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4-2



 同時刻――彩霞は矢神家の縁側で柱に寄りかかるように座り、空を見上げていた。視線を庭に移すと池の前で総悟と結が何やら小声で言葉を交わしている。その内容は、手にしている道具でおおよそ理解できた。彩霞は苦笑して彼らの行動を見ていた。


 総悟と結は孤児だった。いつだったか、二人は同時期にこの里に連れてこられた。どういう経緯でここに来ることになったのかは知らない――聞かなかったのだ。現在は里の人間に引き取られ家族がいる。

 彩霞が彼らに初めて会ったのは、彼らがこの里に来てしばらくしてからだった。いつものように悪戯を繰り返していたところを、悸暎が見かねて説教している最中に彼らを見かけたのだ。その後、何故だか懐かれて頻繁に彩霞のもとに訪れるようになった。

 相変わらず悪戯もしているため、頻繁に追いかけられている姿が見られるが、皆微笑ましく思っていた。彩霞は巻き込まれることも多々あるため、いつのまにか彼らの見張り役になっていた。


 池に向かって糸を巻きつけた棒を振り下ろす総悟とそわそわと池を覗き込んでいる結を見ながら、彩霞はふと別の気配を感じて溜息をついた。


「こら―――! そういうことは川でやりなさいって言ってるでしょ!」


「うわっ、うるさいのがきたっ!」


 手にしていた棒を放りだすと二人は彩霞に向かって突進してくる。縁側に上がり込んで彩霞越しに浅羽を見る。浅羽は二人ではなく彩霞を睨んだ。


「姫様、釣りは川でって言いましたよね!?」

「今まで一回も釣れたことないだろう?」

「そーいう問題じゃありません! 庭で釣りなんてさせないで下さい!」

「今は外に出れないからここでもいいだろう。だいたい今更だろう?」

「別の遊び場を探してください! まったく、毎日ここでごろごろして……」


 一番言いたいことは最後のことらしい。ここのところ出歩かずに矢神家にいるから子供たちが集まると言いたいのだ。


「別にいいんですよ、子供たちが集まるのは。ただ――決まって問題を起こすそこの二人がいけないんです!」

「最近は何もしてないだろう?」


 彩霞が二人を見ると首を振っていた。なら何を、と浅羽を見ると冷たく二人を睨んでいた。


「何も…してない、ですってぇ? 昨日片づけておいた納屋の中をめちゃくちゃにしてくれたのはどこの誰だったかしら。その上片づけ直したばかりだというのに、今もひっくり返してくれたのは誰かしらねぇ……」


 早口で言いひきつった笑顔を見せる浅羽に二人は飛び上がる。ああ、と彩霞は納得して溜息をついた。

 有無を言わせず浅羽に連れていかれる総悟と結を見送りながら、彩霞は再び溜息をつく。

 しかし、無理もないことだとも思う。子供らは三か月近くも里の中に閉じ込めているのだから――。


 初めに彼らに里の外、すぐそばの遊び場を見つけてやったのは彩霞だった。大人を連れていくことを条件に悸暎たちにも納得させて、よく子供たちを連れていった。里の大人たちは快く協力を申し出てくれたので、彩霞が面倒見切れないときは付き添ってくれていた。

 それまで総悟たちとともに悪戯ばかりしていた子供たちは喜び、悪戯もしなくなった。おそらく悪戯することで憂さ晴らししていたのだろう。

 しかし現在、自由に遊べていたものが、今回のことでそうもいかなくなったことは子供たちには苦痛になった。だが、もとより聞き分けのいい子たちだった。無理強いしない限り、彼らは従ってくれる。危険がどういうことか理解して、言葉を聞いてくれる。だから、子供たちは大人しく里の中に留まっていてくれる。


 彩霞はふと別の気配を捉えて、うんざりする。

 しばらくすると前方から悸暎の息子、杜樹(とき)が歩いてきた。見回りをしていたのだろう。腰に刀を佩いている。


「――姫様。……そんな嫌そうにしないでくださいよ」

「私に報告はいらない」


 苦笑した杜樹に彩霞はつれなく返す。だが杜樹は慣れているために気にしない。


「そう言われても父の指示もありますので、お許し頂きたく」


 彩霞は杜樹を一瞥して、息を吐いた。そして、先を促した。


「例の賊のことですが、ここのところ北側をうろついているのを見かけています」





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