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4-6



 李絳たちは、森の中に子供がいる光景に先程までの緊張を解いた。

 少年二人はこちらには気づいていないが、李絳たちのすぐ傍にいる。


「でもなんでこんなとこに子供?」


 口を開いたのは歴である。


「今出入りできないんじゃ……」


 蘇芳が言いながら、二人の子供に目を向ける。彼らは李絳たちよりも里側――森の奥から歩いてくる。


「……ね、ねぇ、総悟……や、やめようよ」

「やめない! おれたちでしょうめいしてや………!!!」


 しばらく様子を見ていると、すぐにこちらに気付き、李絳たちを見つめたまま、何も言えずに固まった。そして、我に返ると今度は怯えながら警戒し始める。


「お前ら、この里の子か? 丁度良かった。俺ら紅家から来たんだけど、……聞いてる?」


 歴が笑顔で話しかけると、二人は微かに反応を見せた。“紅家”という言葉を聞いて、今度は探るようにこちらを見ている。

 その反応に、歴は李絳たちを振り返る。


「紅家って評判悪いの?」

「…………なんでそうなる」

「まぁ、どう感じるかなんて人それぞれだからねぇ」

「お前は否定しろよ!」

「でもさ、この場合、警戒してるのは賊の方じゃないの? 僕ら一応賊退治に来てるんだし」

「おい、お前ら……」


「……こ」


 李絳を無視して話を進める歴と蘇芳に、李絳が声を上げかけたところで、小さな声が割って入った。


「こ……?」


 李絳が首を傾げて、二人の子供へと視線を向ける。一人が後ろを振り返っているので、声を発したのがそちらの少年だと分かる。


「こ、紅家って、えと、じゃぁ、つ、つよい、の……?」

「結!」


 間髪入れずにもう一人が怒鳴る。


「……っ、だ、だってっ、紅家って、いい人たちなんじゃ……」

「こいつらがほんとに紅家の人間なのか、わかんねえだろっ! それに、いばってるやつなんていやなやつが多いんだぞ!」



「……っ」



 その時、李絳は聞き逃さなかった。傍にいる蘇芳に視線を向ける。そこで彼は、口元を覆い、肩を震わせていた。

 蘇芳は少年の言葉を聞くと同時に噴き出し、笑いを堪えているのである。

 見れば晶も歴も面白そうに少年たちを見つめている。秀はもはや知らないふりである。

 李絳が、それらに眉を寄せたところで、少年の矛先がこちらに移った。


「それに紅家って金持ちなんだろっ。あいつらのどこが金持ちに見えんだよ! それにぜんぜん強そうに見えない! ひょろひょろでへなちょこだろ!」


 どうやら屈強な男たちを想像していたらしい。だが、李絳たちは言うほど細いというわけでもない。ただ、少年たちの想像が大袈裟なものだっただけである。


「……っ、っく……」

「おい、一体どこが笑えるんだよ。貶されてんだぞ」


 李絳が蘇芳を見るが、彼の笑いは別のところに向けられているらしい。


「いや、っだってさ、っぶくくっ、あ、あの子、李絳の子供の頃そっくりだよ……っ!」

「何、あの怒鳴ってる方?」


 途切れながら発せられた言葉にすかさず食いついたのは歴である。歴はいまだに騒いでいる子供の方を見て、にやりと笑った。


「へぇ」

「おい、」

「いやー、子供の頃さ、一時期だけ李絳が追っかけてた子がいてさぁー、その子見かけると必ず騒いでて」

「一方的に?」

「そう」

「……おい、」

「そっくり、そっくりだよ。ほんと、…っそっくり、……っ」


 だっはっは、と今度は声を出して笑い始めた蘇芳に、少年たちの会話が止まる。

 腹を抱えている蘇芳に李絳は顔をしかめるが、なんとか怒りを抑え込む。くそっ、と悪態をついただけで済んだのは、別の気配を感じたためだった。

 同時に蘇芳たちも気付いたようでそれまでの空気ががらりと変わった。

 李絳たちの表情の変化に少年二人が怯えたように口を閉じた。


「歴」

「はいよ」


 李絳の呼び掛けに歴が動く。少年二人を抱えてその場を離れる。口をふさがれたために少年たちは声も出せない。

 歴たちの気配がこの場から離れたことを確認すると同時に、別の気配が近づいてくる。

 近づいてきた足音がふいに止まり、再び聞こえてくる。それはこちらに進むのを躊躇うかのようなゆっくりとしたものだった。


「……誰だ?」


 李絳の小さな問いにやがて姿を見せたのは、一人の少女だった。




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