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5-1



「おい、あの手紙……」

「出がけに父さんから渡された。中身は見てないからわからないよ」


 訝しげな李絳の疑問にあっけらかんと答えた蘇芳に溜め息をつきつつ、里の人間の動きを待った。

 その後、杜樹(とき)と名乗る男に迎えられ、里長に引き合わされた。

 そして現在、李絳たちはその里長である矢神の主人悸暎(きえい)と対峙しているのだった。


「…………」


 李絳は姿勢を正したまま悸暎が口を開くのを待っていた。

 蘇芳たちも、側で姿勢を正している。

 李絳は先程からこちらを見つめたまま動かない悸暎を前に、初めて会う人間であるはずが、なんだか違う気がして落ち着かなかった。

 何故だか色々なことを知られている気がして、冷や汗が浮かぶ。

 そんな李絳の心中を察しているのか、悸暎が呆れているようにもとれる溜め息をついた。そして冷めた瞳で李絳たちを見る。


「とりあえず、賊対策として来ていただいたことには礼を言います。ですが私としてはそれほど賊に重きを置いてはいません」


 やっと口を開いた悸暎の言葉に、李絳は一瞬首を傾げかけた。しかし、すぐに別のことに思い至り、気を引き締めて悸暎の言葉を待った。

 冷静に李絳を観察している彼には誤魔化しは効かない。


「単刀直入に訊く。――あのお方をどうするつもりだ」


 低く喧嘩を挑むような声音は、それだけで”あのお方”を守ろうとしているのだと十分理解できる。

 そして、悸暎の求める答えは李絳の本心だと嫌でも伝わってくる。


「俺はその人を傷つけるようなことはしたくない、です。……父からも保護するようにと言われています」

「……保護、か。それが容易にいけばこちらとて安心だというのに」


 李絳の言葉に、悸暎が溜め息をついた。

 訝しげに李絳が悸暎を見るが、その真意は探れない。

 そして、ふと父からの手紙の内容が気になる。父の方から何も説明はなかったのだろうか。


「あの、父からは何か……」

「ああ、あの文は私宛ではない。それどころか、梨淑(りしゅく)からでもなかったな」

「……はい?」


 あからさまに顔をしかめた悸暎のその言葉に、李絳だけでなく蘇芳たちも首を傾げている。


「……やはり何も聞いていないのだな。――あの文は長春(ちょうしゅん)からあの方へ送られた物です」

「――――」


 思わぬところで先日の憶測が肯定されて、李絳たちは言葉を失う。

 その上出てきた名に、李絳はようやく先程の違和感の原因に気付いた。


 ――紅長春(こうちょうしゅん)


 李絳の祖父にして、紅家の前当主。その座を退いた今もなお、その存在は多大な影響力を持つ。

 李絳としては自分勝手なだけだろ、などと思うところはあるが、すべてを否定出来るほど認めていないわけではなかった。

 やはり祖父の昔話を聞かされると、誇りにも思うし尊敬もしている。しかし、子供の頃から与えられ続けている苦労のせいで、それを素直に認められずにいるのだ。

 そんな祖父の知り合いは癖の強い人間ばかりであった。

 目の前の人物もまず間違いなくその類いの人間だと感じたから李絳は落ち着かなかったのだ。

 そして、それは例の人――藍家の生き残りという人にも言えるわけで。


「ええと……その人ってじじい――祖父とはどういう知り合いなんですか?」


 聞きたくもないが知っておかなければならない。


「……さぁ、どうでしょうね」


 しかし、悸暎の返事はそんな適当なものだった。





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