↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒幕の物語  作者: 時根脱才 
モズキャッチャー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/20

第四話 コピーとオリジナル

第四話 コピーとオリジナル


「戦闘開始」


研究員の声とともに、画面上の数値が次々と変化した。


ミラカメレオンと、人間側の特殊部隊。


これまでの実地試験とは違う。


相手は最初から怪人との戦闘を想定している。


「記録を優先しろ」


男が言った。


「はい」


ミラカメレオンが動き、特殊部隊も応戦する。


これまで相手にしてきた警察官とは、明らかに動きが違った。


距離を取る者。


正面から注意を引く者。


別方向から狙う者。


それぞれが勝手に動いているのではなく、部隊として連携している。


「やはり通常の警察とは違いますね」


「その方がいい。実戦でなければ取れないデータがある」


男は画面から目を離さなかった。


◇


ミラカメレオンが対象を認識する。


変化。


姿を写し、その特徴を自分のものとして再現する。


研究員が数値を確認した。


「コピー機構、正常です」


「精度は?」


「想定範囲内です」


問題ない。


研究室で確認したものと同じ。


実戦環境でも、コピーそのものは正常に機能している。


特殊部隊が攻撃方法を変える。


ミラカメレオンも、コピーした能力で応戦する。


攻撃。


防御。


回避。


少なくとも、能力そのものが不足しているわけではない。


「やはり使えるな」


「はい。実戦環境でもコピー精度に大きな低下はありません」


それでも、戦闘は終わらない。


◇


男は次第に、一つの違和感を覚えていた。


「今の行動を戻せ」


「はい」


映像が少し巻き戻される。


ミラカメレオンが攻撃を受け、コピーした能力で応戦する。


相手が回避。


ミラカメレオンは、もう一度同じ能力を使った。


「ここだ」


映像を止める。


「別の能力も使えたはずだな」


「はい」


「なぜ切り替えなかった?」


研究員が記録を確認する。


「使用中の能力で対応可能と判断したものと思われます」


「対応可能、か」


確かに使えないわけではない。


間違った能力でもない。


だが、もっと適した方法があった。


「最適ではない」


「……はい」


研究室で見え始めていた問題。


コピーはできる。


能力も使える。


だが、その能力をどう使うか。


そこが弱い。


◇


戦闘が続く中、研究員が新たな反応を捉えた。


「別の対象が接近しています」


「特殊部隊の増援か?」


「違います」


画面が切り替わる。


男の目が細くなった。


「キッドか」


「はい」


予定していたわけではない。


だが、これ以上ない実験相手だった。


「撤退させますか?」


「いや」


男は椅子へ深く座った。


「続行だ」


「しかし――」


「何のためにコピー能力を作ったと思っている」


相手の姿を写す。


相手の能力を写す。


ならば、最も価値のある対象を写せばいい。


「キッドをコピーさせろ」


「分かりました」


◇


ミラカメレオンがキッドを認識する。


変化。


姿。


特徴。


そして、能力。


研究員たちが一斉に数値を確認した。


「コピー反応、正常」


「能力は?」


「再現されています」


男の口元がわずかに動いた。


成功。


少なくとも、コピー機構そのものはキッドを相手にしても機能する。


「どこまで戦えるか見せてもらおう」


画面の中で、オリジナルとコピーが向かい合った。


◇


最初のうちは、大きな差があるようには見えなかった。


同じ系統の能力。


似た動き。


ミラカメレオンは、キッドが持つ力を再現している。


「出力差は?」


「極端な差はありません」


「反応速度は?」


「想定範囲内です」


数値だけなら、致命的な差は見当たらない。


それなのに。


戦闘が続くにつれて、少しずつ差が開いていく。


キッドが能力を使う。


ミラカメレオンも使う。


同じ力を持っているはずなのに、結果が違う。


「……止めろ」


映像が止まる。


男はキッドの動きを見る。


「こいつは、何をした?」


「能力を使用して――」


「その前だ」


映像を戻す。


キッドは、ただ能力を発動したのではない。


位置を変えている。


相手の動きを見ている。


距離を調整している。


そのうえで能力を使っている。


「次」


映像を進める。


別の場面。


