第5話 止めた者
第5話 止めた者
来た。
五年前。
自分が残した予告。
日付。
時刻。
場所。
そのすべてを知らせたうえで。
なお。
誰も来ない可能性はあった。
止める者など。
最初から存在しない可能性もあった。
それでも。
男は。
予告を残した。
そして。
今。
来た。
◇
「…………」
男は。
画面を見つめていた。
セミ怪人は。
すでに。
予定された場所にいる。
五年間。
地中で待たせた。
時が来て。
地上へ出た。
羽化した。
成虫となった。
そして。
五年前に決めた。
その場所へ。
その時刻に。
送り出した。
途中。
予定外の出来事はあった。
幼虫体の段階で。
二人の人間に見つかった。
一人は。
始末したと判断した。
もう一人は。
逃した。
長い髪。
赤いスカート。
それだけを手掛かりに。
シロアリたちは。
今も。
その目撃者を探している。
だが。
それは。
今ここで進んでいる計画とは。
別の問題だった。
◇
セミ怪人が。
動く。
腹部のスピーカーが。
低く震えた。
次の瞬間。
音が放たれる。
空気そのものが。
押し広げられるように揺れた。
目には見えない。
だが。
確かに。
そこに力がある。
空間を震わせ。
周囲へ広がっていく。
五年前。
まだ幼虫体しか存在していなかった頃から。
想定していた。
成虫の力。
「…………」
男は。
その様子を。
黙って見ていた。
動作。
反応。
出力。
問題はない。
成虫として。
予定していた能力を。
発揮している。
だが。
成功。
そう判断するには。
まだ早い。
なぜなら。
来たからだ。
◇
止めようとする者が。
◇
「……来たか」
男は。
もう一度。
静かに呟いた。
喜びはない。
怒りもない。
少なくとも。
表情からは。
何も読み取れない。
ただ。
見る。
自分が作ったものと。
それを止めようとするもの。
二つの存在が。
今。
ぶつかろうとしている。
◇
五年前。
予告を書いた。
計画を成功させることだけを考えるなら。
そんなもの。
必要なかった。
何も知らせず。
突然。
始めればよかった。
日付も。
時刻も。
場所も。
誰にも教えず。
ただ。
その瞬間が来たら。
実行する。
そのほうが。
止められる可能性は。
はるかに低くなる。
それを。
男自身が。
誰よりもよく分かっていた。
それでも。
知らせた。
日付を。
時刻を。
場所を。
そして。
五年間。
考える時間まで。
与えた。
止められるものなら。
止めてみろ。
そういう挑発だったのかもしれない。
だが。
それだけではない。
心のどこかに。
もっと。
認めたくないものがあった。
◇
誰か。
止めてくれ。
◇
自分で始めた。
自分で作った。
自分で送り出した。
それなのに。
誰かに止めてほしい。
矛盾している。
身勝手だ。
馬鹿げている。
そんなことは。
五年前から。
分かっていた。
だから。
口にはしなかった。
誰にも。
言わなかった。
ただ。
予告という形で。
可能性だけを。
残した。
◇
そして。
今。
その可能性が。
現実になっている。
◇
戦いが。
始まった。
◇
男は。
画面から目を離さなかった。
セミ怪人が攻撃する。
相手が応じる。
動く。
かわす。
ぶつかる。
離れる。
そして。
再び。
ぶつかる。
男は。
その一つ一つを。
見ていた。
途中で。
指示を出すことはしなかった。
逃がすことも。
計画を中止することも。
しなかった。
ここまで。
来たのだ。
なら。
最後まで。
見る。
◇
セミ怪人は。
自分が作った。
五年間。
待たせた。
今日。
この日のために。
地中深く。
誰にも知られず。
誰にも見つからず。
ただ。
時を待たせた。
そして。
今。
その五年の果てで。
戦っている。
「…………」
男の手が。
わずかに。
握られた。
無意識だった。
◇
やがて。
その瞬間が来た。
◇
セミ怪人の反応が。
大きく乱れた。
「…………!」
男が。
わずかに身を乗り出す。
数値が。
落ちていく。
反応が。
弱くなる。
まだ。
消えてはいない。
だが。
戻らない。
回復しない。
男には。
分かった。
◇
負ける。
◇
五年前。
まだ。
幼虫だった。
地中へ送り出した。
五年間。
待った。
地上へ出た。
羽化した。
成虫になった。
予定された場所へ。
予定された時刻に。
送り出した。
そして。
今。
止められようとしている。
◇
「…………」
男は。
何もしなかった。
◇
助けることも。
逃がすことも。
しなかった。
◇
ただ。
見ていた。
◇
最後まで。
◇
そして。
反応が。
消えた。
◇
「…………」
室内が。
急に。
静かになったように感じた。
機械は。
今も動いている。
画面も。
消えてはいない。
それでも。
セミ怪人から返ってくるものだけが。
なくなった。
何度確認しても。
同じ。
反応なし。
五年前から始めた。
最初の計画。
そのために作った。
セミ怪人。
撃破。
◇
男は。
しばらく。
動かなかった。
◇
失敗。
そう呼ぶべきなのだろう。
作った怪人は。
倒された。
予定していた計画は。
最後まで。
