第3話 予定外
第3話 予定外
五年。
待った。
五年間。
誰にも知られず。
誰にも見つからず。
ただ、その日が来るのを待った。
そして。
地上へ出てから。
計画が狂うまでにかかった時間は。
あまりにも短かった。
◇
「二人……」
男は、幼虫体から送られてくる情報を確認していた。
人間が二人。
間違いない。
こちらを待ち構えていたわけではない。
計画を知っていたわけでもない。
おそらく。
ただの偶然。
たまたま。
幼虫体が地上へ出た場所に。
二人の人間が居合わせた。
「…………」
それだけなら。
まだ。
取り返しはつく。
◇
問題は。
どこまで見られたか。
幼虫体が土の中から這い出すところを見たのか。
それとも。
地上へ出た後に気づいたのか。
どれほど近くにいた。
どれほど長く見ていた。
何を見た。
何を覚えた。
分からない。
こちらから得られる情報も。
十分ではなかった。
幼虫体の目は。
まだ。
成虫のそれではない。
輪郭。
色。
動き。
見えてはいる。
だが。
正確ではない。
世界のすべてが。
水の中から覗いているかのように。
曖昧に滲んでいる。
「……見られた以上は」
男が呟く。
その先を。
口にはしなかった。
◇
五年前。
自分は予告を残した。
日付。
時刻。
場所。
これから起こすことを。
完全な不意打ちにはしない。
止められる可能性を残す。
それが。
自分に残った最後の良心なのだと。
そう考えた。
だが。
これは違う。
今日。
ここで。
幼虫体の存在を知られることは。
自分が与えた猶予ではない。
計画にもない。
予定にもない。
ただの事故だ。
◇
幼虫体の視界の中で。
二つの影が動いた。
一つ。
もう一つ。
幼虫体が反応する。
「…………」
男は。
黙って状況を見ていた。
そして。
一つの反応が。
消えた。
◇
「…………」
確認する。
一人。
動かない。
反応もない。
始末した。
男は。
そう判断した。
予定外の事態ではあった。
だが。
これで。
目撃者は――。
「……待て」
◇
まだ。
一人いる。
◇
動いている。
遠ざかっている。
幼虫体の視界から。
逃げようとしている。
「逃げたか」
男の声に。
初めて。
明確な苛立ちが混じった。
◇
一人は始末した。
少なくとも。
そう判断できる。
だが。
もう一人。
残った。
目撃者。
幼虫体を見た人間。
まだ。
生きている。
◇
男は。
幼虫体から送られてくる情報を拾った。
相手を追わせる。
その考えが。
一瞬。
頭をよぎる。
だが。
すぐに捨てた。
「……いや」
違う。
幼虫体には。
やるべきことがある。
◇
地上へ出る。
羽化する。
成虫になる。
そして。
予定された日。
予定された時刻。
予定された場所へ向かう。
それが。
この個体に与えた役割だ。
目撃者一人のために。
五年前から組み上げた計画を。
ここで変えるわけにはいかない。
◇
「お前は予定どおり進め」
男は。
静かに告げた。
目撃者は。
別に探せばいい。
そのための手段なら。
ある。
◇
まずは。
情報が必要だった。
誰だ。
どんな顔をしている。
何歳だ。
何を着ている。
どこへ逃げた。
拾えるものを。
できる限り拾わせる。
だが。
幼虫体の視覚は。
まだ完成していない。
ぼやけた輪郭。
動く影。
その程度しか。
認識できない。
「もっと何かないのか……」
男は。
映像を確認する。
一つ。
特徴らしいものがあった。
上から下へ。
長く流れる形。
「髪……か?」
長い髪。
だが。
それだけでは。
到底。
人間一人を特定できない。
さらに。
視界の中に。
一つの色が残っている。
赤。
「赤……」
位置を確認する。
下半身。
衣服。
「スカートか」
赤いスカート。
◇
それだけだった。
◇
「顔は」
情報がない。
「顔を確認できないか」
無理だった。
視覚そのものが。
まだ。
そこまで完成していない。
「…………」
男は。
小さく息を吐いた。
分かっていたことだ。
幼虫体なのだ。
これは。
欠陥ではない。
そういう段階にある。
羽化し。
成虫となれば。
完成する。
だからこそ。
地上へ出た直後。
まだ幼虫であるうちに。
