送局なんだけどね。 しかも向こうの担当の人は俺の知り合いで、これまでも何度かこの千田フーヅの広報にも出向いてきてくれた相手だったりして そんな大げさな話じゃないんだけど。
ただ、今回はちょっといつもと違って宣伝用のスポットフィルムの製作ではなく、向こうから持ち込まれた特集番組を組みたいという話だった。 あれ、ホラ、ガイアの何とか、とかプロジェクト何とかみたいな真面目な特集番組で、 集客施設に一軒の弁当屋が出来るまでの過程そのものを追う話を作るらしい。
そんなワケでカメラスタッフも入ってきていて広報周辺はちょっとした騒ぎになっていた。 社内のミーハーな面々が用も無いのに入れ代わり立ち代り広報に来ていて、 早速混ざってチョロチョロしていた陣内課長が松本主任に睨まれたりしていて。
「……及川、エビちゃんって?」
「あ、S△放送の人気の女子アナさんッス。」
で、俺はと言えば、広報から呼ばれて最上さんとここに来ていた。隣にいる最上さんがキンチョーした顔で小声できいてくる。
今回、S△放送のメインの取材対象は実は俺たちなんだと。こういう派手な話に千田専務もノリノリで、 あっという間にR駅ビルの担当者とも話を通してしまい、 これから店ができるまでの間S△放送の撮影スタッフが俺たちに同行することに決まっていた。
宣伝が大事な仕事だから仕方が無い。俺たちに断る権利など無く、いかにも目立つことが苦手そうな最上さんはかなり緊張していてガチガチ。 さっきから何度も額の汗を拭いていて、午前中だってのにもうハンカチがくしゃくしゃだ。
ちなみに俺は最上さんほど緊張はしていなかった。取材されるとはいえ別に付きっきりというワケでもないし、 俺は立場上補佐だからそんなに映されないだろうと思っていたからだった。 それにウチの地元は全国ネットの放送局はだいたい入っているので、地元の放送局を見ている人は少ないハズだし、 そんな気にすることもないかな、と。
「あ、『昼ドキ!』、ご覧になっていただけてるんですが、嬉しいナァ~。ステッカーあるんですけど、良かったら!」
「え、いいンですか?」
それより、補佐とはいえこれから仕事上新しく覚えなきゃいけない事が山積みで、その事で俺は頭が一杯だった。 そんな俺の横で今回はディレクターとしてやってきた俺の知り合いと、 すっかり和気藹々な雰囲気で陣内課長は名刺交換なんかしていたりしたわけだけど。
「すいません、お待たせして」
打ち合わせの時間になり、松本主任に追い出される課長。去り際、俺に目立たないように小さく手を振って。
何だかんだ言ってやっぱり緊張していた俺。お陰で気持ちが少し緩んで、その時は落ち着いて打ち合わせをこなすことが出来た。
その日の夕方、営業部(つっても広めのフロアに総務や人事と一緒にゴチャゴチャ並んでるだけなんだけど)の自分の机に戻ってみれば、 課長の机のレターケースに『昼ドキ!スタジオ!!』のステッカーが早速貼ってあった。
「本当にファンだったんスか」
「ええ?いいじゃない、エビちゃん」
シールベタベタって小学生じゃないんだからと突っ込むと、もう総務に怒られた、と、ニヤと眠そうな二重で俺の方を上目遣いに見て笑う課長。
「っつーか、お前S△放送のあの人と知り合いだったんだ」
「ええ、まぁ」
「名刺もらったって言ったらホリちゃんキャーッとか言ってんの。あの人イケメンだもんなぁ。」
そう言えば課長がウロウロしていたとき女子社員の後姿をチラっと見たけど、あれ堀さんだったのか。
今回S△放送からの取材の責任者が俺の知り合いで、名前は駒場という。 歩いていれば自然に女の子の視線が集まるようなイケメンで、出勤日じゃないはずなのに光江サンがいたのはそういう事だったのかと今更気がついた。
