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「――聞いてたとおり人っ子一人出入りしてねぇな」
歴がそう言いながら戻ってきたのを、李絳は溜息で迎えた。彼らは今、矢神の里の南側、程よく離れた場所に待機していた。
紅家を発って七日が過ぎていた。とりあえず賊がいる場所から離れた道を進んで、彼らはまったく逆方向の南側にある川から少し森に入った場所に落ち着いているのだ。
「今度は何で溜息ついてんだよ、李絳」
李絳の態度に気を悪くもせずに、歴は笑った。
彼は森の奥――里の周りの様子を窺いに行って返ってきたところだった。
歴の問いに李絳が答えるよりも早く蘇芳が溜息をつく。
「それうっとうしいから止めてくれない? それよりどうするか考えてよ。これじゃほんとに不法侵入だよ」
座り込んでいる李絳に冷めた視線を送ると蘇芳は歴に向き直った。
「それで、人っ子一人いないってどーいうこと? 見回りなりなんなりいるもんじゃない?」
「だから、見回りすらいないみたいだったけど? 俺が見たとこらはね」
「賊がこちらにはいないからじゃないのか」
秀が口を挟むが、半信半疑のようだった。蘇芳と歴がはっきりと否定する。
「そんな不用心なことしないでしょ」
「頭の回る藍家の人間がいるなら、気付かれずに見回りしてるってのもあんじゃね?」
「気付かれずにってどうやってさ。ってそんなこと話してる場合じゃないでしょ。このままここにいたら賊の方にだって見つかるかもしれないだろ」
「李絳、梨淑様に何か言われてないのか」
秀の問いに李絳は数拍黙考し、嫌そうに顔をしかめた。
「あーなんか近くの里に人置いとくって言ってたぞ。事が済んだらそっちに任せて帰ってこいだと」
「藍家の人間を連れて?」
蘇芳が付け加えた言葉に李絳が曖昧に頷く。すると蘇芳が、心底馬鹿にするような表情で李絳を見た。
「まだ考えてんの。もう諦めてよ。長春様に関わらないようにしても、結局は上手くいった試しがないんだから」
これに頷いたのは秀だった。ふらふらとあちこちを行ったり来たりしている歴と晶を呆れたように見て、李絳を見た。
「そうだな。つか話がずれる。どうする。人を捕まえるしかないが、近くに誰もいないならこっちから入ってくしか……」
ふいに秀の言葉が止まる。同時に李絳たちも表情を変えた。李絳が立ち上がると、歴や晶も警戒しつつ戻ってくる。全員の視線が里がある方向に注がれている。
一早くその正体に気付いたのは、歴である。
「子供……?」