人間に発見されることなど。
想定していなかった。
◇
名前。
分からない。
顔。
分からない。
年齢。
分からない。
分かっているのは。
長い髪。
赤いスカート。
そして。
幼虫体を目撃した。
それだけ。
◇
「…………」
男は。
五年前に作った計画を思い返した。
日付。
時刻。
場所。
そこまで。
自分から知らせた。
止められるものなら。
止めればいい。
そう思った。
だが。
それは。
予定された日に対して与えた猶予だ。
この目撃者は。
違う。
予定より早く。
知ってしまった。
こちらが意図しない形で。
◇
放置はできない。
だが。
セミ怪人を使うわけにもいかない。
この個体には。
本来の役割を。
予定どおり。
果たさせる。
なら。
捜索は。
別のものにやらせればいい。
◇
男は。
別の指示を出した。
動き始めたのは。
セミ怪人ではない。
シロアリ。
それを模した。
小型の雑兵たち。
一体ではない。
複数。
目立たず。
散らばり。
探す。
◇
与えられる情報は。
あまりにも少ない。
長い髪。
赤いスカート。
顔は不明。
名前も不明。
年齢も不明。
住所も不明。
「…………」
男自身。
分かっていた。
馬鹿げている。
そんな特徴に当てはまる人間が。
何人いると思っている。
まして。
赤いスカートなど。
明日も同じものを着ている保証すらない。
だが。
何もしないよりは。
いい。
「探せ」
男は命じた。
「長い髪」
そして。
「赤いスカート」
それだけ。
「該当する人間を探し出せ」
◇
シロアリたちが。
動き始める。
散っていく。
一人の目撃者を探すために。
◇
一方。
セミ怪人の幼虫体には。
別の時間が流れていた。
追わせない。
探させない。
この個体には。
予定された役割がある。
羽化。
まず。
それを終えなければならない。
成虫になる。
そして。
五年前に定めた。
その場所へ。
その時間に。
現れる。
◇
計画は。
狂った。
だが。
壊れてはいない。
男は。
そう判断した。
目撃者が一人。
残った。
なら。
それは別に処理する。
セミ怪人は。
予定どおり進める。
二つを。
分ければいい。
◇
男は。
最後にもう一度。
幼虫体が残した記録を確認した。
ぼやけた世界。
二つの人影。
一つは。
もう動かない。
そして。
もう一つ。
遠ざかっていく影。
長い髪。
赤いスカート。
それ以上。
何度確認しても。
情報は増えなかった。
◇
男は。
記録を閉じた。
「探せ」
名前はない。
顔もない。
手掛かりは。
たった二つ。
長い髪。
赤いスカート。
「見つけ出せ」
◇
五年間。
一度も狂わなかった計画。
その計画に。
初めて。
予定表には存在しない。
もう一つの命令が加わった。
セミ怪人は。
予定どおり。
羽化へ。
シロアリたちは。
予定外の目撃者を。
捜索する。
◇
男は。
まだ。
その人物の名前を知らない。
顔も知らない。
どこに住んでいるのかも。
何者なのかも。
知らない。
知っているのは。
長い髪。
赤いスカート。
ただ。
それだけ。
そして。
その人物が。
アズマという名であることも。
この時点では。
まだ。
知らなかった。
◇
後書き
黒幕側から描く物語、第3話をお読みいただきありがとうございます。
五年間、予定どおりに進んでいた計画。
しかし地上へ出た幼虫体は、予定外の二人に発見されてしまいました。
一人は始末したと判断。
しかし、もう一人の目撃者を逃してしまいます。
残された手掛かりは、「長い髪」と「赤いスカート」だけ。
しかし、セミ怪人には本来の役割があります。
羽化し、成虫となり、あらかじめ定められた計画を実行すること。
そのため、目撃者の捜索には別の存在――シロアリの雑兵たちが動き始めます。
予定どおり進むセミ怪人。
予定外の目撃者を探すシロアリたち。
ここから二つの動きが、同時に進み始めます。
次回もお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、基本設定および各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