「誕生日とか、何歳なんだろう、とかホリちゃん俺に聞いてきて困っちゃったよ。俺の超個人的データベースはあくまで千田フーヅ限定なのに。」
個人情報が何たらと思ってる人もいるだろうけど、基本的に課長の社員の誕生日データベースに関して正面から文句を言う人は社内にはいない。 むしろあてにしている人もチラホラいるぐらいで、課長の小さな誕生日プレゼントもちゃんと相手を見てやってるので、 実際にプレゼントを貰っているパートさん含む社員はせいぜい半分ぐらいだろうと思う。
で、俺はその時。慣れない3階の店舗開発部から2階の営業に戻ってきてホッとしていたみたいで。 課長の顔が見れて気が緩んでしまったみたいで。
「あの人無理ッスよ。」
聞かれもしないのに、ついうっかり余計な口を滑らせてしまったんだ。
「───ああ、」
そこまで言って。すぐにハッと気づいて俺は口を閉じた。
───他の人に聞かれてもどうともとれる会話だったけど。
まぁ、つまり、その。駒場は俺と同じ、ゲイだっつー事なんだけど──────。
「ぁりゃ。ホリちゃん残念。」
やば。
課長以外の誰も俺らの会話なんて聞いてないだろうに俺は焦った。無用心な発言をしかけた事じゃなくて、 そのことで動揺を表に出した事に慌てたんだ。 もう彼女がいるとか既婚とかいくらでも当たりさわりない嘘で誤魔化せるのに。
自分の要領の悪さにあきれる。案の定気付いたみたいで、一瞬困ったみたいな表情を見せた課長。
でもそれは本当に一瞬の事で、課長直ぐにそこをさらりとかわして会話の流れを仕事に戻したんだけど。
言葉の本当の意味に気づいておきながら、そのままいつも通りのだらんとした雰囲気のポーカーフェイスを崩さないなんて、 まるで課長の方がゲイであることを自覚しながらずっと長く上手く世間と渡り歩いている人みたいだと俺は思った。 思って、自分のふがいなさに落ち込んだ。
またしても課長の小さな気遣いに助けられる俺。理解されてるからこそ得られるこの安堵感はヤッパ嬉しくはあるんだけど────。
何だかんだ言って課長も俺もする事が山積みで、その時の業務報告自体は脱線することも無く進んだ。 ついでに店舗開発でもう発生した権利関係のヤヤコシイ質問にも丁寧に答えてくれた課長。 まだ異動とかそういう話はないけれど、 俺はしばらく店舗開発だからプライベートの時間以上にこういう勉強できる機会を逃すわけには行かなかった。
けれどそう気持ち引き締めて真面目に話をしつつも、気づけば俺の目は課長の様子を追ってしまっていた。 課長の説明を俺がちゃんと理解したか確かめるようにこっちチラとか見てくる上目遣いの表情や、 夕方になって伸びてきた剃り残しを気にして自分のあごを指で撫でたりするしぐさがいちいちカワイくて。
あー、ホントに。なんだろう、この感覚。
俺はこの時、もっと遅い時間で俺と課長と二人だけだったら、こんな風に気を使ってくれる課長を抱きしめてしまうんじゃないかっていう強い気持ちを抱えて いた。
だけど、実際周りの皆が帰って、このフロアに俺と課長と二人っきりになったとしても、きっと俺は────。
課長が甘えさせてくれているけれど、この関係をもっと深くなんてのはやはり俺の一方的な願いであることは事実だから。
課長がこれだけ歩みよってくれているのに俺は落ち着けない。 あの日、課長が見せてくれたあの気持ちは嘘じゃない。けれど時間が経てば経つほど色々な事が不安に思えてきて。
俺は回りに人がいてくれて良かったと思っていた。これから忙しくなることにむしろホッとしていた。
近づきたいのに、怖い。
なんだろう、この心境。片思いでいた時のほうが、ずっと気持ちは楽だった気さえするなんて。
