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5-4




「――お? もう終わりか?」


 にやにやと腰を下ろしたままの歴が笑い、鞘に収まったままの刀を肩に乗せ、目の前の少年たちを見る。

 すぐにひっくり返っていた少年――総悟が起き上がり、木刀を歴に向けた。


「お前! ひきょうだぞっ! 立ってたたかえーっ!」

「卑怯っていうのは一人相手に二人同時に攻撃してくることだろ」

「……お前、子供相手に容赦ないな」

「なんだよ。手加減してるだろ」

「……そんなことは当然だ。――まあいい。怪我する前にやめてやれよ」

「おい、結! はやくおきろっ! そんなんじゃあの兄ちゃんにまいったって言わせられないだろっ」

「……でも、ぼくもうつかれた……っ!」

「つかれたじゃないだろっ!」

「あっはっは!」


 いまだ座ったままの少年――結は頭に拳骨を落とされる。

 それを見ていた歴が笑う。




 矢神の里に到着して二日目の今日、李絳たちは矢神家の離れの裏庭で里の人々と交流していた。

 離れの裏に出るとそこは一面に芝が生えていて、小さな運動場のようになっているのである。

 非常事態であるはずの彼らは何故か和気藹々としている。

 歴たちの人柄もあってか意外とすんなりこの里に受け入れられている。

 そんな中、歴は木刀を持った子供たち相手に稽古をつけている。

 午前中に大人たち相手にしていたのだが、それを見ていた子供たちが自分もやりたいと騒ぎだしたのだ。

 昼食を貰った後で押し掛けられ、歴は二つ返事で了承したのである。


「すみません、子供たちの相手まで……」


 申し訳なさそうに顔を見せたのは矢神家の一人息子だと紹介された、杜樹(とき)である。

 言いながら近づいてきた彼に蘇芳が笑う。


「気にしないで下さい。歴は好きでやってますから」

「ありがとうございます。おかげで子供たちも楽しそうで良かったです。……まぁ、良すぎるのもいますが」


 苦笑して、杜樹は歴に相手をしてもらっている総悟と結を見る。


「あはは、人一倍元気ですよねぇあの二人」

「ええ。あの二人は子供たちの中でも年長で、普段は他の子の面倒を見てくれて。他に年が近い人間は彼女だけになってしまいますから、貴方方に会えて嬉しいのでしょう」


 杜樹の視線が総悟たちの後方へ移る。李絳たちもそちらを見て納得した。

 総悟たちの後方には他の子供たちと木陰に女性が二人、のんびりと談笑していた。

 子供たちは各々、昼寝をしたり、適度な距離を取りつつ歴たちの格闘を見て瞳を輝かせていたり、女性たちとともに果物を食べていたりと自由に振舞っている。

 二人の女性のうち杜樹が言っていたのは、先日李絳たちと森で遭遇した彼女である。

 矢神家に居候している彼女は名を彩蘭(さいらん)と言うらしい。


「きれいな子だよねぇ」

「かわいい子だよねぇー」


 視線を移して、蘇芳と晶が同時に呟いた。二人は顔を見合せ、お互いの感想に笑った。


「どっちも似合う言葉だね」

「整った顔立ちしてるもんね」


 李絳はそんな二人に呆れつつも、顔をしかめる。

 彼女を見ると、何故か落ち着かない気分になる。そしてだんだん苛ついてきて、無視したくなる。

 それなのに李絳は彼女を意識から追い出せない。先程までも、李絳は何故か気付くと彼女を見ていたのである。


 ――なんなんだ、一体。


 妙な胸騒ぎが李絳の心に植え付けられたままなのだった。


「あっはっは! 懲りねぇ奴らだな」

「まだまだだ! おれはまだまけてないぞっ!! あ、こら結! 座るな!」


 李絳はそんな元気な声に思考を引き戻されると、歴たちに溜め息をつき、周りで楽しそうに笑っている子供たちを見た。

 子供たち――ほとんどが孤児だったらしい――は、不安なんて感じていないというように今は笑顔を見せている。

 李絳はこんな日が続けばいいなと思う。そのためにも早く賊との決着をつけよう、そう改めて思い直すのだった。



 ふと、総悟の視線が李絳たちに向く。


「――げ、杜樹の兄ちゃん……!」


 杜樹を見つけて明らかに態度が一変した。しかし、怯えたように半歩下がった結とは別に、総悟はすぐに気を取り直して木刀を振った。


「ま、まとめてたおしてやる! まいったって言わせてやるんだからなっ」


 わずかに声を震わせて言う総悟に李絳が首を傾げて杜樹を見た。

 総悟と杜樹を見比べた歴が面白そうに笑う。


「何したんだ?」

「いえ、この二人にはいつも手を焼かされてまして。――いつも悪戯ばかりで先日も言いつけを破って里の外に出ようとする始末。……どうしてくれましょうかねぇ」


 杜樹が二人を見ると耐えられなかったのか、やがて逃げるように女性たちの輪へ走り寄って行った。

 一体彼らに何をしたのだろうか、と李絳と歴が杜樹を見つめていると杜樹が笑みを浮かべたまま振り返った。


「私に捕まるのが嫌で逃げて行くんですが、結局は身動きのとれない場所へ逃げるので助かります」


 ぞっとして李絳が何も言えずに杜樹を見つめているが、隣ではかすかに吹き出すような気配がしたのだった。







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