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総悟と結が無事であることには気付いていた。彼らと鉢合わせする少し前から様子を窺っていたのだ。
彩霞は総悟たちを見つけるよりも早く李絳たちの存在に気付いた。それは総悟たちが森の中を真っ直ぐ歩いていなかったから知り得たことなのだが、幸いなことに総悟たちが彼らの方へと歩いていたために様子も窺えた。
彼らが紅家の人間であることにはすぐに気付いた。雰囲気も身体の些細な動きもよく鍛練された武人そのものだったからだ。
彩霞自身が武芸に秀でているからこそ、彼らの実力もわかってしまう。
そして、一番の確信となったのが最大限の注意を払って近づいた先で見た男――。
―――何故。
そう思わずにはいられなかった。
彩霞はその後すぐにその場を離れ、総悟たちが彼らに接触した直後に偶然を装って近づいたのだった。
「ねぇちゃん……?」
不安を浮かべた声音に我に返ると、総悟と結が彩霞を見上げていた。いつの間にか彼女は立ち止まっていたらしい。
「……おこってる?」
今度は結がおずおずと訊いてきた。彩霞は二人の目線に合わせるように膝をつく。
「……そうだね、少し怒ってるかな。あれほど危ないことはしないようにと言っただろう?」
「でも」
「総悟、結。大丈夫だから、今回のことは大人に任せるんだ。みんなこの里を守るために頑張ってる。紅家の人たちも来てくれただろう? だから、大丈夫だ。お前たちが心配することはなにもない。この里は決してなくならない――お前たちの居場所はぜったいに無くならないよ」
安心させるように微笑んで、最後の言葉を一際ゆっくりと、心に刻み付けるかのように告げる。
総悟たちは怖かったのだ。やっと得られた大切な場所を、家族を奪われることが。
不安に刈られて、どうにかしなければ何もかも失ってしまうと行動した。それほどまでに総悟たちは追い詰められていたのだ。
だから彩霞は安心させるように、希望を持たせるように、はっきりと優しく諭すように言葉を紡ぐ。望んでいるであろう言葉をそのまま口にする。
「大丈夫。この里はお前たちのものだ。里のみんなのものだ。絶対なくなったりしない。誰もいなくなったりしない。誰もお前たちの居場所を取り上げたりしない。大丈夫だ。それに、すぐに自由に遊べるようになる。そのために紅家の強い人たちが来てくれただろう? 大丈夫、すぐに元通りになる。そしたらまた大人たちに頼んで、川に連れて行ってもらおう」
繰り返しそう告げると、総悟と結は泣きそうな、それでいて少し安堵したかのような表情で頷いた。
抱きついてくる二人に、もう大丈夫だな、と彩霞は息をついた。抱き締め返してやりながら、落ち着くのを待つ。
「みんなお前たちのことを心配しているよ。花耶は泣いていた。きっとすごく怒ってるぞ。早く戻って安心させてやろう」
二人の 養母の名を出すと、今度は別の意味で落ち着かなくなった。
「な、泣いてたって」
「ああ、あの花耶が泣いていたぞ? すごく心配していた」
普段はとてもしっかりしていて、矢神家主人の奥方木蘭とともに里の女性陣を纏めている彼女が取り乱していたその様子は、二人への深い愛情が窺えた。
「も、戻るぞ、結っ!」
「う、うんっ」
さすがに泣かせるほど心配させたのは不味いと思ったようで、忙しなく動き始める。
彩霞は二人の慌てように小さく笑い、ふと今まで歩いてきた道を振り返る。
ここからでは紅家の人間たちは見えない。しかし、彩霞の頭には彼らの顔がはっきりと浮かんでいる。
――何故、彼らなんだ。
彼らの顔を思い浮かべるだけで、疑問がつきない。答えを得られるわけではないのに――否。答えはわかっているのに、彩霞の疑問はつきないのだ。
そして、彩霞の思考は行き場のない疑問の渦へと嵌まっていくのだ。
そんな自身に自嘲の笑みを浮かべると、彩霞は総悟たちに急かされ再び足を動かし始めるのだった。