連絡事項は取り合えず一通り通し終わって、俺は今日はこれで終わりだけど課長はもう少し残るとかそんな話で。 いつもならじゃぁメシはどうしようか、なんてそんなタイミングだったんだけど。
「っ、と、」
「ん?」
その時だった。俺の携帯が鳴った。
「お、噂をすれば」
それは駒場からの飲みの誘いの電話だった。
さっきからの会話の流れから何となく気まずさを感じていた俺は一瞬戸惑った。 でも今このタイミングで電話が来るって事は結局仕事の話しかないはずなのだから、 誤魔化すのもヘンかと直ぐに駒場からの電話だと課長に伝えた。
「おう、エビちゃんのサイン駄目だったら、スタジオ見学させて、って頼んどいて!」
「そっちの方が難しいッスよ!」
営業トークと本音と受け狙いと。課長の本心を見極めようとしても無駄なので取り合えず俺も流れに乗る。
「Kべんとう」さんが撤退して我が千田フーヅの販売店が設置されるまであと2ヶ月。 俺は落ち着かない気分を抱えつつ、とにかく精一杯のことをやるだけだと気持ちを引きしめてその日社を後にしたのだった。
「何だよ、千田フーヅに直で迎えに行っても良かったのに」
「いや、うん、ごめん」
社と少し離れた交差点そばの公園を待ち合わせ場所にしたのは、万が一やっぱ目立ったら嫌だとか思ったから。
車は白のハイブリッドカーと目立たなかったけれど、やっぱ中身の駒場が目立っていた。 ツルに模様が入ってるサングラスとか、濃い色のシャツの襟から覗くネックレス、とか。 どれも実際は言葉で言うほど派手なデザインではないんだケド、中身が駒場なのでヤッパリ目を引いた。
車は一旦S△放送に向かう。I小路はそこから歩いてすぐなので、そこに駒場の車を停めて歩きで適当な店に行こうという話になった。
駒場と知り合ったのは数年前。俺が行きつけていたT市の店で、ヤツも常連客だったって事から。
色々あってあんまり連絡を取らなくなってたんだけど、去年別のコマーシャル映像の放送の関係で駒場が千田に来たときに会ってから、 度々メールぐらいのやり取りはするようになっていた。
「お前の会社、何だか楽しそうだよなぁ。」
「はは、そう言われても違うとか言えねー。」
簡単な仕切りがある程度だったけれど、席は少し広く間を取ってあって全体ゆったりした感じの店だった。
いいか?と言った風にシンプルなデザインの灰皿を駒場は自分の手前に持っていく。 こういう時本当に遠慮をして欲しいと言うパターンはあまり無いだろうけれど、駒場と、 あと陣内課長もきっと素直に灰皿をどけるのだろうとふと思う。
それにしても、駒場のヤツ形のいい指にシルバーの指輪をはめていて、こういうオシャレが板についていて本当に羨ましい。
「ディレクターとかって出世したじゃん」
「ただの何でも屋だよ。こき使われまくり。ここから上もネェし」
それでも実際に会って飲むのは久しぶりだった。互いの近況報告も絡めながらの仕事の話。 今日の打ち合わせで最上さんが事ある毎に自分にカメラを向けて欲しくないような事を言っていたことを気にしていて、 邪魔をするようなことになって本当に申し訳ないと再度頭を下げられた。
こういう仕事をしている連中って横柄なイメージがあるけど駒場の場合こんな風に腰も低い。 見えない努力をしているのだろうけど、最初から何でも出来るように生まれてきたみたいに何もかもに無理を感じさせない。 マジでドラマかなんかの主人公みたいで、どうして普通の人代表みたいな俺なんかと友達づきあいが続いているのか、 時々不思議に思ってしまうことも。
「…会わないと思ってたら最近店にも来ないんだってな、お前。」
まだ営業に配属される前、俺はかなりしょっちゅうあの店に通っていた時期があった。 社会人になってからのイッパイイッパイの生活でストレスが溜まっていたんだろうな。 その頃によく顔を合わせていた事からの付き合いだから、もう結構長くなるんだなと改めて思った。
