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結局、藍家の生き残りに関することはほとんど教えてもらえず、祖父に対する愚痴を聞かされて悸暎との対面は終わった。
「悸暎殿は長春様だけじゃなく藍夏崔様とも親しかったんだねぇ」
楽しそうに笑ったのは晶である。
悸暎の話の中で長春とともに度々上がる名は藍家の先代当主のものだった。二人は当主を継ぐまで各地を転々としていたらしい。
悸暎の話は李絳にとっては笑い事では済まないものばかりだった。
「……胃が痛い」
「もしかしなくても、他の先代様たちとも知り合いだったりしてー」
「その可能性は高いな。てか、そう考えると、藍家の生き残りって奴も先代たちと知り合いかもしれねーぞ」
李絳が頭を抱えている傍らで、歴も笑う。
現在彼らは矢神家に与えられた客室で休んでいた。
もう時刻はすでに夜中。今日という日が終わろうとしている。
「やっぱりかなりの重要人物だよね! ね!」
「もうその線は濃厚だな」
「でも何も教えてくれないってことは、本人から口止めされてると考えていいよね」
「つまり俺たちの前に出てくるつもりはないと」
「そういうことだね」
蘇芳と秀も加わって李絳の予想を断定していく。それと比例して機嫌も悪くなっていく。
蘇芳たちはそれを気にせずにさらに李絳を悩ませるような話を続けている。
「これはますます厄介だね」
「長春様だけでなく、他の先代たちとも交流があったと思われる賢者と呼ばれる一族の生き残り、か」
「武人としての実力もありそうだよね!?」
「どーすんだよ、連れて帰らなきゃいけないんだろ?」
「説得するの大変だろうね」
「その前に会ってくれるかなぁ」
李絳は早々に心配しているようで本当は面白がっている蘇芳たちを無視することにした。
そして、話の終わりにかけられた悸暎の言葉を思い出す。
『傷つけないという言葉、決して忘れるな』
悸暎は確かにそう言った。
始めはただ単に藍家の人間を心配しての言葉だろうと思った。だがよく考えれば、李絳が咄嗟に相手を傷つける可能性があるからこその言葉だとも取れる。
しかしこの里――悸暎たちにとって藍家の人間はとても大切な存在で、それは相手に悪意がないからだともわかる。
それならば李絳が傷つけるような要素は一つもないと思うのだが、李絳には悸暎の言葉が気になって仕方がない。
――何を警戒してるんだ?
疑問に思うことは他にもある。
何故頑なに情報を制限するのか。
何故自分に迎えに来させたのか。
何故保護しているのに姿を見せないのか。
思えばおかしなことばかりで何一つはっきりしていない。
李絳はそれらの疑問に頭を捻りつつ答えが出ないことにさらに頭を悩ませるのだった。




