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5-3






 ――本当に残酷な人たちだ。


 同時刻、彩霞は窓から見える夜空に冷たく笑った。

 雲がないおかげで星も月も綺麗に夜空を飾っている。

 彩霞は、ふと、側にある手紙に視線を落とす。そして、昼間出会った彼らを思い出す。


 ――あの人たちの息子、か……。


 紅家当主とその側近。久しぶりに聞いた彼らの名に心が波打った。同時にどうして、と叫びたくなり慌てて抑え込んだ。


 ――私はまだ、期待しているのか。


 彩霞は自嘲するように小さく息をつき、彼らの息子たちを思い浮かべる。五人とも線は細かったがよく鍛えているのがわかった。

 紅李絳(こうりこう)と名乗った彼は物腰柔らかで丁寧な当主とは似ても似つかない粗っぽさがあり、素直そうに見えた。

 紅蘇芳の方は何もかもを娯楽に受け止める彼の父に似ているが、どこか怠惰な雰囲気を漂わせているのが見てとれた。それでいて、意外と冷めたような印象を受けた。

 他は物珍しそうに彩霞を見ていた男が二人に、これまた冷めたような呆れたような雰囲気を持つ男がいたが、彩霞は誰にも興味を抱かなかった。

 彩霞が彼らに抱いたのは、落胆だけ。何も知らされていないだろう彼らに、ひどく落胆したのだ。

 彩霞はじっと見つめていた手紙を手に取った。

 悸暎に渡された時から開けずにいたが意を決して開く。


「――――」


 文字を見た瞬間、嬉しいような悲しいような何とも言えない感情が心に湧き上がる。

 気を緩めたら涙が溢れそうで、彩霞は必死に堪えていた。


 『必ず星は巡るぞ』


 それでも、懐かしい筆跡に心が震える。そして、その内容に顔を歪ませる。

 たった一行、たった一言のみの手紙。それは確かに、彩霞を育てた人のもので。

 心の中でその名を紡げば暖かくもなり嬉しくもなり、そして同時に、大きな波紋を呼ぶ。波紋は不安定にその波を伝わらせ、微かな揺らめきを残して消えていく。


 ――どうして。


 昔から変わることのない彼らの存在。それは、彩霞の心をいつでも苦しめる。

 ずっと長い間、彩霞の望みのままに彩霞を放って置いてくれた彼ら。

 それなのに何故、今になってこんなものを送ってくるのだろう。

 何度も彼らに対する感情を消そうとした。

 どんなことをしても返せないくらいの想いを、恩を受け取った。

 それなのに彩霞は自分勝手にもほどがあるだろうというくらい何度も彼らへの想いを消そうとした。


 ――これは罰なのですか、お祖父様。


 この苦しさも悲しさも切なさも。この嬉しさも喜びもいとおしさも。

 あらゆる感情すべてを捨てようとした彩霞を、まるで許さないと言うかのように彼らはその存在を彩霞に刻み付ける。

 いつもいつも、結局のところで彼らが――もしくは彼らに連なる人たちが、邪魔をするのだ。

 彩霞は溜め息をついて空を仰ぐ。


「……やはり、私の望みを叶えてはくださらないのですね」


 彩霞が小さく口にしたのは今ここにはいない彼らへの切ない問いかけだった。





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