ただ、こんな風にちょっと久しく会わなくても直ぐに今みたいに色々話せる仲ではあったけれど、 俺と駒場は恋愛関係にだけはなった事はなかった。見た目も中身もいいから男女関係無く駒場はモテる。 だけど本人が気になる相手とはなかなか上手く行かないようで、なぜか一人でいる事が多かった。 俺はそんな愚痴を聞かされる立場でいて。
こんな風にどうでもいいような時間を過ごすのが互いに楽しいから続いているんだろう。 まぁ、俺の場合敵わないとわかりながらも密かに無駄なライバル意識を抱いていたりもするんだけど。
「そう言えばどうなんだよ。まさかまだ例のノンケの同僚の事でウダウダ言ってんじゃナイだろうな」
「えーまぁ…うん」
適度に飲み進むうちにやはり話題は仕事からそれた。
実は以前俺はちょっと課長の事を駒場にこぼした事があって。モチロンはっきり誰とは言わず、片思いが苦しいってちょろっとだけど。
俺たち同性愛者にありがちな話で、ノンケ相手に片思いってのは避けて通れているやつっていないんじゃないかな。 で、好きになっちゃう事とかってホントどうしようも無いから、同じ仲間に「好きで苦しい」って零して「諦めろ」って諭されるとか、 「辛いよなー」と傷を舐めあうパターンとかあってさ。 よくある話って共感が得られればそれでよしって。
その時の俺も押すか退くかなんて答えが欲しかったわけじゃなくてただ聞いて欲しかっただけだった。
あれから嘘みたいな展開で課長と付き合えているけれど、マジでそれ以上どうこうしようとなんて全く考えていなかったんだから。
「しょーがねぇなぁ。お前は」
濁した俺の返事に駒場があきれたように煙とともに吐き出した。俺がまだウジウジ片思い状態にしがみ付いているとでも思ったんだろう。
実際にはその「例の同僚」と上手くいったことになるわけだけど。
別に駒場相手なら話しても問題は無かったと思う。 でも、俺と課長との間にある関係って何だか一言で言えない気がして、この時俺は誤魔化そうとか思ってしまったんだ。
「つか、お前こそどうなんだよ」
「んー」
駒場は駒場でだるそうに口の端を曲げて笑って、小さく首を振って。
この後、まさかあんな事になると思わなかったから、この時俺はマジで何でコイツにいい相手が現れないのかと心底同情していた。 駒場ならそれこそ選べる立場だろうにって。
よく外面がイイヤツの中には決まった相手と付き合うようになると態度が変わるのって居るけど、 この駒場に限ってはそういう裏があるタイプでもないし。 俺が駒場とよく話すようになったのも、決まった相手もなく一人で居ることが多くて話しかけやすかったのがきっかけだったからで。
その時だってそうやって自嘲気味に仕方ないって感じの笑みを浮かべる表情は絵になっていた。 こういう表情がなんか人のほっとけないとかそういう気持ちをくすぐるんだろうなーって感じで。
「って言うかさあ、お前も面倒なヤツばっか相手にすんのもう止めろよ」
「えー、また俺の話かよー…」
けれどそんな顔を見せておきながら、結局更に俺の話題へと話を切り返されてしまった。
基本俺はコイツに頭が上がらない。以前俺がちょっと問題ある相手と付き合っていて精神的にヤバイ状態だったときに、 ずいぶん面倒をかけたりしたことがあるもんだから。 今は思い出したくもないその頃の気持ちがよみがえって俺は返す言葉が出てこなかった。
駒場が新しいタバコに火をつける。気分を変えたかった俺は、なんとなくボックスタイプのその箱に手を伸ばした。
「え、吸うの?」
「いや」
