第四話 実戦試験
第四話 実戦試験
第三被験者の捜索を白蟻たちへ任せてからも、博士は実験を止めなかった。
サクラは逃げた。
だが、肉体改造そのものは成功している。
人間としての知性も、記憶も、判断力も残った。
あとは見つけ出し、連れ戻し、未完了の脳処置を施せばいい。
それよりも。
今の博士には、確かめたいものがあった。
「もう一度だ」
実験室中央に立つ男が、無言でベルトへ手を伸ばした。
第4被験者。
ヨミ。
サクラの失敗を踏まえ、今度は先に脳処置を施した。
人間としての判断能力を利用しながら、最終的な命令には逆らえないようにする。
そのうえで博士は、さらに新しい試みを加えた。
キット。
これまで幾度となく戦闘を観察してきた、正体不明の戦士。
ベルトへメモリーを装填し、状況に応じて異なる生物の力を使い分ける。
一体で、複数の戦況へ対応する。
博士が従来型怪人に感じていた欠点への、一つの答えだった。
ならば。
同じものを作ればいい。
その発想から生まれたのが、ヨミだった。
「ワシを使え」
「了解」
ヨミが一本のメモリーを手に取った。
ベルトへ装填する。
直後。
人間だった輪郭が、大きく崩れた。
黒い羽毛が全身を覆う。
腕も。
脚も。
人間の形から遠ざかっていく。
頭部は鋭い嘴を持つワシそのものへ変わり、背中からは巨大な翼が広がった。
両手両足には、肉を引き裂くための巨大な鉤爪。
黒い羽毛の隙間には、亀裂のような赤い線が禍々しく走っている。
腰に残された二つのホルダーを持つベルトだけが。
それが先ほどまでヨミだったことを示していた。
「…………」
博士は眉を寄せた。
「またか」
研究員がモニターを確認する。
「各数値、正常です。飛行能力、筋出力、視覚能力、いずれも想定値を上回っています」
「数値の話ではない」
博士が別のモニターを開いた。
そこには、過去に記録されたキットの戦闘映像。
同じワシの力。
しかし。
キットは人間型の輪郭を維持している。
人の姿を土台にして、ワシの能力だけを取り込んでいるように見える。
一方。
ヨミは違う。
「怪人そのものになる」
博士が呟いた。
調整はした。
何度も。
ベルトも。
メモリーも。
肉体側も。
それでも結果は変わらない。
ヨミがメモリーを使えば、モチーフとなった存在そのものが身体を侵食するかのように、怪人へ変貌する。
「なぜ同じ形にならない……」
「博士」
研究員が慎重に口を開いた。
「本当に、同じ形である必要があるのでしょうか」
博士が振り返る。
「何?」
「性能そのものは、成功しています」
モニターへ数値が並んでいる。
「ワシのメモリー使用時、飛行能力は安定。鉤爪の出力も十分です。別のメモリーへの切り替え試験にも成功しています」
「…………」
「博士が当初求めていたのは、一体でさまざまな作戦へ対応できる個体だったはずです」
博士は黙った。
確かに。
そうだった。
動物主体の怪人は、その動物の本能に引っ張られる。
さらに、一体ごとに用途が限定される。
だから。
人間を主体にした。
状況を判断し。
必要な能力を選択し。
作戦ごとに役割を変えられる怪人。
それを求めた。
ヨミは。
できている。
キットと同じ姿にはならない。
だが。
ワシが必要ならワシになる。
別の力が必要なら、別の怪人へ変わる。
そして命令にも従う。
「……なるほど」
博士は椅子へ座り直した。
「再現には失敗したが、目的には成功したということか」
「はい」
博士は、ワシ怪人となったヨミを見る。
しばらく考え。
小さく笑った。
「ならば問題ない」
同じである必要などない。
優れていればいい。
「解除しろ」
「了解」
ヨミの身体が収縮していく。
巨大な翼が消える。
鉤爪が人の手足へ戻る。
ワシの頭部が崩れ。
やがて。
黒と赤を基調としたボディースーツ。
覆面レスラーを思わせるマスク。
口元だけが人間の肌を覗かせた、ヨミの基本形態へ戻った。
腰には。
二つのホルダーを持つベルト。
「ヨミ」
「はい」
「痛みは?」
「ありません」
「変化中の意識は?」
「明瞭です」
「違和感は?」
「ありません」
博士は生体データを確認する。
現時点では。
問題なし。
「よし。次は――」
そこで。
研究室の端から電子音が鳴った。
「博士!」
研究員の一人が立ち上がる。
「第三被験者を発見しました」
博士の手が止まった。
「場所は」
モニターへ座標が表示される。
同時に。
捜索中の白蟻から送られてきた映像が開いた。
そこに。
サクラがいた。
「ようやく見つけたか」
「回収部隊を向かわせますか?」
「ああ。命令は変わらない」
博士は即答した。
「生け捕りだ。殺すな」
「了解」
「必要以上に傷つけることも許可しない。第三被験者は完成寸前の成功例だ」
肉体はできている。
精神も残った。
あとは。
脳処置だけ。
「回収後、すぐに処置へ移れるよう準備しておけ」
「はい」
白蟻部隊へ命令が送られる。
博士は。
それで終わると思っていた。
◇
やがて。
現場から新たな映像が届いた。
「博士」
「何だ」
「第三被験者の近くに、別の反応があります」
「白蟻ではないのか」
「違います」
映像が拡大される。
