第一話 六体の結果
第一話 六体の結果
結果だけを見れば、成功率は三分の一だった。
用意した人間体は六体。そのうち、期待した水準に達したのは二体だけ。
女性タイプと、ヨミ。
残る四体は、求めていた結果を示さなかった。
薄暗い研究室の中、男は並んだ記録を順番に確認していた。
数値、反応、変化後の身体能力、安定性、戦闘への適応。
どの項目を見ても、結論を覆すだけの材料はない。
「二体、か」
声に感情はほとんどなかった。
成功した二体が喜ばしいわけでも、失敗した四体が惜しいわけでもない。
必要なのは結果だけだった。
女性タイプは想定以上の身体能力を示した。人間として持っていた性質を残しながら、怪人としての力を獲得している。
ヨミも同様だった。
少なくとも、この二体については、人間体を利用する方式そのものが間違っていなかったことを証明している。
問題は、その確率だった。
六体使って、二体。
成功した二体だけを見れば悪くない。だが、同じ方法を繰り返せば、同じ割合で成功する保証などない。
それ以上に、人間を使うという方法そのものが面倒だった。
個体差が大きい。
同じ処置をしても、同じ結果にならない。
肉体だけではなく、精神状態、元々持っている性質、変化への適応。
結果を左右する余計な要素が多すぎる。
「効率が悪いな」
男はそう呟いた。
◇
扉が開き、研究員が入ってきた。
「残りについては?」
男は画面から目を離さなかった。
「必要ない」
「では……」
「廃棄しろ」
短い指示だった。
研究員も、それ以上は聞かなかった。
「分かりました」
扉が閉じる。
男は再び記録を見る。
六体。
これですべて使った。
成功は二体。失敗は四体。
人間体を利用すれば、単純な怪人とは違う結果が得られる。それ自体は確認できた。
だが、研究として考えれば、成功したかどうかだけでは足りない。
再現できなければならない。
安定して作れなければならない。
一体作るたびに結果が変わるようでは、兵器としても研究成果としても扱いにくい。
「人間である必要はないか」
男は椅子へ深く座った。
怪人そのものを作り、必要な性質を最初から与える。
その方が管理しやすい。
何より、失敗した時に惜しむ必要がない。
◇
しばらくして、別の研究員が資料を持ってきた。
「次期実験体の候補です」
男は資料を受け取り、そこに並ぶ生物の特徴と能力への転用案を一枚ずつ確認していく。
やがて、一枚の資料で手が止まった。
「カメレオン」
「はい。周囲に合わせて体色を変化させる性質があります」
「それだけでは面白くない」
「と、言いますと?」
男は資料へ目を落とした。
「色を変えるだけなら、迷彩でいい」
必要なのは、もっと直接的なもの。
相手に合わせる。
相手そのものへ変わる。
「姿だけではない。能力まで写せないか?」
研究員が少し黙った。
「コピー、ですか」
「そうだ」
相手の姿を写す。
相手の能力を写す。
戦う相手によって、自分の能力を変える怪人。
成功すれば、一体で複数の役割を持たせられる。
戦闘だけではない。
潜入、偽装、攪乱。
使い道はいくらでもある。
「試す価値はある」
「分かりました」
男はカメレオンの資料を横へ置いた。
「もう一つは?」
研究員が次の資料を出す。
そこに記されていたのは、ネズミだった。
「これは?」
「複数個体の同時運用を前提とした案です」
男は資料へ目を落とす。
「同時運用」
「はい。一体の性能を極端に高くするのではなく、一定の戦闘力を持つ個体を複数用意します」
「目的は?」
「複数地点での同時作戦です」
研究員は続けた。
「現状、キッドは一人です。一体の強力な怪人を投入すれば、キッドはその地点へ向かう可能性が高い。しかし、同時に複数の場所で事件を起こせば――」
「すべてには対応できない」
「はい」
男はネズミの資料を見る。
一体でキッドを倒す必要はない。
それぞれが別の場所で、一定時間作戦を遂行できればいい。
キッドを一地点へ引きつける。
その間に、別の地点で別の作戦を進める。
二体なら二か所。
三体なら三か所。
数が増えるほど、人間側は対応する戦力を分散させなければならなくなる。
「面白い」
男は資料を机へ置いた。
「カメレオンと同程度の性能は必要ない」
「どの程度を想定しますか?」
男は少し考えた。
「半分でいい」
研究員が顔を上げる。
「半分?」
「ああ。その代わり五体作れ」
「五体……」
「一体を強くする必要はない。ただし、単独で作戦を遂行できる程度の戦闘力は持たせろ」
「分かりました」
「五体を五か所へ置けば、キッドが直接対処できるのは一か所だ」
男は資料を閉じた。
「残りをどう処理するかは、人間側の問題になる」
研究員が頷く。
「では、ネズミ型は単独性能を抑え、分散運用を前提に五体」
「ああ」
「カメレオン型はコピー能力を中心に、一体の完成度を高める」
「それでいい」
方向性は正反対だった。
一体へ特殊な能力を集中させるカメレオン。
一定の性能を持つ個体を複数作り、場所そのものを分散させるネズミ。
だからこそ、比較する価値がある。
「両方進めろ」
「分かりました」
研究員は資料をまとめた。
◇
人間体の実験は終わった。
少なくとも、今は続ける必要がない。
女性タイプとヨミ。
二体の成功例から得られるものは、まだある。
だが、同じものを作り続ける必要はなかった。
もっと安定した方法。
もっと扱いやすいもの。
そして、もっと効率のいい兵器。
それを作ればいい。
研究室を出ようとした研究員を、男が呼び止めた。
「一つ」
「はい」
「カメレオン型は、姿を真似るだけでは意味がない」
「能力まで」
「可能な限りな」
「分かりました」
研究員が出ていく。
静かになった研究室で、男はもう一度、人間体実験の結果を表示した。
六体。
成功、二体。
失敗、四体。
その数字を数秒眺める。
そして画面を閉じた。
終わった実験に、いつまでも興味はない。
次に必要なのは、相手を写すもの。
そして、同時に複数の場所で動けるもの。
新しい実験が始まろうとしていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