遂行できなかった。
なら。
失敗だ。
それ以外に。
言いようがない。
だが。
「…………」
男は。
五年前に書いた紙を。
取り出した。
日付。
時刻。
場所。
今日。
この時。
この場所。
間違っていない。
そして。
そこへ。
止める者が。
現れた。
◇
「……そうか」
小さく。
声が漏れた。
◇
止められた。
◇
男は。
頭の中で。
その言葉を。
もう一度。
繰り返した。
◇
止められた。
◇
悔しい。
その感情は。
確かにあった。
自分が作ったものを。
倒された。
五年をかけた。
計画を潰された。
腹が立たないはずがない。
何も感じないはずがない。
だが。
その感情の。
さらに奥。
もっと。
認めたくない場所に。
別のものがあった。
◇
安堵。
◇
「…………」
男は。
目を閉じた。
認めたくなかった。
自分で始めて。
自分で作って。
自分で送り出して。
それを。
他人に止められて。
安心する。
そんなもの。
あまりにも。
身勝手だ。
自分勝手だ。
都合がよすぎる。
それでも。
胸の奥に生まれたものを。
完全に否定することは。
できなかった。
◇
五年前。
残した。
最後の良心。
日付。
時刻。
場所。
そして。
五年間という。
長い猶予。
誰かが。
それを受け取り。
今日。
ここへ来た。
そして。
セミ怪人を。
止めた。
「…………」
男は。
紙を。
長い時間。
見つめた。
◇
やがて。
別の通知が。
入った。
「…………?」
男の意識が。
現実へ戻る。
シロアリたち。
そうだ。
終わっていない。
セミ怪人は。
倒された。
だが。
予定外に生まれた問題が。
まだ。
一つ。
残っている。
◇
目撃者。
◇
長い髪。
赤いスカート。
幼虫体だったセミ怪人を。
予定より早く。
目撃した人物。
まだ。
見つかっていない。
◇
「捜索は」
確認する。
未発見。
「…………」
男は。
ほんの一瞬。
目を閉じた。
そして。
再び。
画面を見る。
「続けろ」
短く。
命じた。
◇
セミ怪人は。
倒された。
最初の計画は。
終わった。
だが。
すべてが。
終わったわけではない。
◇
むしろ。
今日。
一つ。
分かったことがある。
◇
止める者は。
存在する。
◇
五年前。
半ば。
自分自身に問いかけるように。
残した予告。
その問いには。
確かに。
答えが返ってきた。
◇
「…………」
男は。
五年前の紙を。
ゆっくりと。
しまった。
捨てなかった。
◇
そして。
新しい記録を開く。
そこへ。
結果を書き込んでいく。
予定どおり。
出現。
交戦。
撃破。
◇
最後に。
男の手が。
止まった。
ペン先が。
紙の上で。
わずかに浮く。
数秒。
考えた。
そして。
その下へ。
もう一つ。
書き加えた。
◇
――止める者、存在を確認。
◇
男は。
ペンを置いた。
◇
五年前。
一体の幼虫を。
地中へ送り出した日から始まった。
最初の計画。
それは。
今日。
終わった。
成功ではない。
セミ怪人は。
倒された。
計画は。
完遂できなかった。
結果だけを見れば。
失敗だ。
だが。
男の手元に残ったものは。
失敗だけではなかった。
◇
止める者がいる。
◇
その事実を。
男は。
初めて。
確認した。
◇
そして。
その事実が。
この先。
何を意味するのか。
今は。
まだ。
分からない。
◇
男自身でさえ。
まだ。
知らなかった。
◇
最初の計画は。
ここで。
終わる。
だが。
物語は。
まだ。
始まったばかりだった。
◇
後書き
黒幕側から描く物語、第一章最終話をお読みいただきありがとうございます。
五年前。
一体のセミ怪人の幼虫体を地中へ送り込んだところから始まった、最初の計画。
五年間の潜伏。
地上への出現。
羽化。
そして、あらかじめ予告していた日時と場所での行動。
途中では、幼虫体が予定外の目撃者に発見されるという誤算も起きました。
それでも黒幕は、本来の計画を変更せずに進めます。
そして最後に現れたのは――セミ怪人を止める者。
五年前、黒幕自身が残した「止められる可能性」は、現実のものとなりました。
セミ怪人は撃破され。
最初の計画は失敗に終わります。
しかし黒幕の中に残ったのは、悔しさだけではありませんでした。
自ら始めた計画を、自らが残した予告によって誰かに止められる。
その結果に、安堵してしまう。
そんな矛盾した感情もまた、この人物の一部です。
そして、幼虫体を目撃した人物の捜索はまだ続いています。
長い髪。
赤いスカート。
わずかな手掛かりだけを頼りに、シロアリたちは今も動いています。
これにて、黒幕側から描く物語の第一章は終了です。
最初の計画は終わりました。
ですが。
黒幕が残した記録には、すでに次へつながるものが残されています。
――止める者、存在を確認。
物語は、まだ続きます。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、基本設定および各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