博士の目が細くなった。
「……キット」
いた。
これまで何度も観察してきた戦士。
キット。
さらに。
周囲には別の人間たちまで集まり始めている。
白蟻部隊が動く。
キットが迎え撃つ。
そして。
人間たちも武器を手に戦い始めた。
「人間が……」
研究員が画面を見る。
「白蟻と交戦しています」
「見れば分かる」
「以前とは違います。明らかに対怪人戦を想定した装備と動きです」
「組織化したか」
博士が身を乗り出した。
興味深い。
キットだけではない。
人間側も。
怪人という存在へ適応し始めている。
そして。
第三被験者までいる。
白蟻。
サクラ。
キット。
人間側の戦闘部隊。
これだけの材料が、一か所に集まっている。
「…………」
博士はゆっくりと振り返った。
そこには。
完成したばかりの第4被験者が立っている。
「ヨミ」
「はい」
返事は短い。
博士の口元が上がった。
「ちょうどいい」
◇
「実戦投入するのですか?」
研究員が尋ねる。
「ああ」
「まだ調整段階です」
「だからこそだ」
博士はヨミの実験データを開いた。
実験室で分かることには限界がある。
飛べる。
走れる。
攻撃できる。
メモリーを切り替えられる。
それだけでは。
本当に使えるかどうかは分からない。
予測不能な相手。
刻々と変化する状況。
そして。
実際にこちらを倒そうとしてくる敵。
その中でこそ。
本当の性能が見える。
「実戦データが欲しい」
博士はキットを映した。
「しかも、相手としてこれ以上の材料はない」
ヨミを作る際。
参考にした存在。
キット。
同じメモリーを使う二つの個体。
その両者を戦わせる。
「比較実験としては理想的だ」
博士が通信回線を開く。
「ヨミ」
「はい」
「初任務だ」
ヨミの顔が僅かに上がった。
「命令は二つある」
最初に。
サクラの映像を表示する。
「第一。第三被験者を回収しろ」
「了解」
「殺すな。生きたまま連れ戻せ」
「了解」
次に。
博士は画面を切り替えた。
キット。
「第二」
博士の声に。
わずかな高揚が混じる。
「こいつと戦え」
ヨミが画面を見る。
しばらく。
何も言わない。
「キット……」
「そう呼ばれている」
博士は過去の戦闘データをヨミへ送った。
「倒す必要はない。交戦し、可能な限り能力を使わせろ」
「…………」
「お前もメモリーを使え。こちらで双方のデータを取る」
ヨミの視線は。
キットから離れない。
「つまり」
ヨミが初めて自分から口を開いた。
「俺が、こいつとどこまで戦えるかを見たいと」
「そうだ」
博士は笑った。
「お前とキット。同じメモリーを扱う二つの個体が、実戦でどう違うのか」
これ以上ない実験だ。
「第三被験者を回収しろ。そして、可能な限りキットとの交戦を継続しろ」
「了解」
ヨミは短く答えた。
◇
出撃準備が始まった。
ヨミはベルトを装着したまま、施設の出口へ向かう。
博士はその背中を見ていた。
「博士」
「何だ」
「第三被験者の回収を最優先するのであれば、キットとの交戦は避けた方が確実では?」
「確実だろうな」
「では、なぜ」
「機会を捨てる理由がない」
博士は現場映像を見る。
サクラ。
キット。
白蟻。
人間側の戦闘部隊。
「第三被験者は一度逃げた。もう一度逃走する可能性もある」
「はい」
「ならば回収要員を増やすこと自体に問題はない」
そして。
キットへ画面を切り替える。
「そのうえで、実戦試験までできる」
「…………」
「一度に二つ済む」
博士にとって。
それだけの話だった。
◇
ヨミが施設を出る。
博士は研究室へ戻り、計測システムを立ち上げた。
「ヨミの生体データを常時取得」
「開始します」
「ベルト出力」
「正常」
「メモリーとの同期率」
「安定しています」
「現場映像を全系統へ」
「了解」
次々とモニターが点灯する。
「キット側も取れるデータは全て取れ」
「はい」
中央の大型モニター。
そこには。
戦場に立つキットが映っている。
博士は腕を組んだ。
キット。
ヨミ。
一方は。
自分が観察し、研究し。
再現しようとした存在。
もう一方は。
そのデータをもとに、自分が作った存在。
同じメモリーを使いながら。
違う姿になる。
「さて……」
どちらが優れている。
どちらが強い。
そして。
何が違う。
「見せてもらおう」
博士は小さく笑った。
「私の作ったものが、どこまで通用するのか」
◇
その頃。
現場へ向かうヨミは。
博士から送られたキットの映像を、一人で見ていた。
「…………」
命令は二つ。
第三被験者。
サクラの回収。
そして。
キットとの交戦。
映像の中。
キットがメモリーを使う。
姿を変え。
怪人と戦う。
「…………」
ヨミは。
その姿をじっと見つめていた。
博士に命じられたから。
それだけで見ているようには。
見えなかった。
「キット……」
名前を口にする。
一度。
そして。
もう一度。
「……キット」
確かめるように。
覚えるように。
その名を呟く。
やがてヨミは通信画面を閉じた。
その口元には。
僅かな笑みが浮かんでいた。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




