第2話 五年後――地上へ
第2話 五年後――地上へ
五年。
言葉にしてしまえば。
たった二文字だ。
だが。
待つ者にとって。
五年という時間は。
決して短くない。
◇
春が来た。
夏が来た。
秋になり。
冬が来た。
そして。
また春が来る。
季節は何度も巡った。
地上では。
人が出会い。
人が別れ。
新しい建物ができ。
見慣れた店がなくなった。
子供は成長し。
大人は歳を取り。
昨日まで当たり前だったものが。
少しずつ。
別のものへ変わっていく。
五年。
世界は。
止まることなく。
動き続けていた。
だが。
その地面の下では。
一つの存在が。
ずっと。
同じ時を待ち続けていた。
◇
暗い。
光はない。
地上の景色など。
見えるはずもない。
あるのは。
土。
湿気。
張り巡らされた植物の根。
大小の石。
地上から、わずかに伝わってくる振動。
それだけの世界。
その中で。
セミ怪人の幼虫体は。
生きていた。
誰にも知られず。
誰にも発見されず。
五年前。
送り込まれたその場所で。
ただ。
時が満ちるのを待っていた。
◇
そして。
その日が来た。
◇
「…………」
男は時計を見た。
五年前にも。
同じように時刻を確認した。
あの日。
幼虫体を地中へ送り出した。
誰にも知られず。
誰にも見つからず。
五年間。
地中で過ごさせるために。
そして。
今日。
その五年が。
終わる。
「そろそろか」
静かな声だった。
興奮しているようには聞こえない。
だが。
男の視線は。
時計から離れなかった。
◇
予定は。
変えていない。
日付。
時刻。
場所。
五年前に決めたものは。
そのままだ。
あの日。
書き記した予告も。
変えていない。
変えるつもりもなかった。
今日。
幼虫体は。
地中から地上へ出る。
だが。
それはまだ。
完成ではない。
地上へ出た幼虫体は。
羽化する。
成虫になる。
そして。
そこから。
本来の計画が。
次の段階へ進む。
◇
男は。
待った。
五年間。
何も起きなかった。
それでいい。
むしろ。
何も起きないことこそ。
計画どおりだった。
幼虫体が地中にいる間。
その存在は。
誰にも知られていない。
誰にも見つかっていない。
五年前。
地中へ送り出したときと同じ。
秘密は。
守られたままだった。
少なくとも。
今日までは。
◇
地表の一部が。
わずかに。
盛り上がった。
◇
ぱら。
小さな土の粒が。
崩れ落ちる。
それだけ。
再び。
静かになる。
風が。
地表を撫でていく。
何事もなかったように。
時間だけが過ぎる。
だが。
次の瞬間。
ぼこっ。
土が。
内側から。
押し上げられた。
◇
何かが。
いる。
地面の下に。
何かが。
そして。
土の中から。
ゆっくりと。
それが姿を現した。
◇
五年前。
地中へ消えていったもの。
セミ怪人。
その。
幼虫体。
◇
五年という時間を経ても。
まだ。
成虫ではない。
翅もない。
完成された姿でもない。
今。
地上へ出たのは。
成虫になるためだ。
これから。
羽化する。
◇
幼虫体にとって。
地上は。
五年の時を経て初めて触れる。
まったく別の世界だった。
光。
音。
空気。
風。
地面を伝わる振動。
地中とは比較にならないほど。
膨大な情報が。
一度に。
流れ込んでくる。
だが。
まだ。
目は完全ではない。
輪郭が。
ぼやける。
色が。
滲む。
近くにあるものと。
遠くにあるもの。
その区別さえ。
曖昧になる。
世界は。
形を持ちながら。
まだ。
正確な意味を持っていなかった。
それでも。
幼虫体は。
進んだ。
◇
羽化する。
それが。
今。
行うべきことだった。
場所を探す。
身体を動かす。
土にまみれた身体で。
地面を這う。
一歩。
また。
一歩。
五年間。
地中にいた存在が。
初めて。
地上を進んでいく。
◇
ここまでは。
予定どおりだった。
◇
男も。
そう認識していた。
五年間。
異常なし。
地上への出現。
予定どおり。
幼虫体の状態。
正常。
次は。
羽化。
そして。
成虫へ。
五年前に決めた計画は。
予定された道を。
正確に進んでいる。
そう。
思っていた。
◇
だから。
最初。
その反応が。
何を意味しているのか。
すぐには分からなかった。
「…………?」
幼虫体から。
予定にない反応が返ってきた。
男の目が。
わずかに細くなる。
確認する。
異常。
いや。
違う。
故障ではない。
幼虫体そのものに。
問題が起きたわけでもない。
なら。
何だ。
もう一度。
反応を確認する。
「…………」
外部。
幼虫体の近くに。
何かがいる。
◇
「……まさか」
男が。
小さく呟いた。
◇
その瞬間。
幼虫体の。
まだ不完全な視覚が。
何かを捉えた。
◇
形。
一つ。
いや。
違う。
二つ。
◇
人間。
◇
「…………」
男は。
動かなかった。
五年前。
計画を始めた日。
考えられる限りの可能性を確認した。
問題になり得るものを潰した。
誤差を減らした。
そして。
五年間。
何も起こらなかった。
誰にも。
見つからなかった。
誰にも。
知られなかった。
なのに。
今日。
地上へ出た。
その直後。
二人の人間に。
見つかった。
◇
予定にはない。
まだ。
成虫ではない。
まだ。
事件を起こす段階ではない。
まだ。
存在を。
知られていい時ではない。
なのに。
二人。
いる。
◇
幼虫体の目には。
はっきりとは映らない。
ぼやけた。
二つの影。
輪郭は曖昧。
顔など。
判別できない。
その一つが。
動いた。
もう一つも。
動く。
幼虫体が。
それに反応した。
「待て」
男の口から。
思わず。
声が漏れた。
◇
だが。
五年前。
紙の上に書いた計画には。
この瞬間は。
存在していなかった。
◇
この日。
五年間。
一度も狂わなかった計画に。
初めて。
予定外の出来事が起きた。
セミ怪人の幼虫体は。
地上へ出た。
それ自体は。
予定どおり。
だが。
そこで。
二人の人間に。
発見された。
◇
まだ。
男には分からない。
この遭遇が。
何を残すのか。
この二人が。
計画に。
何をもたらすのか。
そして。
幼虫体の。
まだ完成していない目が。
二つの影のうち。
一つを。
わずかな情報として。
捉え始めていた。
◇
長く見える。
髪。
そして。
その下に。
滲む。
一つの色。
赤。
◇
顔は。
分からない。
名前も。
当然。
分からない。
ただ。
赤。
それだけが。
ぼやけた世界の中で。
妙に。
鮮明に残った。
◇
後書き
黒幕側から描く物語、第2話をお読みいただきありがとうございます。
第1話から五年。
地中で誰にも発見されることなく時を過ごしてきたセミ怪人の幼虫体が、ついに地上へ姿を現しました。
ここまでは、五年前から決められていた計画どおり。
しかし、羽化して成虫になる前に、予定には存在しなかった二人の人間と遭遇します。
まだ視覚すら完全ではない幼虫体。
その目に映ったのは、はっきりとした顔でも名前でもありません。
ぼやけた人影と。
その中に残った、一つの「赤」。
五年間狂うことのなかった計画は、地上へ出たその日に、初めて予定から外れ始めます。
次回、その遭遇が何を引き起こすのか。
引き続きお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、基本設定および各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