ただ、箱がきれいだったのでなんとなく手に取っただけだった。 横に小さな字で健康とかナントカの注意書きとタールだニコチンだの含有量が書いてあるのをボンヤリとながめて。
「これ、多いのかな、ニコチンとか」
「……何と比べて?」
「…えー?」
薄っすら探りを入れるような駒場に俺も笑って誤魔化す。 俺みたいなのがコイツの勘の良さに逆らうのは難しい。
「お前ずっとこれだな」
おそらく俺に何かしらの変化が起こったと駒場はもう気づいていたんだろう。 メンソールと書いてあるその箱を返すと、なぜか嬉しそうともとれるような笑顔で駒場はそれを受け取った。
それきり会話が途絶えて。結局俺はただよう煙に課長のことを思い浮かべていた。 こだわりは無いのか、課長は特に決まった銘柄を吸ってはいない。 たまに買ってくるように頼まれても、何でもいいという一番困る答えが返ってくるんだ。
───平日ど真ん中の夜、課長は今頃何をしているんだろう。
「…今度の相手も家庭もってんの?」
「…って、お前なぁ…」
普通ならここまで突っ込んで聞いてくるなんて、随分失礼な男と思われるかもしれない。 だが、俺には前科があって、駒場はそんな俺のことを心配して先回りをしてくれているだけなんだ。
「独身ったってノンケだろ?」
「………」
「…まぁ、お前がそれで良いってんだからしょーがねーけどさ」
けれどやっぱり軽々しく課長のことを口にする気にはならなくて。
もともとベラベラ話すものでもないと思った俺は、強引に仕事の話に持って行った。 このまま話のネタにされっぱなしではこっちもしんどかったし、どうせ駒場もそのつもりで俺を呼び出したのだろうし、と。
今なら誰とも程よい距離感がはかれる駒場が、どうしてこの時こんなに俺の話しに食い下がってきたかはわかる。 けど、鈍感な俺はまったくそこに気づくことも無く。
実は俺もあまり写して欲しくないとか言う俺の言葉に「じゃぁ何を撮っていいんだよ!」、と大げさなリアクションで駒場が返す。 もちろん俺らの会社は仕事上とにかく宣伝が大事だから最上さんも俺も我慢しなければならないんだけれど。 あとは目立ちたがり屋の千田専務や派手好きの松本主任の言葉に素直に踊らされてくれるなというお願いなんかをしていくうちに、 その日はなんとなくお開きという流れになって。
「経験の浅い若い社員が失敗するってエピソードが入ると番組が盛り上がるんだけどなぁ」
「それマジでカンベン~」
別れ際、一応忘れずに陣内課長に頼まれた海老名アナウンサーのサインとかの話もお願いしておいた。 スタジオ見学まで安請け合いしていた駒場に、それだけ自由がきく分理想の仕事についた駒場を、 その日の俺は素直に尊敬半分羨ましい半分の気持ちで見送ったんだ。
翌週はもう本当に忙しかった。課長とは朝も顔を合わせられない事も多くて、殆どメールで連絡を取り合う状態だった。 おしゃべりな課長だが、メールでの長文は苦手みたいで(操作が苦手なわけではなくて、直接話が出来ないと落ち着かなんだそうだ)、 メールだと本当に素っ気なく事務的な文面しか来ない。なのでやり取りもほぼ仕事がらみの用件ばかりだった。
S△放送のスタッフは毎日いるわけではなかったので、取材そのものはそれ程ジャマじゃなかった。 ただ、いちいち広報を通さなければならなかった事で色々とかえって通りが悪い感じになっていた。 いっそ駒場と俺が直接とりあったほうが早いのに、松本主任がしゃしゃり出てきて手間を増やすんだ。 主任のこの性格はおり込み済みのつもりだったけれど、慣れない仕事でテンパッてる俺には結構厳しかった。
会えても殆ど課長とは仕事の話しかできなかった。俺の分の営業先を引き継いだ分、課長も忙しかったから。
そんな風にすっかりこれまでとは色んな流れが変わって、しばらく何日か過ぎて────。




