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5-6


 彩霞が少女の頭を撫でていると、突然身体に衝撃が走る。

 またか、とすぐに原因に至る。総悟と結が彩霞に抱き付いているのだ。総悟は彩霞の片膝に乗り、結は真横から首にしがみついている。

 先程まで彼らがいたところに視線を投げると杜樹と目が合い、彩霞は溜息をついた。


「……総、結。ほら、杜樹ならもうこっちを見てないから離れてくれ。でないと起きてしまう」


 そこでようやく彩霞の膝に頭を乗せて眠る少女に気付いたようで、渋々離れた。

 だがすぐに彼らの頭は切り替わった。


「腹減った! 俺も食べる!」


 総悟はおあずけを言い渡されたことをすっかり忘れたようで、籠に入っていた果物を彩霞に差し出してきた。

 しかし、それは花耶によって奪われる。


「残念。あんたたちはおあずけだって言ったでしょ」

「ずっりーぞっ、あいつらには分けてやったくせに!」


 子供たちではなく紅家の男たちのことを言っているようだ。


「あら、ランちゃんはいいって言ったもの」


 そこで彩霞はそういえば、と総悟たちとともに彼らに相手をしてもらっていた子らを探す。

 ちょうどこちらに寄ってくるところだったので、花耶を見た。


「まぁいいだろう、少しぐらい。他の子らも食べてないのだから」


 花耶は子供たちを見まわして、やがて渋々と頷いた。


「………時間的にもあんたたちは少しだけだからね」


 もうおやつという時間はとうに過ぎている。もう少しすれば日が暮れるだろう。彩霞は花耶と子供たちの賑やかな会話を聞きながら、その光景を眩しく見つめていた。



 早く終わりにしよう。彼女たちにとっても自身にとってもこれ以上、時間を延ばすわけにはいかないのだから―――。









 「――で、若旦那。あちらさんの動きは?」


 晶が分けてもらった果物を丸々一個食べ終わった後、歴が杜樹を見上げた。

 歴は杜樹のことを若旦那と呼ぶ。最初に止めるよう頼んだのだが、変わらないそれに杜樹は早々に諦めたのだった。


「今のところ何も。監視しているのは気付かれてますが、そんなに気にしていないようですし」

「どうする、李絳。こっちから出向くか?」

「……確かに里の中に入れるのは避けたいな」


 李絳は楽しそうに談笑している子供たちを見て目を細めた。

 蘇芳たちも視線を動かし頷く。彼らの大切な場所を荒らすことだけは避けたい。


「これ以上時間をかけるのもよくないだろうね」

「強い子たちだねぇ」


 杜樹が李絳たちの会話を聞いてふっと笑った。里の者たちを気遣ってくれることがとても嬉しかった。


「ありがとうございます。実のところ子供たちも最初はぐずっていたんです。特に小さい子たちだけですが、大人たちの様子から不安を感じ取ってしまうようで彼女に泣き付いていることがしょっちゅうで……」


 杜樹が眠っている少女と、その少女を膝枕している彩蘭を示す。

 蘇芳は、すかさず李絳が反応したことに苦笑する。


「子供たちを不安にさせないよう注意していたんですが、さすがに今回は長丁場になりそうだったので不安に思ったのでしょう。……ここの子たちは敏感な子ばかりなので」

「彼女は? すごい懐かれようですよね」


 蘇芳はちょうどいいと思い、何故か李絳の苛々の原因であり、自らの好奇心の対象である彩蘭について尋ねることにした。


「よく子供たちの面倒を見てくれているんです。この里にいるのは大人ばかりなので、また違った意味で安心するのでしょうね」


 ふぅんと蘇芳が再び彩蘭に視線を戻すと、彼女は森を見ていた。風が吹いているために木々の葉が揺れている。

 李絳がその行動に訝しげに同じ方を見ていた。

 すぐに逸らされた視線は穏やかな空気を纏って子供たちを見ていた。

 そして、膝に頭を乗せて眠っている少女の体を揺する。少女は目を擦りながら彼女に抱きつくが、後ろから伸びてきた手に抱き上げられる。

 少女はそのままその女性に縋りつき肩に顔を埋めた。再び眠りの世界に入ろうとしているらしい。


「もうすぐ日暮れなので家に帰さないと」


 そういえばそんな時間だ。辺りも昼間の明るさがなくなってきた。

 杜樹の言葉通り、子供たちはもう一人の女性に連れられて歩き出す。

 振り返りながら彩蘭に手を振っていると、彼女は笑みを返し子供たちに何かを言っている。

 その光景を李絳たちが何気なく見つめていると、先程歴と遊んでいた少年たちが木刀を拾ってこちらに走って来た。

 後ろから彩蘭もこちらに向かって歩いてくる。


「お、なんだなんだ」


 歴は笑って様子を見ているが、杜樹は溜息をついていた。

 やがて少年たち――正確には総悟だけが傍まで来ると、居丈高に言い放った。


「明日はまいったって言わせるからな! 絶対だぞ、ぜった、い……」


 最後はあまりに頼りなさげに声が消えていく。総悟の視線は歴の横に立っている杜樹に向いていた。

 睨まれながら殊勝にも目を逸らすまいと睨み返している総悟に、しばらくして小さな笑い声が割って入る。彩蘭だ。

 退き気味になっていた総悟が我に返ったように、踵を返した。結と同じように、彼女の後ろに隠れて顔を半分覗かせ杜樹を窺っている。

 その様子に再び笑みを浮かべると彩蘭は総悟たちの頭を撫でた。


「総、結。ほら、花耶たちに置いてかれてしまう。もう戻ろう」


 見れば女性が足を止めてこちらを見ていた。彩蘭がもう一度促すと、二人は木刀を渡し素直に背を向けた。

 彩蘭は李絳たちに軽く会釈をして二人の後に続いた。

 李絳は彼女の後ろ姿を目で追った。やはり何かが腑に落ちない。こんなにも気にかかるのは何故だろうか。

 李絳は正体不明の気持ちに眉をひそめるのだった。



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