キッドが違う能力へ切り替える。


「なぜここで変えた?」


「状況に合わせたものと思われます」


「ミラカメレオンは?」


「同じ判断はしていません」


男は黙った。


◇


能力の差ではない。


コピーの精度でもない。


もっと別のものだった。


キッドは、自分の持つ能力をそのまま使っているわけではない。


相手との距離。


動き。


周囲の状況。


自分の位置。


次に何をするのか。


それらを見ながら、使う能力を選んでいる。


さらに、同じ能力でも状況によって使い方を変える。


「経験か」


男が呟いた。


「経験?」


研究員が聞き返す。


「能力だけを持っていても、同じにはならない」


キッドには戦ってきた経験がある。


格闘技もある。


自分の身体の使い方を知っている。


そして、これまで使ってきた能力の特徴も理解している。


それらを組み合わせて戦っている。


対して、ミラカメレオンは能力をコピーした。


ただ、それだけだった。


「コピーできるのは能力までか」


男が言った。


「経験までは写せない」


画面の中で、その差が結果として現れ始めていた。


◇


ミラカメレオンが別の能力を使う。


キッドが対応する。


さらに別の方法を使っても、キッドはそれに対応していく。


「切り替えが遅い」


「はい」


「判断も単純だ」


「はい」


「能力そのものは使えている?」


「数値上は問題ありません」


「なら、問題はそこだ」


能力ではない。


判断。


応用。


経験。


コピーしたものを、どう使うか。


それが足りない。


「記録しろ。コピー機構は成功。戦術的応用力に問題あり」


「記録しました」


男は画面を見続けた。


「まだ終わっていない。最後まで取れ」


「はい」


◇


やがて、決着がついた。


ミラカメレオンが倒れる。


研究室に短い沈黙が流れた。


「……敗北しました」


「ああ」


男の声に落胆はなかった。


「回収は?」


「現状では困難です」


「構わん」


「ですが、実験体を失いました」


男は画面に残ったデータを見る。


「実験体はな」


必要なものは、すでに得ている。


コピー機構は使える。


強盗。


侵入。


攪乱。


特殊工作。


そこでは十分な成果を出した。


戦闘でも、能力そのものは再現できた。


問題は、コピーした能力を使う側だった。


「一体でオリジナルを超えさせる必要はない」


研究員が顔を上げる。


「と、言いますと?」


「この機構は使える」


「ですが、ミラカメレオンはキッドに敗れました」


「だから何だ。コピーそのものが失敗したわけではない」


男は、これまでの実地試験結果を表示した。


「特殊工作では十分使える。なら、その用途で使えばいい」


「はい」


「それに、一体へすべてを持たせる必要もない」


男は別のデータを開いた。


そこに表示されたのは、量産を前提とした怪人の記録。


「コピー機構を簡略化できないか調べろ」


「廉価版を作る?」


「ああ」


完全なコピーは必要ない。


持続時間も。


精度も。


コピーできる能力の数も。


落として構わない。


「シロアリ型のような量産個体へ混ぜられる程度まで落とせ」


「量産型へコピー能力を?」


「一体一体がキッドを超える必要はない」


男は言った。


「群れの中に、能力を写す個体が混じっている。それだけでも人間側は対応を変えなければならない」


研究員が頷く。


「攪乱には十分ですね」


「そういうことだ」


ミラカメレオンは倒された。


だが、研究は失敗していない。


むしろ、使い道が見えた。


◇


男は最後に、戦闘記録をもう一度見る。


キッド。


コピー。


同じ能力。


違う結果。


「能力を与えるだけでは足りない、か」


怪人にどう判断させるのか。


どう応用させるのか。


どう経験を使わせるのか。


新しい課題。


それも、今回の実験から得られた成果だった。


「次へ進めろ」


「はい」


研究員たちが動き始める。


男も画面を閉じようとした。


その時だった。


「……待ってください」


一人の研究員が声を上げる。


「何だ?」


「現場に、別の反応があります」


男が画面を見る。


ミラカメレオンは、もう倒れている。


キッドとの戦闘も終わった。


それなのに、誰かがそこへ近づいてくる。


映像が切り替わった。


男の表情が、わずかに変わった。


「……ヨミ?」


実験は、まだ終わっていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。